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六章 -交わる関係-
Day2①鉛色の空
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そのまま、少し話をして二人が寝入ってしまった後。
自分は眠りにつけないまま、手持ち無沙汰にスマホを持つと、新しいメッセージを誠君に送る。
千佳ちゃん達と近づけて嬉しかったこと、男の子達のことはやっぱり好きになれそうにないこと、そんなことを打ち込んでいく。
きっと、時間が時間なのですぐに返ってくることはないと思うけれど。
「やっぱり、会いたいな」
たった数日会わなかっただけなのに、こんなにも寂しくなるとは思わなかった。
目を瞑ればその顔も、声も、温もりも、匂いも全てが目の前にあるように思い出せるのに、それでも会いたい。
「誠君も、そう思ってくれてるのかな」
疲れた体、それでも眠れずにいる自分。
二人と近づけたとは思っても、未だ癖ともいえるべき警戒心は無意識に残ってしまっているようで、布団をかぶったまま、ただただ以前送り合ったメッセージを眺め続ける。
そして、このまま朝日でも見てみようかなと思っていた時、不意にスマホが揺れ最後の行が追加された。
「ふふっ。ゲームなうって、何それ」
目の前には、血走った目をしたゆるキャラのスタンプとともに簡潔な文字が表示されている。
でも、中身も無いようなたった一言、ただそれだけなのに、これ以上無いほどの安心感や幸福感に身を包まれてしまった。
「ほんと、ズルいよね」
お菓子と炭酸飲料の写真が送られてきて、それにバーベキューの時に撮った色とりどりのお洒落な串焼の写真を返すと、ボコボコにされたゆるキャラのスタンプが返ってくる。
「あははっ。面白いなぁ」
そのまま、取り留めのないメッセージが続く。
たぶん、後で見返したら何をしていたんだろうと思ってしまうようなことなのかもしれない。
でも、今の私にとって、それが何よりも幸せだった。
ふと目が覚めると、薄い布団越しに見える外が明るくなっていることに気づく。
どうやら、スマホを握ったまま眠りに落ちてしまっていたらしい。
「……これはもう、絶対手放せないよね」
私の最後のメッセージからしばらくして送られていた、おやすみというメッセージ。
絵文字も何もついていないそれからは、目に見えなくても、これ以上無いほどの優しさを感じられた。
「やっぱり、世界で一番優しいよ」
ずっと私を気遣ってくれた誠君がどんなことを思いながらこれを送ってくれたのかなんとなくわかる。
きっと、いつもとは違う変な時間にメッセージを送った私を彼は心配してくれていたのだろう。
すぐに返される返信、今まで以上に笑わせてくれる内容、そんな些細なところに優しさが散りばめられている。
「よしっ。今日も、一日頑張ろうかな」
まだ、早い時間。
私は、伸びをすると気分を切り替えるためにシャワーを浴びに行った。
◆◆◆◆◆
一泊二日の旅行の最終日。
朝食を食べて車に乗り込むと、観光スポットへと移動を始めた。
「そう言えば、女子は昨日恋バナで盛り上がった感じ?」
「そうだよー。でも、透ちゃんが盛り上がり過ぎてほとんどその話だったけど」
声がし、助手席から振り返ると千佳ちゃんとその想い人である彼が昨日の話をし始めていた。
「へー。蓮見さんって意外にそういう話題好きなんだ」(とりあえず、昨日聞けなかった情報仕入れるチャンス)
「あははっ、意外だよね。私達もめっちゃ驚いたもん」
「ふーん。例えば、どんな話?」(本人に聞いても言わないだろうし、こいつに聞くか)
きっと、釘を刺しておかなければ今後も同じようなことが続くのだろう。
その心の内を見ながら、そんなことを強く思わされる。
「待って。私だけの話だと恥ずかしいし、例えば自分が好きになるポイントをみんなで言ってくのはどう?」
「あっ、それいいかも。楽しそう」
「…………まぁ、それでいっか」(なんか、上手いこといかねぇな)
「じゃあ、言い出したの私だし、簡単に言ってくね」
