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初恋は続く、いつまでも
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幼い頃、彼女に出逢った。
この国の第三皇女であるローゼ・ラ・ガルマニアに。
僕の初恋、そして、僕の始まり。
ほとんどの人が一つは持って産まれてくるスキルを僕は持ってなかった。
それ故親も僕を捨てたのかもしれない。孤児として戦場で戦う日々が続いていた。
だが、あの日、僕は彼女に出逢った。
膠着状態にある前線を打開するため、送り込まれた彼女に。
雨の降る中、彼女の魔法で敵が焼き払われる。歓声を上げる味方の中で、彼女は一人佇んでいた。
その顔は無表情で、無感動で、全てがどうでも良さそうな顔をしていた。
でも、その雨で濡れた顔は、泣いているようなその顔は、僕にはとても美しく思えて、心をどうしようもなく奪われた。恋焦がれてしまった。
そして、同時に思ったんだ。彼女の笑った顔を見てみたいと。
その日以来、いろいろな人に彼女のことを聞いた。彼らは、今まで最低限しか口を開くことが無かった僕に最初は戸惑っていたが、あまりの熱量に押されたのか教えてくれた。
彼女のスキルは万能。あらゆる才を持ち、あっという間に極めてしまう。
付いた家庭教師達はすぐに教えることが無くなり、次々と代わった。そして、今では誰も教えられるものがいないらしい。
何もスキルを持たない僕と全能のスキルを持つ彼女、その間を隔てる壁はどうしようもないほどに高い。
でも、僕は、彼女に手を届かせたい。触れてみたい。
どうせ失うものは何もないのだからと、血反吐を吐きながら努力を重ねた。
そして、その歩みは例え片方の手足が魔動の義肢になっても、何度も生死をさまよっても止まることは一度も無かった。
成人と呼ばれる年齢になる頃には僕は王宮に出入りすることが許されていた。
この国は拡大を繰り返しており、万年人不足だ。そして、それもあって血統を重視せず、実力主義を掲げている。
だから、僕のような孤児でも夢を見れた。そして、謁見の間で彼女を再び見た時、その夢は現実に近づいたのだ。それからの僕は戦場以外のことも貪欲に学ぶようになっていった。
スキルは偉大だ。それがあれば、少しの経験で多大な能力を得られる。
だが、ここに来るまでに気づいた。スキルはそれの効力が及ぶ範囲が明確に決まっている。
例えば剣スキルであれば、刀やレイピアといったものには効果が及ばないことが多い。
最初、僕は誰にも勝てなかった。でも、そのことに気づいてから少しずつ勝てるようになり、今ではあまり負けることが無くなった。
同じ土俵では勝てない。でも違う土俵や、スキルの狭間、混ざり合った土俵なら勝てる。様々なことを学び、組み合わせることで僕は上に来た。
だが、それは同時に、彼女の万能のスキルの出鱈目さを僕に思い知らさせた。
彼女のスキルは全能。手を付ければ、瞬く間に吸収し、極めてしまう。
そして、スキルの及ぶ範囲は本当に全てに渡るらしい。
幼い頃から発揮されてきたそのスキルは、多くの人のプライドをへし折り、絶望させた。
それに、王宮のメイド達が噂していた。どうやら、彼女には人の気持ちも読めてしまうらしい。
話から推測するに、それは心を読む能力では無いだろう。仕草や、表情や、性格、経歴、それらを複合的に理解しているだけだろうと思う。
初対面の人には少し精度が低く、情報量が増えれば最終的に全て筒抜けになってしまうと聞いた。
それもあるのだろう。あれほどの才があるにも関わらず、彼女の周りには人がいない。いつ、どこで見ても常に一人だった。
もちろん、傍に控える使用人や配下はいる。だが、それはただそこにいるだけだ。
ほとんどの話には、当事者が出てこない。『らしい』、『だろう』ばかりでそれが彼女の孤独を物語っていた。
そして、噂話には悪意が乗せられることが多い。少量ずつ、人を経るごとにそれは厚く塗られていく。何も言わず、噂に事欠かない彼女は格好の標的だったのだろう。
悪意が塗りたくられた言葉だけは常に彼女の近くに侍っていた。
