人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

A

文字の大きさ
上 下
75 / 106
六章 -交わる関係-

蓮見 透 六章:序幕

しおりを挟む
 まだ朝日も差し込まぬ早い時間に目覚めると、まだぼんやりとした頭で周りを見渡した。


「……誰もいない、よね」


 誰もおらず、物もほとんど無い空虚な空間。
 楽しいことに目を向けていられた昨日まではあまり気にならなかったその寂しさは、改めて気づくと胸を締め付けてくるような感覚さえあった。


「また、慣れないとな」


 元々自分でそうしようと思って形作った部屋だ。
 きっと温かい世界だけにいれば、そうではない大多数の人達と関わる外に耐え切れなくなってしまうと不安に思っていたから。 

 それに、ずっと考えてきた。
 すぐにでは無かったとしてもハル姉なら、茜ちゃんなら、伊織ちゃんなら、きっと大事な人を見つける。
 そして、唯一家族と呼べるおばあちゃんも自分と同じ時間をこのまま歩いていくことはできない。

 それならば、私はいつか一人で歩いていける方法を探さなくてはいけないと。


「ふふっ。少なくとも、今はまだね」


 でも、今は違う。
 ようやくと言っていいのかは分からないけど、私にも好きな人ができた。
 全てをさらけ出せる、どんな時でもそばにいてくれる人が。

 家族になって、最後まで共に寄り添ってくれる人が。
 

「誠君なら、人生も半分こしてくれるよね?」


 少しずつ日が出て明るくなる部屋の中。
 里帰りの初日に撮った、自分の膝に頭をのせて眠る彼の寝顔の写真を見ながら、私はそんなことを呟いた。












◆◆◆◆◆









 待ち合わせの場所に近づいて行くと、大きな車の前に桐谷千佳ちゃんと見知らぬ男性が一人立っているのが見える。
 
 恐らく、あれが今日の保護者役でついてきてくれることになっていた大学生のお兄さんだろう。


「透ちゃん。おはよー」(めちゃくちゃ眠い)

「おはよう。眠そうだね」

「予定無いとほとんど昼まで寝てるんだよねー」(ほんと、ずっと夏休み続いて欲しい)

 
 無意識に気を張ってしまっているのだろう。
 体に染みついた癖で自然と相手の心を読んでしまい、少しだけ自己嫌悪する。
 全員は無理だったとしても、それでもできる限り頑張ると瑛里華さんに言われて決めていたのに。


「ふふっ。夏休み堪能してるね、髪もすごく明るくなってるし」

 
 笑い声に合わせて息を吐きだし、頭を切り替える。
 ほんのちょっとでも誠君に、誠君の家族に見合える自分になるために努力したいから。
 

「似合うっしょ?お兄ちゃんは固いから文句しか言ってこないんだけどさ」

「うん。すごく千佳ちゃんの雰囲気に合ってるよ」

「だよねだよねっ!ほら、お兄ちゃんが固いだけなんだって」
 

 彼女が後ろを振り返ると、似通った顔立ちながらも雰囲気の大きく異なる男性が肩を竦めて首を横に振っていた。


「はぁ。あんまり、妹を甘やかさなくていいからね?」(すぐ調子乗るからなー)

「……はは、そんなつもりは無いんですけどね。それと、自己紹介が遅れました。蓮見 透です。今日はよろしくお願いします」
 
「これはご丁寧に。桐谷 和斗(かずと)です。よろしくね」(礼儀正しい子だなー。これで千佳と同い年とか恥ずかしくなってくる)


 派手めな妹とは違ってとても落ち着いていて、優し気な人に見える。
 でも、やはり男性相手に無防備でいることは今の私には難しいようでどうしても内面を覗いてしまう。
 こればかりは、仕方が無い部分もあるので多少は諦めるほかないだろう。


「お兄ちゃんは放っといていいから。ほら、みんな来たみたいだし」

「お前な。大事な夏休み使ってまでついてきてやったのに」

「はいはい。どうも」

「はぁ。本当に、可愛げのない妹だ」

「うるさいなー。ほら、友達来たから黙ってて」

「はいはい」


 仲の良い兄妹なのだろう。まるでじゃれつくような会話に思わず口元が緩む。
 それに、知佳ちゃんとは踏み込んだ話をあまりしてこなかったのでこんな彼女を見るのは少し新鮮だった。


「「ごめん、遅れたー」」

「ほんと、遅すぎ。時間通りなの透ちゃんだけとかあり得なくない?」

「ごめんって。電車組は丁度会って話してたら乗り過ごしちゃってさ~」

「ふーん。雄哉くんは?電車じゃ無いよね」

「俺は、自転車乗り過ごした」

「「あははっ。それは違くない?」」

 
 千佳ちゃんの想い人の一言でみんなが笑うのに合わせて笑う。
 純粋に楽しめたらいいとは思いつつも、さり気なくこちらに向けられる視線にどうにも心が落ち着かない。 
 好意を抱かれているのはなんとなくわかるも、正直今の私にとっては重荷でしかなかったから。








 そして、そのまま和斗さんと全員が自己紹介をした後、男女三名ずつ計六名分の荷物を順番に詰め込んでいった。


「みんな積み込めた?」

「はい」

「じゃあ、出発しよっか」   

「「よろしくお願いしまーす」」

  
 順番に車に乗り込み、扉が閉まると徐々に住んでいた街が遠ざかっていくのを何となく見つめる。

 雲一つない快晴、明るい声、これ以上無いほどの楽しそうな旅行ムード。
 それに最近は一切片頭痛に苛まれることもなくて体調も絶好調だ。

 きっと、不満なんて言っていたら罰が当たるようなコンディション。

 だけど…………それでも私は、誠君に今すぐ会いに行きたいと思った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...