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第二章

第98話 怪鳥

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「キキー! どこにいるのー!?」

 森に立ち込めた霧と冷たい雨に、叫んだ声は掻き消される。キキの姿どころか、子リス1匹見当たらない。
 もしかしたら避難できたのかもと洞窟を見に行ったけど、キキはいなかった。

 あちこち探しまわったけど、子供の足じゃ限界がある。あまり無茶をして足でも滑らせたら大変だ。
 舗装されてない森は少しでも油断すると足を取られそうになってしまう。
 こんなことなら、捜索の魔法でも習っておけば良かった。

 と考えたところで、ナーガさんが頭に浮かぶ。

「ナーガさんに頼んでみよう。ナーガさんの魔法ならキキを捜せるはずだよ!」

 良いアイディアだと思ったけど、ピッチとルリは顔を見合わせた。

『あの魔法使いがそんなことしてくれるかしら』
『代わりにアリシアの魂を取られたりしない?』

 相変わらず、とんだ悪魔とでも思われてるみたいだ。

「ナーガさんは私のお師匠様だよ。あんな感じだけど、本当はすごく優しいの。こんな大ピンチなんだもん。一生懸命お願いすれば、きっとキキを捜してくれ――」

 ゴオオオオ

 衝撃波のような音が降ってきた!
 恐る恐る上を見上げると、いつの間にか灰色だった空が紫色になっている。

 突風が吹いて、ピッチとルリが吹き飛ばされた。2羽を腕の中に抱き留めた拍子に、バランスを崩して尻もちをつく。

『アリシア! 大丈夫?』
『ケガしてない?』
「平気。さっきのは……?」

 こんな紫の空、初めて見た。
 それにあのカミナリ、今までの音とは違う。

 と、辺りが影に覆われた。
 ピッチとルリが上を見上げて固まっている。湧き上がってくる恐怖を抑え込んで、なんとか空を見上げると――

 ギャオオオオオ

 空に浮かんだ大きな物体から、音波のような強烈な叫びが放たれた。耳の奥がキーンと痛む。

 《それ》は例えるなら黒い鷲。

 でも鷲なんかより何十倍も大きく、黒い翼を大きく広げると森中が飲み込まれてしまいそうだ。鋭い目と尖ったくちばし、鉤爪だけが怪しく赤く光って見える。

「あれが……フルグトゥルス……」

 フルグトゥルスが空に向かって頭を仰け反らせた。大きく開いたくちばしに、光の玉が集まっている。
 咄嗟にピッチとルリを服の中に隠し、しゃがみ込んで耳をふさいだ。瞬間、フルグトゥルスが咆哮を上げた。
 ドン、と地震のように地面が波打つ。踏ん張って耐え、服の中を覗き込んだ。

「大丈夫!?」

 ピッチとルリが飛び出てくる。

『ありがとう、アリシア』
『アリシアは大丈夫?』
「うん、平気だよ。早くキキを捜して村に戻ろう」

 動き出そうとすると、2羽が顔の目の前に飛んできた。

『もう村に戻った方がいいわ』
「でも、まだキキが」
『これ以上ここにいたら、アリシアも危ない』

 でもフルグトゥルスが現れた今、ますますキキを1羽で放っておけない。

 風が起こった。見上げると、フルグトゥルスが翼をゆっくりと動かしている。
 高く掲げていた頭を下げ、地上の何かを見下ろしてる。その赤い瞳に、身体の中の何かが疼いた。痺れるような感覚。

 これ、魔力だ。私の中の魔力が、フルグトゥルスに反応してる。
 フルグトゥルスはまたくちばしを開き、光の玉を集め……

「ピッチ! ルリ! 逃げて!」

 走り出した瞬間、すぐ後ろに衝撃が落ちた。
 吹き飛ばされて地面を転がる。なんとか身体を起こすと、さっきまでいた場所に大きな穴が開いていた。
 見上げたフルグトゥルスは、こっちを見据えてる。

 ――私を狙ってるんだ


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