上 下
107 / 111
第二章

第107話 英雄

しおりを挟む

「結婚式か」

 鼻の下に髭のある村長さんが低く唸った。

「お父さん、お願い。今日はアリシアちゃんのお父さんたちの大切な記念日だったの。私たちもずっと準備していて、どうしても結婚式をやりたいの」

 ソフィアちゃんの懇願に、ざわついたのは避難していた村の人たちだった。

「台風の片づけもまだだってのに、結婚式なんて」
「そもそも男同士じゃないか。どうしてそんな」
「都会のやつというか、勇者ってのはよくわからんなぁ」

 ざわめきは次第に大きくなっていく。無理もない。
 私たちはまだまだ余所者で、そんな者たちがこんなときに結婚式を、しかも男同士でやりたいというのは意味が解らないだろう。
 ハドリーさんはゴリ押しでいけるっていってたけど、そんなに上手くは……

「やろうじゃないか!」

 村長さんの張りのある声が、広い部屋に響いた。みんなシンと静まり返り、村長さんに注目する。

「クローバーさんたちは危険を顧みず、避難誘導や救助を買って出てくれた。それに加え先程喫茶店のマスターから、森にあるアステリの木をクローバーさんたちが雷雨から守ってくれたと報告を受けた。彼らは村の英雄だ。プレンドーレ村をあげて礼をせねばならない」

 マスターというのはハドリーさんのことらしい。フルグトゥルスと言っても信じて貰えるかわからないから、そういう話として報告したみたい。
 アステリの木、というワードに再び村の人たちがざわめいた。

「森にアステリの木が!?」
「噂に聞いたことはあるぞ。ただの伝説だとばかり……」
「今年のアステリは全滅だと思ったが、そのアステリが守られたのなら」

 ガタッと誰かが立ち上がった。ひとつに編んだ三つ編みを肩の前に垂らした細身のお姉さんだ。でも立ち上がった途端よろけて、傍にいたお婆さんに支えられる。

「私、お手伝いします! 私と祖母はサディアスさんとハドリーさんに助けていただきました」
「あの方々が救助に来てくださらなければ、わたしも孫も逃げ遅れていたことでしょう」

 2人の言葉に、村の人たちが顔を見合わせる。

「そんなこと言ったら、俺もアルバートさんに言われなければ避難が遅れていただろうな」
「アルバートさんは川の様子を見に行くって聞かないうちの爺さんの代わりに、川を見に行ってくれたんだ。お蔭で爺さんも納得したよ」
「わしの畑もよく手伝いに来てくれてな。うちは若いのがいないから助かったさ」
「最初は本当にあれが勇者かねと思ったが、救助に駆けまわってるとこは顔つきが違ったなぁ。なかなか良い顔をしてやがった」
「あら、アルバートさんはずっと良い男ですよ」
「でも私は断然サディアス様派!」
「じゃあ、ハドリーさんはあたしが貰いますね!」

 なんか後半違う話になってる気もするけど、ざわめきが明るい雰囲気に転調していってる。
 ゴホン、と村長さんが大きく咳をした。

「ではこれより、プレンドーレ村をあげてアルバートさんとサディアスさんの結婚式を盛大に執り行う! 各々、準備に取り掛かるように!」

 おおー! と、自然と声が上がった。拍手まで沸き起こる。
 私もソフィアちゃんも力いっぱい手を叩いた。

「あなたがアリシアちゃんね?」

 拍手の中で、1人の女性に声を掛けられた。白い大きなエプロンが汚れてしまっている。

「この前、ハドリーさんから仕立ての依頼を受けたの。アルバートさんとサディアスさんの結婚式の服を」
「お姉さん、仕立て屋さんなんだ!」
「ええ、そうよ。最初は男の人2人のウェディングスーツなんてどうしようかと思ったけれど、引き受けて良かったわ。仕上がっているから、後でおうちまで届けるわね」
「はい! ありがとうございます!」

 にっこり微笑んだ仕立て屋さんに釣られて、私も緊張していた頬が緩む。
「ウエディングスーツ」と横から吐息混じりのソフィアちゃんの声が聞こえる。

「勇者様3人のウェディングスーツ……どんなに素敵なのかしら。どんなお衣裳なの?」
「私もまだ見てないんだ。ハドリーさんが頼んでくれたんだけど」
「それなら、式までのお楽しみね」

 うっとりとソフィアちゃんは胸の前で指を組んだ。

 さあ、そろそろ本当に結婚式の準備に取り掛からなくちゃ!


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...