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第二章
第97話 SOS
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1人、また1人と子供たちが親に連れられて帰って行く。
何回目かに役場のドアが開くと、お父さんとサディさんが立っていた。白いレインコートを着てる。
「お父さん! サディさん!」
「アリシア! 遅くなって悪かったな」
「急に雨が来たからね。お祭りの撤収と避難誘導をしてたんだよ」
サディさんがレインコートのフードを取ると、水滴が辺りに飛び散った。
「外、雨すごいの?」
「さっきまでバケツをひっくり返したみたいだったけど、今はそうでもないよ。油断はできないけどね」
「フルグトゥルスが来てるからな」
「やっぱりフルグトゥルスなの!」
お父さんとサディさんが同時に頷いた。
「まだ姿は見えないけど、ただの雷雨じゃなさそうだよ。さっきハドリーさんもそう言ってた」
「ナーガの予測的中だな」
ライラック号やピッチたちが言ってたことが大当たりだ。
お父さんが私の前に膝をついた。
「すぐ一緒に帰りたいところなんだが、お父さんはこれから家に戻ってライラック号を避難させないといけない」
「僕はまだ家に残ってる人たちの安否確認をしてくる。こういうとき魔法が使えて良かったよ。連絡係ができるからね」
「役場は避難所になってるからここにいれば安心だ。アリシア、もう少し1人で待ってられるか?」
「うん、大丈夫。お父さんもサディさんも気を付けてね」
そう言うと、お父さんが私の頭を撫でてくれた。
サディさんも一瞬ホッとした顔をしたけど、すぐ笑みを消してフードをかぶり直した。
「アル、僕はそろそろ出るね」
「俺も行く。ライラック号の避難が済んだら合流する」
「わかった」
任務に向かう2人の横顔は凛々しくてかっこいい。ソフィアちゃんに見せたかったな。
本当は今日が2人の大切な旅立ち記念日で、プロポーズして結婚式するつもりだったのに。フルグトゥルスが憎い……!
お父さんとサディさんを見送りに出ると、確かに雨脚は弱まっていた。
でも灰色の雲はどんよりと重く暗く、まだまだ晴れ間が見える気配はない。
役場に私以外子供は誰もいなくなったけど、大人たちはまだバタバタしてる。
今更だけどこの世界に電話ってのはなくて、魔法がその代わりをしてる。サディさん以外の人は、自分たちの足で連絡を取り合ってるみたいだ。
コツコツ、と窓を叩く音が聞こえる。また雨が強くなってきたのかな。
と見上げると、ピンクと青い小鳥が窓をつついてる!? ピッチとルリだ!
急いで窓を開けると、2羽が飛び込んできた。羽はずぶ濡れだ。
「どうしたの!?」
と聞いてみたものの、2羽は慌てた様子でピーピー鳴くだけ。そうだ、魔法を使わなきゃ。
床に置いたカバンから杖を取り出して、集中する。
「汝の声を聞かせ――」
『大変だわ!』
『大変なの!』
呪文を言い終わる前に2羽の声が重なった。私の魔法もスムーズになったな、なんて感動してる場合じゃない。
「フルグトゥルスが来たんでしょ? 森は大丈夫?」
『大丈夫じゃないわ! 私たち、フルグトゥルスの気配がしてすぐ洞窟に逃げたの』
『でも、キキがいないの!』
「え! 一緒じゃなかったの?」
『避難するときは一緒だったわ。でも洞窟についたらいなかったの』
『森のみんなが一斉に逃げたから、もみくちゃになっちゃって……』
窓の外がフラッシュした! 次の瞬間、張り裂けるような雷の音が轟く。
ピッチとルリがピー! と鳴いて私の腕の中に飛んできた。震えてる2羽を両手で受け止める。
こんな嵐が近づいてる中を、キキはどこかに1羽でいるんだ。
森の中で迷子になったときのことが思い起こされる。孤独の闇に飲み込まれそうになりながら、必死に助けを求めて……
「キキを捜しに行こう!」
『ありがとう! アリシア!』
『キキと一緒にいた場所まで案内するわ!』
部屋の隅に置いてあった大人用のレインコートを拝借する。
出て行くなんて言ったら止められるに決まってるし、そもそも「小鳥たちに言われたから助けに行く」なんて信じてもらえっこない。
まだ雨は弱いし、風も吹いてない。今なら大丈夫。
