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第二章

第105話 2人のお父さん

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 小鳥たちに連れられたそこは、暗い森の中だというのに光に溢れていた。
 中央には大きな木がそびえ立っていて、枝先に飾られたランプが輝いている。いや、あれはランプじゃない。

「アステリ……?」
『そうよ! アステリが熟したの!』
『流星がアステリの木に降り注いだの!』

 まるでクリスマスツリーのイルミネーションのようだけど、人工的な明かりとはまた違う。
 本当に夜空の星が落ちてきて、目の前で輝いてるみたい。

「こんな森の中にアステリの木があったのか」
「アステリの木って、今は村の人が畑に植樹したものしかないって村長さんが言ってたけど」

 お父さんとサディさんが首を捻る。
 小鳥たちが得意げに輝く光の中を飛び回った。

『これは大昔から森に生きているアステリの木なのよ。森の動物たちしか知らない秘密の場所なの』
「え? 私たちに教えちゃっていいの?」
『アリシアとお父さんたちは特別。私たちのために頑張ってくれたから』
『特別! 特別!』
「みんな……」

 みんなの気持ちに、胸があったかくなる。怒涛の1日の疲れも、夜風の寒さも全部吹き飛んでしまった。
 サディさんも、うっとりとアステリの木を見上げてる。でもお父さんは、サディさんを見つめてた。

「本当にキレイだね。村の人たちはこの場所知ってるのかな。小鳥たちに感謝しないとね」
「サディ」
「なに?」
「話がある。聞いてほしい」

 そう言って、お父さんはおもむろにサディさんの前に跪いた。
 もしかしなくてもプロポーズ!? 確かにこんなロマンティックな場所は他にない。素敵な雰囲気だし、プロポーズにピッタリ!

「アル……?」
「サディと出会って旅して、嬉しいときも悲しいときもお前はずっと俺の傍にいてくれた。俺は本当に幸せだ。そして、これからもずっと俺のパートナーとして、家族として一緒にいてほしい。すごく遠回りして散々待たせたが、今ここにサディとの永遠の愛を誓う。俺と、結婚してほしい」

 アステリに照らされたお父さんの表情は硬かった。でもサディさんをまっすぐと見つめたその瞳は、夜空の星のように澄んでいた。
 サディさんの瞳が、きらりと光る。

「アル、俺……」

 待った、とお父さんがサディさんの言葉を手で止めた。ごそごそと服を探ってる。
    でも、何も出てこない。
 あれ? あれ? と服をあちこち触ったり、叩いたり。どうも雲行きが怪しい。

「しまった……指輪、置いてきた」

 お父さーーーーん!!
 そりゃそうだよ。今日はお祭りの最終準備だと思って家を出て、それからずっと避難救助してフルグトゥルス退治してたんだもん。指輪持って来てるわけないじゃん!
 もー、勢いで突っ走っちゃうんだから! 感動的なプロポーズだったのに!

 ふっと笑ったサディさんが、慌てているお父さんの横をすり抜けた。
 何かを探すようにキョロキョロと地面を見下ろして、「あった」とそれを摘む。器用に指先を動かし、何かを作ってるみたいだ。

「ほら、立って」

 お父さんの左手を引っ張って立たせ、薬指にそれをはめた。
 シロツメクサの指輪だ。

「っ……!」
「俺はずっとアルを見てた。アルが俺を見てないときもずっとね。傍にいられれば、それで十分だと思ってた。けど、俺もワガママになったね。俺は今までもこれからもアルの傍でアルを見ていたいし、アルには俺を見ててほしい」
「サディ……」
「家族なんて縁がないと思ってた俺に、家族を教えてくれてありがとう。結婚しよう、アルバート」
「サディアス……っ」

 涙ぐむお父さんを、サディさんが抱きしめた。
 アステリの光に優しく包まれた2人が、ひとつのシルエットになる。

 お父さん、サディさん、良かった。ずっとずっと、幸せにね。

『何してるの? 何してるの?』

 石の上に乗ったキキが首を傾げてる。キキの周りをピッチとルリがぴょんぴょん飛び跳ねた。

『プロポーズよ、キキ』
『プロポーズ?』
『2人は結婚したの』
『結婚? 結婚式!』
『結婚式はもう……そうだわ!』

 ピッチが私の前にパタパタと飛んできた。ルリとキキもそれに続く。

『アリシア! ここで結婚式をすればいいわ!』
「え、でもここは秘密の場所なんでしょう?  結婚式には他のみんなも呼ばなくちゃだから…」
『アリシアのお父さんたちはフルグトゥルスを追い払ってくれたもの。森のみんなもきっと良いって言ってくれる!』
『結婚式! ありがとうの気持ち!』

 小鳥たちの提案に、私は戸惑いながらも頷いた。

「ありがとう。みんな」

 お父さんは左手にはめられたシロツメクサの指輪をじっと見つめていた。

「キレイな指輪だ」
「アルがくれる指輪も楽しみにしてるよ」
「う……せっかく格好良く指輪を渡すつもりだったんだが、結局格好がつかなかった」
「いつものことじゃない。でもそんなアルが、俺は好きだけどね」

 見つめ合う2人。邪魔したくない。
 けど、サディさんが私の視線に気づいてしまった。

「アリシアちゃん、小鳥たちによくお礼を伝えておいてくれる? 素敵な場所をありがとうって」
「うん、伝えておく。それであのね、ここで結婚式をしたらどうかな?」
「結婚式? 俺たちのか?」

 お父さんが目を丸くした。

「今日はお父さんたちが旅立った記念日なんでしょう? だから今日ね、本当はソフィアお姉ちゃんたちにも手伝ってもらってお父さんたちの結婚式をしようと思ってたの。そのために準備してたアステリランプはダメになっちゃったけど……でもここなら、結婚式ができると思う!」

 サディさんが驚いてお父さんを振り返った。

「旅立った記念日? もしかして、だから急にプロポーズなんてしたの?」
「急じゃない。毎年記念日は祝っていただろう。だから……」
「俺完全に忘れてた。ホント、そういうとこマメだよね」
「そういう俺も、好きなんじゃないのか?」
「言わせようとするなよ」

 やれやれ。でも2人とも嫌がってはないみたいだね。
 いつの間にか2人は手を繋ぎ、私を優しく見下ろした。

「ありがとう、アリシア。結婚式、ぜひ開かせてもらおう。ただ、今からじゃロクに準備ができないがな」
「大丈夫! ハドリーさんとナーガさんに準備してもらってたの!」
「ハドリーさんとナーガにまで? 記念日を大切にするとこは親子だね。さすがアルの子」
「俺たちの子だろ」

 茶化すように言ったサディさんが、お父さんの返答に面喰った。それから少し笑って、サディさんが屈んで私と目線を合わせる。

「アリシアちゃん……僕もアリシアちゃんのお父さんになっても、いいのかな?」
「うん! サディさんは、私が娘になってもいいの?」
「もちろん! アリシアちゃんは僕の大切な娘だよ!」

 サディさんが抱き上げてぎゅっと頬を寄せてくれる。横に立ったお父さんが、私の頭を撫でてくれた。
 2人の愛がいっぱい、いっぱい伝わってくる。

 私には、お父さんが2人もいる。
 大好きで最高な、2人のお父さん。
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