どう言えば、この人が諦めるのか、もしくは面倒だと感じるのかを考える。
そして、少しの間悩んだ様子を見せた後、本気だと伝わるよう真剣な顔を作って口を開いた。
「やっぱり私は、自分よりすごいって思えることかな。勉強でも、運動でも、それこそなんでもいいんだけど」
本音を言ってしまえば、別に自分より優れていることなんてどうでもいい。
外見だけでなく私をちゃんと見てくれて、醜いところも含めて受け入れてくれて、ずっと想い続けてくれればそれ以外は何もいらない。
でも、今はこう言ったほうが都合がいいから。
「えー、透ちゃんに勝てる人ってほとんどいなくない?」
「だよねだよね。勉強も運動も学年で一番だし」
中学の頃は手を抜くことが多かった。
でも、茜ちゃんと会ってからはそれなりに力を入れるようになった。
その方が、男の子達に話しかけられにくくなることも分かったから。
「……じゃあ、蓮見さんは強い男が好きなんだ」(さすがにこの子以上にとなるとハードル高いな)
「そうかもしれないですね。でも、暴力的な人は嫌いです。私自身武術もやってるので人のことは言えないかもですけど」
「……そう、なんだ」(力づくも無理、ならもうこの子狙うの時間の無駄か)
「透ちゃん、武術もやってるの?知らなかった」
「ふふっ。大会で優勝したこともあるんだよ?もし、千佳ちゃん達が誰かに嫌なことされたら言ってね?仕返ししてあげるから」
「「きゃーっ、カッコいい!」」
ハル姉が勝手に喋ってしまったけれど、誠君にだけは知って欲しくなかったこと。
でも、自分の身を守るという意味では、本当に習っておいてよかったと思う。
それに、警告を込めて伝えたそれは千佳ちゃんのことを守るという意味でも役に立つはずだ。
「じゃあ、次の人に順番回そうか」
「おっけー。時計回りでいくと……次は、葵の番で」
「えー私か。なんだろ」
もしかしたら、まだ機会を狙ってくるかもしれない。
でも、こういうタイプの人は意外と計算高くて自分の得にならないことを避けると経験則で知っている。
そして、先ほどからなんとなくつまらなそうにし始めた表情を見て感じた、少しの安堵と、それ以上の自己嫌悪を胸に私はため息をついた。
自分は眠りにつけないまま、手持ち無沙汰にスマホを持つと、新しいメッセージを誠君に送る。
千佳ちゃん達と近づけて嬉しかったこと、男の子達のことはやっぱり好きになれそうにないこと、そんなことを打ち込んでいく。
きっと、時間が時間なのですぐに返ってくることはないと思うけれど。
「やっぱり、会いたいな」
たった数日会わなかっただけなのに、こんなにも寂しくなるとは思わなかった。
目を瞑ればその顔も、声も、温もりも、匂いも全てが目の前にあるように思い出せるのに、それでも会いたい。
「誠君も、そう思ってくれてるのかな」
疲れた体、それでも眠れずにいる自分。
二人と近づけたとは思っても、未だ癖ともいえるべき警戒心は無意識に残ってしまっているようで、布団をかぶったまま、ただただ以前送り合ったメッセージを眺め続ける。
そして、このまま朝日でも見てみようかなと思っていた時、不意にスマホが揺れ最後の行が追加された。
「ふふっ。ゲームなうって、何それ」
目の前には、血走った目をしたゆるキャラのスタンプとともに簡潔な文字が表示されている。
でも、中身も無いようなたった一言、ただそれだけなのに、これ以上無いほどの安心感や幸福感に身を包まれてしまった。
「ほんと、ズルいよね」
お菓子と炭酸飲料の写真が送られてきて、それにバーベキューの時に撮った色とりどりのお洒落な串焼の写真を返すと、ボコボコにされたゆるキャラのスタンプが返ってくる。
「あははっ。面白いなぁ」
そのまま、取り留めのないメッセージが続く。
たぶん、後で見返したら何をしていたんだろうと思ってしまうようなことなのかもしれない。
でも、今の私にとって、それが何よりも幸せだった。
ふと目が覚めると、薄い布団越しに見える外が明るくなっていることに気づく。
どうやら、スマホを握ったまま眠りに落ちてしまっていたらしい。
「……これはもう、絶対手放せないよね」
