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★追記部分★
大地の章【改編ルート(コーネリア各ルート)】
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★アレンルート★
アレンと思い付きで始めた孤児院の作物改良は大成功した。我がことながらこれは凄い。
やはり、魔法は偉大ね。遺伝子改良技術なんてないのにアレンの土魔法で作った土壌がなんやら同じようなことをしてしまったらしい。従来の常識を覆すような素晴らしい作物が出来上がってしまった。
まあ、私は遺伝子の組み合わせの考えを出しただけで、ほとんどアレンの成果と言ってもいいだろう。冗談めかして私達の子供ね、と言ったら彼はその巨体が縮んだように見えるほど照れていたが。その様が初心な少年のようで少し可愛く見えた。
しかし、問題はそれからだったのだ。
私が知らないうちに、お父様はこの作物の情報を手に入れていたらしい。
そして、実直でそこらへんに疎いゴーレスタ公爵家を口八丁に説き伏せると、明らかに利益の分配のおかしい契約を結んでしまっていた。
それに気づいた私はお父様に対して連日のように抗議を言いに行く。正当な対価を得るならばいい。だが、これは明らかにやり過ぎだ。
最初は可愛い娘の癇癪だと宥めていたお父様も理路整然と痛いところを突く私に対し次第に熱くなっていき口論は激化していった。
弟は次期当主としてお父様の援護をしようとするが、人生経験の浅い彼の論理をぐうの音も出ないほどに滅多打ちにすると、すぐに関わらなくなった。
お母さまはオロオロとして、どうしていいかわからないようだが心を鬼にしてそれを視界にいれないようにする。
家族は好きだ。だが、ここだけは私の誇りにかけて譲れない。相手が商人ならば何も言わない。でも、ゴーレスタ公爵家は明らかにそれとは違う。この国の食糧事情の改善に昔から取り組み、それを独占することなく提供してきた真面目な家だ。
彼らだけがその性格故に不利益を被るなんてのは私のポリシーに反する。お父様がやったわけじゃない、私が手を出したものなら最後まで責任はきっちり取らなくては。そもそもゴーレスタ公爵家の魔法が無ければ作ることさえできないのだから。
そして、口論を繰り返し続けていると私はついに軟禁されてしまう。恐らく事業が軌道に乗るまでの時間稼ぎだろう。
一度動き出してしまえば多くの人が関わる。私の性格的に、その中に職を失うような人が組み込まれてしまえば引かざるを得ないとお父様は考えているのだろう。
流石は海千山千の商人、痛いところを突いてくる。
だが、これくらいで諦めるわけには行かない。要は事業が始まる前に止めてしまえばいいのだ。契約書を見たが、まだ間に合う。
生産が停止した場合の損害補償は当然盛り込まれていたが、まだ市場に出ていないものの損害なんて計算のしようがない。その前に止める。
私がここまでするとは思っていなかったのだろう。鉄格子の嵌められた窓を魔法で吹き飛ばし、引き止める領兵を水で押し飛ばし、馬を奪うと私はゴーレスタ公爵領に逃亡した。
そして、アレンの家に着くと驚く彼に事情を説明して手伝ってもらった。
すぐに作物の生産を停止、出荷できないように全量抑える。お父様が私の脱走を聞きつけ、手を伸ばすころには全てが終わっていた。
あの人が既にこの作物出荷のための航路や陸路の使用権及び人員を確保していることは知っている。このままでは膨大な損害が発生してしまうことにすぐ気づくだろう。
だから、折れてくるのをそれまで待てばいい。援軍の来ない籠城戦をするタイプではないのは知っているのだから。
ゴーレスタ公爵家で世話になり、畑を耕しているとアレンが近づいてきた。
「屋敷にいて下さってもぜんぜんかまわないのですよ?女性にはなかなかの重労働でしょう」
確かに、農作業は大変だ。しかし、世話になっているのに何もしないというのは自分の性分的に難しい。まあ、作業自体も楽しいし、別に苦ではないのだ。
「まあそうね。でも、たまにはこういうのも楽しいからいいの。それに、貴方のお母さまも向こうで作業しているみたいだしね」
遠くでアレンのお母さんが作業着姿で畑を耕している。とても手慣れた様子で、事前に知って無いと貴族とは分からないほどだろう。
その言葉を聞いてアレンは苦笑する。
