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第二章

第110話 これからも、ずっと ※アルバート視点

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※アルバート視点になります

 アリシアや村のみんなのお蔭で、結婚式は盛大なものとなった。

 先輩が腕を振るってくれた山盛りのご馳走は無限に食べられる旨さで、もいだばかりのアステリは甘く瑞々しくて絶品だった。
 腹が減っていたこともあって夢中で食べていたら「新郎が1番食べるとか聞いたことない」とサディに呆れられた。

 嵐の後で村人たちも疲れ切っているだろうに、式は2次会3次会と続いた。

 俺たちが早々に抜けるわけにはいかないから、村長の奥さんが今晩アリシアを預かってくれると申し出てくれて有難かった。
 結局俺たちも限界を迎え、朝を迎える前に抜け出しサディと共に家に戻った。

 純白のスーツを脱ぎ捨て、適当な部屋着に着替えるとベッドにダイブした。サディは丁寧に服を脱ぎながら、脱ぎ散らかした俺の残骸に視線を落とす。

「皺になっちゃうからちゃんと掛けときなよ。せっかく俺らのために用意してくれたスーツなのに」
「わかってる。ただ、俺はもう指一本動かす気力がない」
「ったく」

 ぶつぶつ言いながら俺と自分のスーツをワードロープに仕舞っていく。
 着替えたサディが、そっと俺の隣に横になった。

「良い式だったね」
「ああ」

 サディが左手を天井に伸ばす。俺が渡した金色の指輪が、部屋の照明に反射して光っている。

「なんでシルバーじゃなくてゴールドにしたの?」
「……カッコイイから」

 素直に言うと、サディが吹き出した。

「言うと思った」
「気に入らなかったか?」
「ううん、すごいアルっぽくて嬉しい。それにシンプルですごくいいね。なんかやたらと装飾が凝ったり、でっかい宝石付いてるようなやつにしなかったんだ」
「俺も少しは引き算の美学を覚えたんだ」
「へえ、そりゃすごい」

 指輪は鍛冶屋と硝子屋の主人たちと相談を重ね、散々デザイン案を出したが結局シンプルが1番ということで落ち着いた。金色のリングにさり気なくダイヤが埋め込まれている。
 指輪なら常に身につけていられるデザインが良いだろう。見映えだけで選んでは、ライラック号の馬車の二の舞になる。俺だって学習する。

「これなら、いつでも嵌めていられるだろ」

 言うと、サディの頬に赤みが差した。それからふっとイタズラっぽく笑うと

「いつでも俺がアルのものだって自覚できるように?」
「サディをものだなんて思ったことはない!」
「いやそういう意味で言ったんじゃないんだけど……」

 呆れたようにサディがため息を付いた。束縛をするような器の小さい男だと思われたくなかっただけだが、何か間違えたらしい。

「まじめだなぁ」
「わ、悪い……」
「アルが俺を大切に思ってくれてることは十分わかったよ」

 サディが俺に身を寄せる。灰色の髪が俺の頬をくすぐった。

「ねえ、今度お揃いでアルの分も作ってもらおうよ。結婚指輪なら、ペアで付けるものだろ」
「でも俺にはサディから貰った指輪があるからな」

 俺も左手を掲げれば、サディに貰った指輪が……ッ!?

「し、萎れてる……」

 シロツメクサの花は萎れて縮み、白かった花びらは茶色く変色していた。

「せっかくサディが作ってくれた指輪が……」
「時間が経てばそうなっちゃうよ」

 ガックリと脱力した俺の髪を、慰めるようにサディが撫でる。

「そんなに喜んでくれてたの?」
「当たり前だろう。お前から貰ったんだから」
「じゃあやっぱり永遠に枯れない指輪、アルにも作ってもらおうよ」

 そう言って、指輪を嵌めた手を俺の目の前に差し出す。

「ここ、俺とアルの名前が入ってるんだね」
「せっかくならそうしろって、硝子屋に勧められてな」
「それならアルの指輪にも名前彫らなきゃね。あ、そうだ。アリシアちゃんの名前も入れたらどうかな」
「アリシアの?」

 サディの声が柔らかい。俺のパートナーとしてではなく、あの子の父親としての言葉だ。
 その微笑んだ紫の瞳があたたかい。

「良いアイディアだな」
「でしょ?」

 サディの手を掴んで、まじまじとその指輪を眺めた。細く白い指にピッタリと嵌ったそれは、俺の無骨な手にも似合うだろうか。

「なに? 積極的じゃん」

 気づくと、サディがニヤリと口角を上げていた。違うと言う間もなく、耳元に唇を寄せられる。

「さっきの続き、しようか」

 吐息を掛けられた耳が一気に熱くなった。

「サディ……お前よくそんな体力あるな」
「さっき1回寝たから大丈夫だよ。せっかく初夜なんだしさ」
「別に初めてじゃないだろ」
「野暮なこと言うなぁ」

 言い返そうとする俺の唇を指でなぞられる。その感覚に、結婚式での感触が甦った。

「あれじゃ物足りなかったんでしょ?」
「足りないわけがあるか! アリシアの前で、というか大勢の前で、あんな風に……すること……ないだろう」

 口に出す度ありありと甦る感覚に言葉が途切れる。そんな俺を笑って「目閉じて」とサディが囁いた。互いの鼻先が当たるほど迫られれば、逃げるすべはない。
 思わず吹き出すと、サディが怪訝そうに小首を傾げた。

「なに笑ってんの?」
「いや、幸せだなぁと思ってな」
「俺も、すごく幸せだよ」

 小さく笑い合って、俺は目を閉じた。

 こうして、俺たちの長い1日は幕を閉じた。
 でも俺たち3人の暮らしは続いていく。これからも、ずっと。

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