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第二章

第101話 お父さん似

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「サディ?」

 お父さんの声に、膝をついていたサディさんが振り向く。私たちの顔を交互に見て絶句してる。

「……アル? アリシアちゃんも」
「サディ、来てたのか。避難の方は大丈夫だったか? こっちは見ての通りフルグトゥルスが現れた。俺も引退してから腕がなまったな。タイマン勝負じゃ防戦するのがやっとだ。その上あいつは強力な光線を放つ。アリシアを連れて逃げるのがやっとだった。レインコートも台無しになっちまって、ナーガにまた嫌味を言われそう……ッ!!?」

 殴りかかってきたサディさんの拳を、お父さんが慌てて受け止める。

「ど、どうしたサディ!? 魔物に操られてるのか!?」
「ふっざけんなよ! 紛らわしいマネするな!」
「はあ? 何がどうした?」
「こんなのあったから、アルが……死んだかと思って……」

 サディさんの手には白い切れ端が握られている。お父さんのレインコートだ。
 フルグトゥルスが光線を放とうとしていることに気づいたお父さんは、私を抱えて遠くまで走った。でもすぐに光線は放たれ、私たちは爆風のような衝撃に吹き飛ばされた。

 そのときに、お父さんのレインコートが引きちぎられてしまった。
 さっきまで私たちがいた場所は爆弾でも落ちた後みたいに、一面木々が焼き払われ、地面には小石ひとつ残っていない。
 この状況を見たら、私とお父さんが無事ではないと思っても仕方ない。

「俺が死ぬわけないだろう。そんな取り乱すなんて、サディらしくないぞ」
「アルとアリシアちゃんのことじゃなかったら、こんなに取り乱さないよ」

 それくらいわかれよ、というような視線がお父さんに向けられる。
 言葉に詰まったお父さんが頭を掻いた。

「悪い。心配かけた」
「別にいいよ。本当に死んでたら許さなかったけど」
「俺がサディを置いていくわけないだろ」

 ストレートな言葉にサディさんが面食らった。それから、可笑しそうに吹き出す。

「そういう言葉、サラッと言えちゃうところがすごいよね」
「何か変なことを言ったか?」
「自覚ないんだ。でも、俺を置いていく気がないのなら良かった。せいぜい頑張って長生きしてよ。もしアルが死にたくなったらその時は」
「お、おい。アリシアの前で縁起でもないこと……」
「俺が殺してやるから」

 口の端を吊り上げたサディさんの目は笑っていない。お父さんの顔に脅えが見えた。
 ヤンデレ攻めじゃん。嫌いじゃない。

「アリシアちゃん!」

 パッといつもの優しい笑みに戻り、サディさんが私に駆け寄った。

「無事でよかったよ。どこかケガはない?」
「大丈夫、お父さんが守ってくれたから」
「そっか。アルはアリシアちゃんのヒーローだね」

 私に向けられた優しい笑顔の片隅に、安堵の表情が見えた。
 心配かけちゃったな。もとはと言えば私のせいだから、罪悪感で胸が痛む。

 ギャオーと、遠くからフルグトゥルスの雄叫びが聞こえた。
 家族団欒の空気が、一気に張り詰める。

「あれがフルグトゥルスか」
「さっき俺が翼を切り落としたんだが、あっという間に再生したみたいだな。もう元気に空を飛びまわってる」
「フルグトゥルスってモンスターじゃなくて精霊なんだっけ? 厄介な相手だね。完全に倒すのは無理そうだよ」
「俺たちに敵わないと思わせて、巣穴に帰らせるしかないな。そうすれば、しばらくこの地には近づかないだろう」
「カラスを追い払うための鷹になるってことだね。そこまで圧倒させられるの?」
「できるさ」

 お父さんが事も無げに頷いた。
 1人では苦戦してたのに、今は自信に満ち溢れている。

「1人じゃない。俺たち2人ならな」
「またカッコイイこと言っちゃって。ハドリーさんとナーガの援護がなくても平気だって?」
「それは……困る」
「そりゃそうだ。俺たちは、全員で勇者だからね」

 顔を見合わせて、2人が笑った。
 それから、お父さんが真剣な顔で私を見た。

「アリシア、なるべく遠くに逃げていなさい」
「あんまり遠くに行かせるのは危険だよ。もしフルグトゥルスがアリシアちゃんの方に行ったら対処できない」
「そうか……じゃあそこの岩だ! その後ろに隠れていなさい」

 お父さんが少し離れた場所にある大きな岩を指さした。私の身体の倍くらいあって、フルグトゥルスからすっぽり隠してくれそうだ。万が一光線が飛んできても盾にできる。

「わかった! お父さん、サディさん、頑張ってね!」
「うん、応援しててね」
「アリシア、絶対そこから出てくるんじゃないぞ! 何があってもだ!」
「はーい!」

 お父さんに念を押されて、私は岩の向こう側まで走った。
 後ろから、お父さんが息を吐くのが聞こえる。

「今度は本当にじっとしてられるだろうか……」
「大丈夫だよ、って言い切れないのがアリシアちゃんだよね。ときどき無鉄砲に行動するところがあるから。誰に似たんだろ?」
「俺に似たんだな」
「ははっ、きっとそうだね」

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