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第二章
第95話 お祭り
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お祭りの準備は着々と進み、いつしかフルグトゥルスの話が出ることもなくなっていた。
穏やかな空気が流れる中、いよいよ当日。
朝から雲一つない晴天の秋晴れ。
村の広場には私たちが作ったアステリランプが至る所に吊るされている。前世の運動会で、校庭を囲むように飾られた国旗を思い出す。
広場には露店が並んでいた。お菓子やジュース、小物が売られているのを眺めているだけでも楽しい。これぞお祭りって感じ。
「城下町の賑やかさを思い出すな」
そう呟くお父さんの横顔に、初めて一緒に買い物に行ったときのことを思い出す。
あの頃はまだ転生してきたばかりで、お父さんともどう接していいかわからなかった。
今はお父さんと私と、それからサディさんと家族になれてる。夢みたいだ。
「アル、ホームシックになってるんじゃないの?」
「そんなわけあるか」
「だって今朝から落ち着きがないし、この賑やかな景色を見て寂しくなっちゃったのかな~と思って。アルって結構、都会暮らし楽しんでたもんね」
お父さんが少し言葉に詰まった。
落ち着きがないのは本当だ。でもその理由は、サディさんにまだ秘密。
昨日の夜、お父さんはサディさんの目を盗んで何度も指輪のケースを開けたり閉めたりしていた。
お祭りは予定通り開催という最終決定を受けて、いよいよプロポーズを心に決めたんだろう。
お父さん、頑張れ。私も精一杯サポートするから!
「強がんなくてもいいのにさ」
「ホームシックになんてなるか。俺の家は、お前たちのいるこの場所なんだからな」
サディさんがキョトンとしてお父さんを見上げた。
それからふっと笑って、お父さんを肘で小突く。
「なんだよ~、カッコイイこと言っちゃって! プロポーズみたいじゃん」
「ち、違う! そうじゃない! 絶対に違う!」
あんなカッコイイこと、今言っちゃって大丈夫なんだろうか。
指輪渡すときに言うセリフ残ってる?
お父さんの慌てっぷりに、「そんなムキになることないだろ」とサディさんが唇を尖らせた。
やれやれ、無事サプライズが成功するといいけど。
「アリシア、お父さんたちは商店街の人達の手伝いに行くんだが、一緒に行くか?」
「私はソフィアお姉ちゃんと遊ぶ約束してるの」
「そうか、気を付けて遊ぶんだぞ。夕方には終わるから、そしたら一緒に祭りを見てまわろう」
「うん!」
別行動してもらわないと困る。これからみんなで結婚式の準備をすることになってるんだから。
今日は商店街の人達にも協力してもらって、お父さんたちが夕方まで広場に近づかないようにしてもらう。その間に広場を結婚式用に飾り付ける予定だ。
「手伝いって、ハドリーさんちだよね」
「いや、先輩は既に手伝いを頼んでるから俺たちの出る幕はないらしい」
「ああ、ちゃんと料理ができる人に頼んでるんだね。僕らじゃ力になれないか」
「祭りにはかなりの料理が必要だからな。昨日から仕込みで大変らしい」
ハドリーさんにはもちろん、結婚式の料理を作ってもらってる。
昨日こっそり様子を見に行って、味見させてもらった。豪華な料理の数々は、私の誕生日会が蘇る。
今はウェディングケーキを作ってくれてるはず。これは1人じゃとても無理だからって、たくさんお手伝いの人を呼んだみたい。
「じゃあね、アリシアちゃん。ソフィアちゃんによろしく」
「何かあったら、すぐお父さんたちのところに来るんだぞ」
「はーい!」
お父さんたちが行ってしまうと、入れ違いにソフィアちゃんがやってきた。
「ソフィアお姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう、アリシアちゃん」
ソフィアちゃんがお父さんたちの背中を見ながら、そっと囁いた。
「勇者様たち、結婚式には気づいてない?」
「うん、全然気づいてないよ」
「ふふっ、絶対素敵な結婚式にしようね」
こそこそ内緒話をしてると、ワクワクと気持ちが盛り上がってくる。
でも……とアリシアちゃんが商品を並べている露店を見つめた。
「アステリ、間に合わなかったね」
結局、今日まで流星は降らなかった。
アステリの豊作を祝うお祭りは、アステリの収穫を願うお祭りになってしまった。
本当だったら採れたてのアステリを出すはずが、アステリのジャムや砂糖漬けしか並んでいない。加工品の種類は豊富だけど、フレッシュなアステリはどこにもなかった。
私はともかく、毎年賑やかに並ぶアステリを見ているソフィアちゃんからすると、味気ない光景のようだ。
「でも、その分みんなでいっぱいアステリランプ作ったから。お父さんもサディさんも、きっと喜んでくれるよ」
「うん、そうね。本物のアステリに負けないくらい、ランプを輝かせましょう」
ソフィアちゃんの呼びかけで、村の子供たちみんなが広場に集まった。
村で結婚式をすることは久しぶりで、しかもサプライズなんて初めてらしくみんな張り切ってくれた。アステリが収穫できなかった分、みんなの期待が結婚式にかかってる。
「アリシアちゃんのお父さんたちの結婚式、絶対成功させようね!」
ソフィアちゃんの声に続いて、私は拳を握った。村のみんなが、私に続いて拳を突き上げる。
「エイエイ!」
「オー!」
夕方になるまで、時間も忘れて準備をした。大変だけど楽しい時間。
前世では経験できなかったけど、文化祭とかってこんな感じなのかもしれないな。
夢中になっていた私たちは、空に薄いベールが掛かったことに、まだ気づかなかった。
穏やかな空気が流れる中、いよいよ当日。
朝から雲一つない晴天の秋晴れ。
村の広場には私たちが作ったアステリランプが至る所に吊るされている。前世の運動会で、校庭を囲むように飾られた国旗を思い出す。
広場には露店が並んでいた。お菓子やジュース、小物が売られているのを眺めているだけでも楽しい。これぞお祭りって感じ。
「城下町の賑やかさを思い出すな」
そう呟くお父さんの横顔に、初めて一緒に買い物に行ったときのことを思い出す。
あの頃はまだ転生してきたばかりで、お父さんともどう接していいかわからなかった。
今はお父さんと私と、それからサディさんと家族になれてる。夢みたいだ。
「アル、ホームシックになってるんじゃないの?」
「そんなわけあるか」
「だって今朝から落ち着きがないし、この賑やかな景色を見て寂しくなっちゃったのかな~と思って。アルって結構、都会暮らし楽しんでたもんね」
お父さんが少し言葉に詰まった。
落ち着きがないのは本当だ。でもその理由は、サディさんにまだ秘密。
昨日の夜、お父さんはサディさんの目を盗んで何度も指輪のケースを開けたり閉めたりしていた。
お祭りは予定通り開催という最終決定を受けて、いよいよプロポーズを心に決めたんだろう。
お父さん、頑張れ。私も精一杯サポートするから!