戦場に出て、政務に関わり、そのうち僕は爵位を貰い、王族に近づけるほどになった。
簡単な道では無かった。だが、彼女に近づくための階段を登るのは決して苦では無かった。
むしろ、一段上がるごとに僕はどうしようもないほど胸が高鳴っていたのだ。
言い寄ってくる人もいた。当然女性も。だが、それは僕には関係が無い。初恋はまだ続いているのだから。
そして、ついに彼女の誕生日を祝うパーティーに出席できるほどになった時。
いつものように周りに誰もいない彼女に近づくと言った。
『貴方に勝ったら一つだけ願いを聞いて欲しい』、と。
彼女はいつものように無表情な顔でこちらを見つめる。その顔には何も宿ってない。ただ、無感情に僕を見つめていた。
沈黙が流れる。僕が目線を外さないのがわかったのだろう。しばらくして彼女は黙って頷いた。
以前も同じことがあったことを知っている。最近では無かったようだが。
一度プライドを傷つけられたものが這い上がり、彼女に挑む。そして、その悉くを彼女は再び折り、誰も挑む者がいなくなった。
必要な手続きは終わらせた。それを止めるよりも、姫が相手をした方が早いからだろう。拍子抜けなほどそれは簡単に終わった。
そして、迎える当日。人の不幸は蜜の味。久しく現れなかった敗北者を見ようと多くの人が詰めかけていた。
ルールは一つ。相手を殺さないこと、ただそれだけ。
この日のために全てを準備してきた。スキルの無い僕と全能の彼女。能力の隙間を狙うしかない。
何かと何かを組み合わせるのには慣れている。むしろそれだけが僕にできることなのだ。
勝つためには相手の土俵以外で戦う必要がある。自分に言い聞かせるように気合を入れた。
そして、戦いの合図がされる。動いたのは当然こちらから。守れば負ける。
魔法で編まれた収納袋から様々なものを出していき、攻める。自分語りをしながら。
≪雨の降る戦場で会ったこと、その時の顔が泣いているように見えたこと≫
≪近づくために努力し、ここまで来たこと≫
全てを彼女に話していく。
相手は僕の話に気を逸らせることはない。ただ、聞いているだけだ。
そして、手に持っている刀以外の武器が尽きた。
剣、槍、斧、弓、クロスボウ、暗器、薬品。その悉くは防がれ、周りで残骸となっている。
十分予想されたことだ。だから、まだ終わりじゃない。最後の手が残っている。
刀一本で相手に近づく。相手は構えを取らないが、隙が無い。戦場で鍛えた直観はどこからせめても一太刀で負けることを告げている。
だが、近づく。彼女に手を伸ばせる距離に。彼女に触れられる距離に。
そして、距離を詰めながら彼女の心に届くように叫ぶ。
「やっとここまで来た!君に手が届く距離に来た!!」
彼女は相変わらず何も宿らぬ瞳でこちらを見ている。
「僕は、君に触れたい!君のその心に!!」
やはり言葉は届かない。それでも僕は叫び続ける。もうすぐで彼女の間合いだ。
誰もが止めた。無理だ、やめとけ、届くわけが無いと。
だが、ここまで来た。孤児から、平民に、そして、貴族に、今は彼女が目と鼻の先にいる。
だから僕は手を伸ばし続ける。彼女に少しでも届くように。
「ローゼ・ラ・ガルマニア!!君が好きだ、愛している!!!」
彼女はその言葉を聞いて一瞬たじろぐ。恐らく、不可解な言葉に判断が遅れたのだろう。
そして、読んだはずだ、僕の心を。そのために自分語りをし情報量を増やした。愛を叫んだ。
相手の土俵では勝てない。でも、この想いに関してならまだ僕だけの土俵なのだから。
明らかな隙ができた相手の首に僕の刀が突き付けられる。周りは予想外の展開に動揺し、ざわめいている。
だが、そんなこと知ったことじゃない。
周りの有象無象なんか関係ない。僕の目にはずっと彼女しか映らないのだから。
「僕の願いはずっと昔から決まっている。どうか、僕と結婚して欲しい。もう、涙は流させないから」
固まり、徐々に赤面していく彼女を愛おしいと心から思う。たまらず僕は、彼女を抱きしめた。
そして後で、彼女は言った。あれが彼女の初恋、彼女の始まりだったと。
でも、僕はそれを少し訂正する。表情豊かになった彼女をあの日のように抱きしめながら。
あれが、『二人の初恋、二人の始まり』なんだよと。