レインコートで頭から足元まですっぽりと身体を覆って、こっそり役場から出た。
何回目かに役場のドアが開くと、お父さんとサディさんが立っていた。白いレインコートを着てる。
「お父さん! サディさん!」
「アリシア! 遅くなって悪かったな」
「急に雨が来たからね。お祭りの撤収と避難誘導をしてたんだよ」
サディさんがレインコートのフードを取ると、水滴が辺りに飛び散った。
「外、雨すごいの?」
「さっきまでバケツをひっくり返したみたいだったけど、今はそうでもないよ。油断はできないけどね」
「フルグトゥルスが来てるからな」
「やっぱりフルグトゥルスなの!」
お父さんとサディさんが同時に頷いた。
「まだ姿は見えないけど、ただの雷雨じゃなさそうだよ。さっきハドリーさんもそう言ってた」
「ナーガの予測的中だな」
ライラック号やピッチたちが言ってたことが大当たりだ。
お父さんが私の前に膝をついた。
「すぐ一緒に帰りたいところなんだが、お父さんはこれから家に戻ってライラック号を避難させないといけない」
「僕はまだ家に残ってる人たちの安否確認をしてくる。こういうとき魔法が使えて良かったよ。連絡係ができるからね」
「役場は避難所になってるからここにいれば安心だ。アリシア、もう少し1人で待ってられるか?」
「うん、大丈夫。お父さんもサディさんも気を付けてね」
そう言うと、お父さんが私の頭を撫でてくれた。
サディさんも一瞬ホッとした顔をしたけど、すぐ笑みを消してフードをかぶり直した。
「アル、僕はそろそろ出るね」
「俺も行く。ライラック号の避難が済んだら合流する」
「わかった」
任務に向かう2人の横顔は凛々しくてかっこいい。ソフィアちゃんに見せたかったな。
本当は今日が2人の大切な旅立ち記念日で、プロポーズして結婚式するつもりだったのに。フルグトゥルスが憎い……!
お父さんとサディさんを見送りに出ると、確かに雨脚は弱まっていた。
でも灰色の雲はどんよりと重く暗く、まだまだ晴れ間が見える気配はない。
役場に私以外子供は誰もいなくなったけど、大人たちはまだバタバタしてる。
今更だけどこの世界に電話ってのはなくて、魔法がその代わりをしてる。サディさん以外の人は、自分たちの足で連絡を取り合ってるみたいだ。
コツコツ、と窓を叩く音が聞こえる。また雨が強くなってきたのかな。
と見上げると、ピンクと青い小鳥が窓をつついてる!? ピッチとルリだ!
急いで窓を開けると、2羽が飛び込んできた。羽はずぶ濡れだ。
「どうしたの!?」
と聞いてみたものの、2羽は慌てた様子でピーピー鳴くだけ。そうだ、魔法を使わなきゃ。
床に置いたカバンから杖を取り出して、集中する。
「汝の声を聞かせ――」
『大変だわ!』
『大変なの!』
呪文を言い終わる前に2羽の声が重なった。私の魔法もスムーズになったな、なんて感動してる場合じゃない。
「フルグトゥルスが来たんでしょ? 森は大丈夫?」
『大丈夫じゃないわ! 私たち、フルグトゥルスの気配がしてすぐ洞窟に逃げたの』
『でも、キキがいないの!』
「え! 一緒じゃなかったの?」
『避難するときは一緒だったわ。でも洞窟についたらいなかったの』
『森のみんなが一斉に逃げたから、もみくちゃになっちゃって……』
窓の外がフラッシュした! 次の瞬間、張り裂けるような雷の音が轟く。
ピッチとルリがピー! と鳴いて私の腕の中に飛んできた。震えてる2羽を両手で受け止める。
こんな嵐が近づいてる中を、キキはどこかに1羽でいるんだ。
森の中で迷子になったときのことが思い起こされる。孤独の闇に飲み込まれそうになりながら、必死に助けを求めて……
「キキを捜しに行こう!」
『ありがとう! アリシア!』
『キキと一緒にいた場所まで案内するわ!』
部屋の隅に置いてあった大人用のレインコートを拝借する。
出て行くなんて言ったら止められるに決まってるし、そもそも「小鳥たちに言われたから助けに行く」なんて信じてもらえっこない。
まだ雨は弱いし、風も吹いてない。今なら大丈夫。
レインコートで頭から足元まですっぽりと身体を覆って、こっそり役場から出た。
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