「強がんなくてもいいのにさ」
「ホームシックになんてなるか。俺の家は、お前たちのいるこの場所なんだからな」
サディさんがキョトンとしてお父さんを見上げた。
それからふっと笑って、お父さんを肘で小突く。
「なんだよ~、カッコイイこと言っちゃって! プロポーズみたいじゃん」
「ち、違う! そうじゃない! 絶対に違う!」
あんなカッコイイこと、今言っちゃって大丈夫なんだろうか。
指輪渡すときに言うセリフ残ってる?
お父さんの慌てっぷりに、「そんなムキになることないだろ」とサディさんが唇を尖らせた。
やれやれ、無事サプライズが成功するといいけど。
「アリシア、お父さんたちは商店街の人達の手伝いに行くんだが、一緒に行くか?」
「私はソフィアお姉ちゃんと遊ぶ約束してるの」
「そうか、気を付けて遊ぶんだぞ。夕方には終わるから、そしたら一緒に祭りを見てまわろう」
「うん!」
別行動してもらわないと困る。これからみんなで結婚式の準備をすることになってるんだから。
今日は商店街の人達にも協力してもらって、お父さんたちが夕方まで広場に近づかないようにしてもらう。その間に広場を結婚式用に飾り付ける予定だ。
「手伝いって、ハドリーさんちだよね」
「いや、先輩は既に手伝いを頼んでるから俺たちの出る幕はないらしい」
「ああ、ちゃんと料理ができる人に頼んでるんだね。僕らじゃ力になれないか」
「祭りにはかなりの料理が必要だからな。昨日から仕込みで大変らしい」
ハドリーさんにはもちろん、結婚式の料理を作ってもらってる。
昨日こっそり様子を見に行って、味見させてもらった。豪華な料理の数々は、私の誕生日会が蘇る。
今はウェディングケーキを作ってくれてるはず。これは1人じゃとても無理だからって、たくさんお手伝いの人を呼んだみたい。
「じゃあね、アリシアちゃん。ソフィアちゃんによろしく」
「何かあったら、すぐお父さんたちのところに来るんだぞ」
「はーい!」
お父さんたちが行ってしまうと、入れ違いにソフィアちゃんがやってきた。
「ソフィアお姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう、アリシアちゃん」
ソフィアちゃんがお父さんたちの背中を見ながら、そっと囁いた。
「勇者様たち、結婚式には気づいてない?」
「うん、全然気づいてないよ」
「ふふっ、絶対素敵な結婚式にしようね」
こそこそ内緒話をしてると、ワクワクと気持ちが盛り上がってくる。
でも……とアリシアちゃんが商品を並べている露店を見つめた。
「アステリ、間に合わなかったね」
結局、今日まで流星は降らなかった。
アステリの豊作を祝うお祭りは、アステリの収穫を願うお祭りになってしまった。
本当だったら採れたてのアステリを出すはずが、アステリのジャムや砂糖漬けしか並んでいない。加工品の種類は豊富だけど、フレッシュなアステリはどこにもなかった。
私はともかく、毎年賑やかに並ぶアステリを見ているソフィアちゃんからすると、味気ない光景のようだ。
「でも、その分みんなでいっぱいアステリランプ作ったから。お父さんもサディさんも、きっと喜んでくれるよ」
「うん、そうね。本物のアステリに負けないくらい、ランプを輝かせましょう」
ソフィアちゃんの呼びかけで、村の子供たちみんなが広場に集まった。
村で結婚式をすることは久しぶりで、しかもサプライズなんて初めてらしくみんな張り切ってくれた。アステリが収穫できなかった分、みんなの期待が結婚式にかかってる。
「アリシアちゃんのお父さんたちの結婚式、絶対成功させようね!」
ソフィアちゃんの声に続いて、私は拳を握った。村のみんなが、私に続いて拳を突き上げる。
「エイエイ!」
「オー!」
夕方になるまで、時間も忘れて準備をした。大変だけど楽しい時間。
前世では経験できなかったけど、文化祭とかってこんな感じなのかもしれないな。
夢中になっていた私たちは、空に薄いベールが掛かったことに、まだ気づかなかった。
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