「母上は昔からああです。我が家の親戚筋から嫁いだ方ですから」
彼の家は少々特殊なので親戚内や、下位の貴族を娶ることが多いらしい。
確かに、普通の高位の令嬢を娶ってきても農作業なんて絶対やらないだろうし、夫婦仲が冷めきるならまだしも他所で子種を貰ってこられる可能性もあるし、仕方ないだろう。
「でも、本当に気にしないで。私はやると決めたらやるし、やらないと決めたら絶対やらないから。それが原因でここにいるみたいなものだしね」
少し冗談めかして言うと、彼は笑った後、真剣な顔をした。
「ですが、本当に良かったのですか?当家のためにそこまでしてもらわなくてもよかったのですが。別に我が家を陥れようとしているわけではないのですし」
確かにそうだ。別に利益配分が明らかにおかしいことを除けばゴーレスタ公爵家を陥れるような契約ではない。いや、流石にそこまでしたら両家の争いになることをお父様も把握の上だろう。
「それはそうね。でも、私は労働に対して正当な対価を払うべきだと思うの。相手がそれを生業とする商人なら努力不足だし別にかまわない。でも、貴方の家はそうじゃない。善良な人を欺くような形でその成果を横取りするのだけは私には許せなかったのよ」
これは私の意地だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「…………そうですか。貴方は私以上に頑固ですね。男の私が女性に守られることになるとは思ってもいませんでした。私はもっと精進します。慈しみ、育て、守る、これだけならば誰にも負けないと言った言葉を真実にするために。ゴーレスタ公爵家の男に二言はないんです」
彼はまっすぐだ。そして、嘘をつかず、その言葉を絶対に違えない。
だからこそ私は、人柄という点では彼を最も信頼している。裏切らないことが決まりきっているから。
「私は、もっと強く、大きくなります。関わったものすべてに満開の花を咲かせられるほどに」
アレンはこちらを優しい眼差しで見つめる。
そして、不意に近づき手を持ち上げると口づけをした。加えて私の唇に手をなぞらせる。
「今はここまでしかできません。ですが、次こそは必ず」
突然の出来事に唖然とした私は、去っていく彼の背を見ながら、思わず自分の唇に手を触れていた。
アレンと思い付きで始めた孤児院の作物改良は大成功した。我がことながらこれは凄い。
やはり、魔法は偉大ね。遺伝子改良技術なんてないのにアレンの土魔法で作った土壌がなんやら同じようなことをしてしまったらしい。従来の常識を覆すような素晴らしい作物が出来上がってしまった。
まあ、私は遺伝子の組み合わせの考えを出しただけで、ほとんどアレンの成果と言ってもいいだろう。冗談めかして私達の子供ね、と言ったら彼はその巨体が縮んだように見えるほど照れていたが。その様が初心な少年のようで少し可愛く見えた。
しかし、問題はそれからだったのだ。
私が知らないうちに、お父様はこの作物の情報を手に入れていたらしい。
そして、実直でそこらへんに疎いゴーレスタ公爵家を口八丁に説き伏せると、明らかに利益の分配のおかしい契約を結んでしまっていた。
それに気づいた私はお父様に対して連日のように抗議を言いに行く。正当な対価を得るならばいい。だが、これは明らかにやり過ぎだ。
最初は可愛い娘の癇癪だと宥めていたお父様も理路整然と痛いところを突く私に対し次第に熱くなっていき口論は激化していった。
弟は次期当主としてお父様の援護をしようとするが、人生経験の浅い彼の論理をぐうの音も出ないほどに滅多打ちにすると、すぐに関わらなくなった。
お母さまはオロオロとして、どうしていいかわからないようだが心を鬼にしてそれを視界にいれないようにする。
家族は好きだ。だが、ここだけは私の誇りにかけて譲れない。相手が商人ならば何も言わない。でも、ゴーレスタ公爵家は明らかにそれとは違う。この国の食糧事情の改善に昔から取り組み、それを独占することなく提供してきた真面目な家だ。
彼らだけがその性格故に不利益を被るなんてのは私のポリシーに反する。お父様がやったわけじゃない、私が手を出したものなら最後まで責任はきっちり取らなくては。そもそもゴーレスタ公爵家の魔法が無ければ作ることさえできないのだから。
そして、口論を繰り返し続けていると私はついに軟禁されてしまう。恐らく事業が軌道に乗るまでの時間稼ぎだろう。
