孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

文字の大きさ
上 下
104 / 111
第二章

第104話 見せたいもの

しおりを挟む

 結婚式だけならできるかも。
 ……なんて甘い考えは、一瞬で崩れ散った。

 ケガ人などは出ていなかったものの、村は街路樹や植え込みがなぎ倒されてぐちゃぐちゃだった。地面は泥水と葉っぱにまみれてる。
 お祭りに準備していた物も撤退が間に合わなかったのか、屋台のテントやみんなで作ったアステリランプの残骸が散らばっていた。

 呆然としていたお父さんが、やっと口を開く。

「これは片付けに何日も掛かるな」
「ナーガの魔法でどうにかならねえのか?」
「僕の魔法にだって限度はある」

 勢いよくナーガさんを引っ張ってきたハドリーさんも、食事どころではなくなってしまったみたいだ。
 片付けを始めようにも、村の人たちみんなこの惨状にすぐには動けないでいる。

「誰もケガがなくて良かったね。今年は残念だったけど、きっと来年にはアステリも熟すよ」
「うん……」

 サディさんが慰めてくれたけど、上手く笑えない。
 村がこんな風になっちゃったのに結婚式のことを考えるなんて不謹慎かもしれないけど、でもこの日のために頑張ってきたのに。
 この雰囲気じゃ、お父さんはプロポーズも諦めちゃうだろうな。
 今日は大切な日だったのに。お父さんとサディさんが旅立った、大切な――

『アリシアーー!!』

 振り向くと、小鳥たちが飛んで来た!
 ピッチとルリと……キキだ!

『アリシア! アリシア!』
「キキ! 無事だったんだね。みんなも、ケガはない?」

 キキが私の右肩に乗ると、ルリも私の左肩に留まった。

『大丈夫。アリシアのお父さんが私たちを安全な木の隙間に隠してくれたの』
『その近くで偶然キキを見つけたのよ!』

 ピッチが私の頭の上で飛び跳ねてる。
 お父さんがみんなを助けてくれたんだ。

『アリシア? 元気ない?』

 キキが小首を傾げた。

「ちょっとね……。結婚式、できなくなっちゃったから」

 サディさんに聞こえないように声を落とした。
 言っても仕方ないのはわかってるけど、小鳥たちにくらいは零してしまう。
 ふいに「アリシアちゃん」とサディさんに呼ばれる。

「小鳥たちもみんな無事だったんだね、良かった。みんながアリシアちゃんのピンチを教えてくれたんだよ」
「そうだったの? みんな、ありがとう」

 みんな私に助けを求めてたのに、結局私が助けてもらっちゃった。私、なんにもできなかったな……。

 小鳥たちが私から飛び降りて、丸くなってなにやらピーピーと話し始めた。
 しばらくすると、ピッチが私を見上げて翼を大きく広げる。

『アリシア! アリシアに見せたいものがあるの』
『ついて来て! お父さんたちも一緒に』
「え? どこに?」
『早く早く!』

 よくわからないけど、行ってみた方が良さそう。

「お父さん、サディさん。一緒に来て」
「どうした?」
「小鳥たちが、お父さんたちと一緒に来てって」

 お父さんとサディさんが顔を見合わす。

「まさか、フルグトゥルスが戻ってきたのか?」
「こんなすぐに? それより、倒れた木の下敷きになってる動物がいるとかかもしれないよ」
「とにかく行ってみるか」

 小鳥たちが飛んで行く方へ、お父さんたちと一緒について行く。
 お父さんたちは心配してたけど、私は悪い予感はしてなかった。何を見せたいのかは全然わからないけど多分、悪いことじゃない気がする。

 小鳥たちが向かったのは、また森の中だった。
 夜の森は暗くて、サディさんが魔法で明かりを灯してくれる。
 こっちの道は、フルグトゥルスがいた方向じゃない。ナーガさんの家の方とも違う。道になっていない道を、木々を掻き分けて進んで行く。

「どこまで行くんだ?」
「結構奥まで来ちゃったね。魔法で蛍を出せば、帰り道は大丈夫だと思うけど」
「みんな、まだ着かないの?」
『もうすぐ! こっち! こっち!』

 飛んで行ったキキたちが暗闇に消えてしまう。でもその先に、ぼんやりと光が見えた。
 あれが、私に見せたいもの?

「わあ……っ!」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

処理中です...