何かと何かを組み合わせるのには慣れている。むしろそれだけが僕にできることなのだ。
この国の第三皇女であるローゼ・ラ・ガルマニアに。
僕の初恋、そして、僕の始まり。
ほとんどの人が一つは持って産まれてくるスキルを僕は持ってなかった。
それ故親も僕を捨てたのかもしれない。孤児として戦場で戦う日々が続いていた。
だが、あの日、僕は彼女に出逢った。
膠着状態にある前線を打開するため、送り込まれた彼女に。
雨の降る中、彼女の魔法で敵が焼き払われる。歓声を上げる味方の中で、彼女は一人佇んでいた。
その顔は無表情で、無感動で、全てがどうでも良さそうな顔をしていた。
でも、その雨で濡れた顔は、泣いているようなその顔は、僕にはとても美しく思えて、心をどうしようもなく奪われた。恋焦がれてしまった。
そして、同時に思ったんだ。彼女の笑った顔を見てみたいと。
その日以来、いろいろな人に彼女のことを聞いた。彼らは、今まで最低限しか口を開くことが無かった僕に最初は戸惑っていたが、あまりの熱量に押されたのか教えてくれた。
彼女のスキルは万能。あらゆる才を持ち、あっという間に極めてしまう。
付いた家庭教師達はすぐに教えることが無くなり、次々と代わった。そして、今では誰も教えられるものがいないらしい。
何もスキルを持たない僕と全能のスキルを持つ彼女、その間を隔てる壁はどうしようもないほどに高い。
でも、僕は、彼女に手を届かせたい。触れてみたい。
どうせ失うものは何もないのだからと、血反吐を吐きながら努力を重ねた。
そして、その歩みは例え片方の手足が魔動の義肢になっても、何度も生死をさまよっても止まることは一度も無かった。
成人と呼ばれる年齢になる頃には僕は王宮に出入りすることが許されていた。
この国は拡大を繰り返しており、万年人不足だ。そして、それもあって血統を重視せず、実力主義を掲げている。
だから、僕のような孤児でも夢を見れた。そして、謁見の間で彼女を再び見た時、その夢は現実に近づいたのだ。それからの僕は戦場以外のことも貪欲に学ぶようになっていった。
スキルは偉大だ。それがあれば、少しの経験で多大な能力を得られる。
だが、ここに来るまでに気づいた。スキルはそれの効力が及ぶ範囲が明確に決まっている。
例えば剣スキルであれば、刀やレイピアといったものには効果が及ばないことが多い。
最初、僕は誰にも勝てなかった。でも、そのことに気づいてから少しずつ勝てるようになり、今ではあまり負けることが無くなった。
同じ土俵では勝てない。でも違う土俵や、スキルの狭間、混ざり合った土俵なら勝てる。様々なことを学び、組み合わせることで僕は上に来た。
だが、それは同時に、彼女の万能のスキルの出鱈目さを僕に思い知らさせた。
彼女のスキルは全能。手を付ければ、瞬く間に吸収し、極めてしまう。
そして、スキルの及ぶ範囲は本当に全てに渡るらしい。
幼い頃から発揮されてきたそのスキルは、多くの人のプライドをへし折り、絶望させた。
それに、王宮のメイド達が噂していた。どうやら、彼女には人の気持ちも読めてしまうらしい。
話から推測するに、それは心を読む能力では無いだろう。仕草や、表情や、性格、経歴、それらを複合的に理解しているだけだろうと思う。
初対面の人には少し精度が低く、情報量が増えれば最終的に全て筒抜けになってしまうと聞いた。
それもあるのだろう。あれほどの才があるにも関わらず、彼女の周りには人がいない。いつ、どこで見ても常に一人だった。
もちろん、傍に控える使用人や配下はいる。だが、それはただそこにいるだけだ。
ほとんどの話には、当事者が出てこない。『らしい』、『だろう』ばかりでそれが彼女の孤独を物語っていた。
そして、噂話には悪意が乗せられることが多い。少量ずつ、人を経るごとにそれは厚く塗られていく。何も言わず、噂に事欠かない彼女は格好の標的だったのだろう。
悪意が塗りたくられた言葉だけは常に彼女の近くに侍っていた。
戦場に出て、政務に関わり、そのうち僕は爵位を貰い、王族に近づけるほどになった。
簡単な道では無かった。だが、彼女に近づくための階段を登るのは決して苦では無かった。
むしろ、一段上がるごとに僕はどうしようもないほど胸が高鳴っていたのだ。