一度動き出してしまえば多くの人が関わる。私の性格的に、その中に職を失うような人が組み込まれてしまえば引かざるを得ないとお父様は考えているのだろう。
流石は海千山千の商人、痛いところを突いてくる。
だが、これくらいで諦めるわけには行かない。要は事業が始まる前に止めてしまえばいいのだ。契約書を見たが、まだ間に合う。
生産が停止した場合の損害補償は当然盛り込まれていたが、まだ市場に出ていないものの損害なんて計算のしようがない。その前に止める。
私がここまでするとは思っていなかったのだろう。鉄格子の嵌められた窓を魔法で吹き飛ばし、引き止める領兵を水で押し飛ばし、馬を奪うと私はゴーレスタ公爵領に逃亡した。
そして、アレンの家に着くと驚く彼に事情を説明して手伝ってもらった。
すぐに作物の生産を停止、出荷できないように全量抑える。お父様が私の脱走を聞きつけ、手を伸ばすころには全てが終わっていた。
あの人が既にこの作物出荷のための航路や陸路の使用権及び人員を確保していることは知っている。このままでは膨大な損害が発生してしまうことにすぐ気づくだろう。
だから、折れてくるのをそれまで待てばいい。援軍の来ない籠城戦をするタイプではないのは知っているのだから。
ゴーレスタ公爵家で世話になり、畑を耕しているとアレンが近づいてきた。
「屋敷にいて下さってもぜんぜんかまわないのですよ?女性にはなかなかの重労働でしょう」
確かに、農作業は大変だ。しかし、世話になっているのに何もしないというのは自分の性分的に難しい。まあ、作業自体も楽しいし、別に苦ではないのだ。
「まあそうね。でも、たまにはこういうのも楽しいからいいの。それに、貴方のお母さまも向こうで作業しているみたいだしね」
遠くでアレンのお母さんが作業着姿で畑を耕している。とても手慣れた様子で、事前に知って無いと貴族とは分からないほどだろう。
その言葉を聞いてアレンは苦笑する。
「母上は昔からああです。我が家の親戚筋から嫁いだ方ですから」
彼の家は少々特殊なので親戚内や、下位の貴族を娶ることが多いらしい。
確かに、普通の高位の令嬢を娶ってきても農作業なんて絶対やらないだろうし、夫婦仲が冷めきるならまだしも他所で子種を貰ってこられる可能性もあるし、仕方ないだろう。
「でも、本当に気にしないで。私はやると決めたらやるし、やらないと決めたら絶対やらないから。それが原因でここにいるみたいなものだしね」
少し冗談めかして言うと、彼は笑った後、真剣な顔をした。
「ですが、本当に良かったのですか?当家のためにそこまでしてもらわなくてもよかったのですが。別に我が家を陥れようとしているわけではないのですし」
確かにそうだ。別に利益配分が明らかにおかしいことを除けばゴーレスタ公爵家を陥れるような契約ではない。いや、流石にそこまでしたら両家の争いになることをお父様も把握の上だろう。
「それはそうね。でも、私は労働に対して正当な対価を払うべきだと思うの。相手がそれを生業とする商人なら努力不足だし別にかまわない。でも、貴方の家はそうじゃない。善良な人を欺くような形でその成果を横取りするのだけは私には許せなかったのよ」
これは私の意地だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「…………そうですか。貴方は私以上に頑固ですね。男の私が女性に守られることになるとは思ってもいませんでした。私はもっと精進します。慈しみ、育て、守る、これだけならば誰にも負けないと言った言葉を真実にするために。ゴーレスタ公爵家の男に二言はないんです」
彼はまっすぐだ。そして、嘘をつかず、その言葉を絶対に違えない。
だからこそ私は、人柄という点では彼を最も信頼している。裏切らないことが決まりきっているから。
「私は、もっと強く、大きくなります。関わったものすべてに満開の花を咲かせられるほどに」
アレンはこちらを優しい眼差しで見つめる。
そして、不意に近づき手を持ち上げると口づけをした。加えて私の唇に手をなぞらせる。
「今はここまでしかできません。ですが、次こそは必ず」
突然の出来事に唖然とした私は、去っていく彼の背を見ながら、思わず自分の唇に手を触れていた。
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