人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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二章 -席替え-

幕間:ぶっきらぼうな優しさ

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 土日も含めほぼ毎日のように通ってたからだろう。あっという間に講習を終え、意外にあっけなく試験も合格してしまった。

 車校でもそれなりに楽しかったが、貰ったバイクに跨がって公道を走らせると、それを凌駕する楽しさに毎日それを走らせてしまう。

 更には親父もノリノリで付いてくるし、本当はまだやっちゃいけない二人乗りすら練習させる始末だった。

 毎日のように母さんに小言を言われるが、妹と違い俺はテストの成績も悪くないので好きにさせてもらえるようだ。

 親父と結婚しただけあって流石に懐が深い。






 そして、テストの最終日を明日に控えた今日、下校時間が早いことをいいことにすぐさま帰宅すると荷物を置くや否やヘルメットとキーだけ持って再び外に向かった。

 今日は母さんはいないらしいから小言も言われないしな。

 そう思って玄関のドアを開ける寸前、触ってもいないドアがひとりでに開き妹の早希と鉢合わせる。 


「ただいま。お兄ちゃん、いい加減にしないとお母さんに本気で怒られるよ」


「おかえり。いいんだよ、やることはちゃんとやってるしな。お前と違って」


「キモー。テストなんて、別にできなくても生きていけるんだから」


「お前な…………」


 毎回赤点ギリギリの妹様に忠告するようにそう伝える。

 お前が母さんに本気で怒られるのは成績悪いのに漫画描き続けるからだと言おうとして違和感に気づく。


「なんかあったか?」


 テスト期間中は母さんの夜間巡回があるので睡眠不足ではないようだが、いつもは有り余っている元気が今日はあまり無さそうに見える。


「……なにもないよ」


「はあ、その反応はやっぱり何かあったな。なんだ?母さんの不機嫌のとばっちり受けたくないから言ってみ?回避できそうなら一緒に考えてやるから」


 妹はバカなので母さんをよくマジ切れさせる。しかも、毎度俺にもその被害が来るので些細な変化にも気づくように調教されてしまった。


「…………友達と喧嘩しちゃった」


「いつものことじゃないか」


「今回はダメかも。今考えるとすごいひどいこと言っちゃった気もしてきたし」


 これは長くなりそうだと思い、今日はバイクに乗るのを諦めることにする。

 無言で顎をしゃくり、リビングに座らせる。

 そして、妹の好きなココアを入れつつ尋ねた。


「なにがあったんだ?」


「……今日ね、友達の漫画読ませて貰って。思わず、つまらないって言っちゃったんだ。あの子がすごい頑張って描いてたの知ってたのに」


 なるほどな。こいつは本当に不器用だなと改めて思う。単細胞で、後先考えない感情特化型。
 
 会話をまとめるのも下手糞で気の利いた言葉なんか望むべくもない。


「お前、言葉選びが人類として終わってるときあるよな」


「もう!お兄ちゃんのバカ!!でも、ほんとそうだよね。言いたいことが他にもあったのにぜんぜんまとめられないの」


 こいつは、説明が下手なだけで悪気は一切ないことが多い。だけど、仲の良い友達も感情優先型の子が多いから、恐らく今回は歯車が完全に食い違ってしまったのだろう。


「別に無理にまとめようとしなくていいだろ。幼稚園児みたいな単語の羅列でもいい、それこそ、お前の好きな漫画みたいに絵や文字で伝えてもいいんだ」

 
 上手く伝えようとするからこいつは間違えるのだ。それこそ、思ってることをちゃんと伝えれば悪気がないのは分かってくれるだろう。

 それに、頭はともかくこいつの性格は人にとても好かれやすい。心の内をちゃんと見せれば大体のことは問題にならないだろう。

 
「そんなんダメだよ。ちゃんと言葉で伝えなきゃ」


「それができないから今こうなってるんだろ。いいんだよ、伝われば。会話なんてツールの一つだ。今俺がやってるゲームなんてあれだぞ?テンプレートのジェスチャーでしか会話できないからな」


「なにそれ。それってぜんぜん伝わらなくない?」


「いや、意外に伝わるんだ。お互いがお互いの方を向いてればな」

 
 それこそ、積み重ねた時間があれば尚更伝わるだろう。

 うちには考えると同時に動き出すような親父と妹に表情筋が壊滅的な俺と母さんがいる。
 
 でも、言葉に全てしなくても、もしくは会話になっていなくても伝わるのだから。それでいいのだ。


「まあ、頑張れ。お前が気持ちを伝えればちゃんと仲直りできるよ」

 
 しょぼくれた頭に手を置き、優しくなでると、少し元気が出てきたようだ。


「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」


「どういたしまして」


 なんとか、元気になってきたようだ。ほんとに手のかかる妹だな。


「けど、お兄ちゃんってなんだかんだ優しいよね。たまに気も利くし」


「おい。いつもの間違いだろうが」


 たまにブチ切れそうになりながら、お前の面倒を見て上げてる俺の身にもなって欲しい。


「彼女とか作らないの?」


「うーん、別に欲しくないしな」


「そんなこと言ってたら高校生活終わっちゃうよ。ほら、モテる方法教えてあげるからアイス買いに行こ」


 先ほどまでの落ち込みようはなんだったのか急に元気になった妹が調子を取り戻し始める。

 別にモテる方法が聞きたいわけでは無いんだが。


「まあ、いいか」

 
 コイツにはもう少し頭を使ってもらった方がいい。それには糖分の摂取も重要だろう。


「ほら、早く!暑いんだから」


「引っ張るなって。わかったから」


 夕焼けに染まる道、聞きたくもないモテ男ポイントを聞き流しながらコンビニへと向かった。
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