言い寄ってくる人もいた。当然女性も。だが、それは僕には関係が無い。初恋はまだ続いているのだから。
そして、ついに彼女の誕生日を祝うパーティーに出席できるほどになった時。
いつものように周りに誰もいない彼女に近づくと言った。
『貴方に勝ったら一つだけ願いを聞いて欲しい』、と。
彼女はいつものように無表情な顔でこちらを見つめる。その顔には何も宿ってない。ただ、無感情に僕を見つめていた。
沈黙が流れる。僕が目線を外さないのがわかったのだろう。しばらくして彼女は黙って頷いた。
以前も同じことがあったことを知っている。最近では無かったようだが。
一度プライドを傷つけられたものが這い上がり、彼女に挑む。そして、その悉くを彼女は再び折り、誰も挑む者がいなくなった。
必要な手続きは終わらせた。それを止めるよりも、姫が相手をした方が早いからだろう。拍子抜けなほどそれは簡単に終わった。
そして、迎える当日。人の不幸は蜜の味。久しく現れなかった敗北者を見ようと多くの人が詰めかけていた。
ルールは一つ。相手を殺さないこと、ただそれだけ。
この日のために全てを準備してきた。スキルの無い僕と全能の彼女。能力の隙間を狙うしかない。
何かと何かを組み合わせるのには慣れている。むしろそれだけが僕にできることなのだ。
勝つためには相手の土俵以外で戦う必要がある。自分に言い聞かせるように気合を入れた。
そして、戦いの合図がされる。動いたのは当然こちらから。守れば負ける。
魔法で編まれた収納袋から様々なものを出していき、攻める。自分語りをしながら。
≪雨の降る戦場で会ったこと、その時の顔が泣いているように見えたこと≫
≪近づくために努力し、ここまで来たこと≫
全てを彼女に話していく。
相手は僕の話に気を逸らせることはない。ただ、聞いているだけだ。
そして、手に持っている刀以外の武器が尽きた。
剣、槍、斧、弓、クロスボウ、暗器、薬品。その悉くは防がれ、周りで残骸となっている。
十分予想されたことだ。だから、まだ終わりじゃない。最後の手が残っている。
刀一本で相手に近づく。相手は構えを取らないが、隙が無い。戦場で鍛えた直観はどこからせめても一太刀で負けることを告げている。
だが、近づく。彼女に手を伸ばせる距離に。彼女に触れられる距離に。
そして、距離を詰めながら彼女の心に届くように叫ぶ。
「やっとここまで来た!君に手が届く距離に来た!!」
彼女は相変わらず何も宿らぬ瞳でこちらを見ている。
「僕は、君に触れたい!君のその心に!!」
やはり言葉は届かない。それでも僕は叫び続ける。もうすぐで彼女の間合いだ。
誰もが止めた。無理だ、やめとけ、届くわけが無いと。
だが、ここまで来た。孤児から、平民に、そして、貴族に、今は彼女が目と鼻の先にいる。
だから僕は手を伸ばし続ける。彼女に少しでも届くように。
「ローゼ・ラ・ガルマニア!!君が好きだ、愛している!!!」
彼女はその言葉を聞いて一瞬たじろぐ。恐らく、不可解な言葉に判断が遅れたのだろう。
そして、読んだはずだ、僕の心を。そのために自分語りをし情報量を増やした。愛を叫んだ。
相手の土俵では勝てない。でも、この想いに関してならまだ僕だけの土俵なのだから。
明らかな隙ができた相手の首に僕の刀が突き付けられる。周りは予想外の展開に動揺し、ざわめいている。
だが、そんなこと知ったことじゃない。
周りの有象無象なんか関係ない。僕の目にはずっと彼女しか映らないのだから。
「僕の願いはずっと昔から決まっている。どうか、僕と結婚して欲しい。もう、涙は流させないから」
固まり、徐々に赤面していく彼女を愛おしいと心から思う。たまらず僕は、彼女を抱きしめた。
そして後で、彼女は言った。あれが彼女の初恋、彼女の始まりだったと。
でも、僕はそれを少し訂正する。表情豊かになった彼女をあの日のように抱きしめながら。
あれが、『二人の初恋、二人の始まり』なんだよと。
何かと何かを組み合わせるのには慣れている。むしろそれだけが僕にできることなのだ。
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