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第二章
第93話 指輪
しおりを挟む家に戻ると、ちょうどサディさんとお父さんがいた。
急いでフルグトゥルスの話をすると、2人が顔色を変えた。
「フルグトゥルスだと!? 本当にそうライラック号が言ったのか?」
「言ったのは森の小鳥さんたちだけど、ライラック号も気配を感じるって」
「僕も話には聞いたことあるけど、まさか……」
どうやら本当に大変な事態らしい。
お父さんが外出用の上着を掴む。
「俺は村長さんに話をしてくる。サディ、どうにかフルグトゥルスが現れる日を予測できないか」
「僕の魔法じゃ限界があるけど、ナーガなら予測できるかもしれない」
いよいよお祭りどころではなくなってしまった。
2人は大慌てで村の人たちと連絡を取り、フルグトゥルスの襲来に備える。
ナーガさんもこの非常事態に、すぐ動いてくれたらしい。まだ詳しくはわからないけど、高確率でお祭りの日前後に来るだろうということだった。
その夜は、なんだか眠れなかった。
前の世界の台風だって、大きな被害が出ることがある。怪我をしたり、死んでしまう人だって。
もしそうなったら……
考えれば考えるほど目が冴えていく。
ちょっとした風で窓が揺れるだけでも身体が震える。
「……水でも飲んでこよう」
眠るのは諦めて、気分転換に部屋の外に出る。
キッチンに行こうとしたら、階段の下の小さな灯りがついてた。まだお父さんかサディさんが起きてるのかな?
そっとリビングを覗くと、窓際の月明かりの下にお父さんがいた。
部屋の飾り棚の隅に置いてある、お母さんのオルゴール......の後ろから、小さな箱を取り出した。蓋を開けて、中に入った何かを見ている。
暗くて中身は見えないけど、あのケースの形とベルベットっぽい青い生地……リングケース!?
思わず手すりに肘をぶつけると、ガタッと結構な音を出してしまった。
お父さんが急いでリングケースを閉じ、背中に隠した。でも私だと気づいて表情が緩む。
「なんだ、アリシアか。どうした? 眠れないのか?」
「う、うん。お水飲もうかなーと思って。……お父さん、それなあに?」
「これは、な」
お父さんが私の前に跪いて、声を落とした。
「サディには内緒にできるか?」
「ゆびわッ……んんっ!?」
すごい勢いでお父さんに口を塞がれる。
「しー! サディに聞こえるだろう」
「ご、ごめんなさい……。でもそれ、指輪なんだね」
「ああ、どうして知ってるんだ?」
そうだった! あれは盗み聞きしたんだ!
「えーと、村にも指輪を作ってくれる人がいるって前に聞いたから、そうかなーって思ったの」
「アリシアは勘が鋭いな。リリアに似たのか?」
まいったな、とお父さんが苦笑した。
「ちょうど収穫祭の日が、お父さんとサディが旅立った日なんだよ。毎年2人で祝ってはいるんだが、プレゼントなんてしたことなかったからな。せっかく家族になれたんだし、記念になるものを用意したんだ」
そう言って、お父さんはまたリングケースをオルゴールの後ろに隠した。
このオルゴール、サディさんは遠慮してか触ろうとしない。ここに隠しておけば見つかることはないんだろう。
「じゃあ、お祭りの日に渡すんだね!」
「そのつもりだったんだが、それどころじゃないかもしれないからな」
月明かりに、お父さんの横顔が切なく陰る。
「水が飲みたいんだったな。お父さんも一杯もらおう」
私の頭を撫でて、お父さんがキッチンに向かった。
やっぱりお祭りを、お父さんたちの記念日を平和に迎えさせてあげたい。
神様仏様……お母さん、お願いします。
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