私の最後のメッセージからしばらくして送られていた、おやすみというメッセージ。
絵文字も何もついていないそれからは、目に見えなくても、これ以上無いほどの優しさを感じられた。
「やっぱり、世界で一番優しいよ」
ずっと私を気遣ってくれた誠君がどんなことを思いながらこれを送ってくれたのかなんとなくわかる。
きっと、いつもとは違う変な時間にメッセージを送った私を彼は心配してくれていたのだろう。
すぐに返される返信、今まで以上に笑わせてくれる内容、そんな些細なところに優しさが散りばめられている。
「よしっ。今日も、一日頑張ろうかな」
まだ、早い時間。
私は、伸びをすると気分を切り替えるためにシャワーを浴びに行った。
◆◆◆◆◆
一泊二日の旅行の最終日。
朝食を食べて車に乗り込むと、観光スポットへと移動を始めた。
「そう言えば、女子は昨日恋バナで盛り上がった感じ?」
「そうだよー。でも、透ちゃんが盛り上がり過ぎてほとんどその話だったけど」
声がし、助手席から振り返ると千佳ちゃんとその想い人である彼が昨日の話をし始めていた。
「へー。蓮見さんって意外にそういう話題好きなんだ」(とりあえず、昨日聞けなかった情報仕入れるチャンス)
「あははっ、意外だよね。私達もめっちゃ驚いたもん」
「ふーん。例えば、どんな話?」(本人に聞いても言わないだろうし、こいつに聞くか)
きっと、釘を刺しておかなければ今後も同じようなことが続くのだろう。
その心の内を見ながら、そんなことを強く思わされる。
「待って。私だけの話だと恥ずかしいし、例えば自分が好きになるポイントをみんなで言ってくのはどう?」
「あっ、それいいかも。楽しそう」
「…………まぁ、それでいっか」(なんか、上手いこといかねぇな)
「じゃあ、言い出したの私だし、簡単に言ってくね」
どう言えば、この人が諦めるのか、もしくは面倒だと感じるのかを考える。
そして、少しの間悩んだ様子を見せた後、本気だと伝わるよう真剣な顔を作って口を開いた。
「やっぱり私は、自分よりすごいって思えることかな。勉強でも、運動でも、それこそなんでもいいんだけど」
本音を言ってしまえば、別に自分より優れていることなんてどうでもいい。
外見だけでなく私をちゃんと見てくれて、醜いところも含めて受け入れてくれて、ずっと想い続けてくれればそれ以外は何もいらない。
でも、今はこう言ったほうが都合がいいから。
「えー、透ちゃんに勝てる人ってほとんどいなくない?」
「だよねだよね。勉強も運動も学年で一番だし」
中学の頃は手を抜くことが多かった。
でも、茜ちゃんと会ってからはそれなりに力を入れるようになった。
その方が、男の子達に話しかけられにくくなることも分かったから。
「……じゃあ、蓮見さんは強い男が好きなんだ」(さすがにこの子以上にとなるとハードル高いな)
「そうかもしれないですね。でも、暴力的な人は嫌いです。私自身武術もやってるので人のことは言えないかもですけど」
「……そう、なんだ」(力づくも無理、ならもうこの子狙うの時間の無駄か)
「透ちゃん、武術もやってるの?知らなかった」
「ふふっ。大会で優勝したこともあるんだよ?もし、千佳ちゃん達が誰かに嫌なことされたら言ってね?仕返ししてあげるから」
「「きゃーっ、カッコいい!」」
ハル姉が勝手に喋ってしまったけれど、誠君にだけは知って欲しくなかったこと。
でも、自分の身を守るという意味では、本当に習っておいてよかったと思う。
それに、警告を込めて伝えたそれは千佳ちゃんのことを守るという意味でも役に立つはずだ。
「じゃあ、次の人に順番回そうか」
「おっけー。時計回りでいくと……次は、葵の番で」
「えー私か。なんだろ」
もしかしたら、まだ機会を狙ってくるかもしれない。
でも、こういうタイプの人は意外と計算高くて自分の得にならないことを避けると経験則で知っている。
そして、先ほどからなんとなくつまらなそうにし始めた表情を見て感じた、少しの安堵と、それ以上の自己嫌悪を胸に私はため息をついた。
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