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第二章
第92話 フルグトゥルス
しおりを挟む夕食の後、お父さんたちに流星の話をした。
サディさんがお皿を片付けながら不安げな顔を浮かべる。
「僕らも村の人たちから聞いたよ。全然雨や雷がないのが原因みたいだね」
「こっちに来てから全然降ってないからな。そういう土地かと思ったが、どうやら今年は異常らしい。みんな畑の野菜が上手く育っていないと言っていた」
お父さんが腕組みをしながら、ちょっと安堵の表情を浮かべてる。
うちの野菜が不作気味なのは、お父さんが農家初心者ってだけじゃなかったみたい。
「なにかの前触れじゃないといいけど」
サディさんの呟きに、お父さんが眉を潜める。
「縁起でもないこと言うな」
「でもそうじゃない。異常気象のときは、大抵なにかが起きる。大型のモンスターが現れたりとかさ」
大型のモンスター。
前に森で襲われたトカゲみたいなのを思い出した。
でも大型って言うくらいだから、あれより大きな……
「やめろ。アリシアが怖がるだろ」
お父さんに言われて、自分が深刻な顔してることに気づく。
笑って首を振る前に、サディさんが「ごめん」と謝ってしまう。
「怖がらせるつもりはなかったんだけど、注意しておいた方がいいと思うんだ。でも大丈夫。何があっても、アリシアちゃんのことは僕とアルが守るからね」
「ああ、アリシアは何も心配しなくていい。流星だってそのうち降るだろう。お祭りの日を楽しみにしていなさい」
「うん!」
元気にそう答えてはみたけど、不安は拭えない。
次の日、ナーガさんの家に行った。
いつも通り修行を始めたけど、魔法が全然上手くできない。
何回もやり直してると、石の上に腰掛けてたナーガさんが立ち上がった。
「今日はもうやめる」
「え? まだやり始めたばっかりですけど」
「全然集中してない。やる気ないなら帰れば?」
身が入ってない自覚はあった。
頭の中は流星やアステリ、お祭りのことでいっぱいだったから。
食い下がる気力もなくて、家に戻って行くナーガさんの背中を見送る。
ピーピーと声が聞こえてきた。
見上げると、ピチとルリとキキがいた。
何かを訴えるように、激しく鳴いてる。どうしたんだろう。
動物たちの声が聞こえる魔法を使おうと思ったのに、やっぱり全然集中できない。せっかく安定してできるようになってたのに。
ピチたちは、魔法を急かすようにしきりに鳴いていた。
必死で集中して、ようやく魔法が成功。
『フルグトゥルスがくるわ!』
「ふるぐ……なに?」
『フルグトゥルス!』
『大変! 大変!』
ピチたちが口々に言うけど、なんのことだかわからない。
ふと、昨日サディさんが話してたことを思い出す。
「もしかして、それって大きなモンスターのこと?」
と聞くと、ルリが答えた。
『空を駆け抜ける大きな大きな鳥! 森のみんなそう言ってる!』
「フルグトゥルスって、魔王の手下なの?」
『違うわ。フルグトゥルスはフルグトゥルスよ』
ピチの言葉にキキが震える。
『雨や雷を起こす。怖い! 逃げなくちゃ!』
『アリシアも早く逃げるのよ!』
そう言って、ピチたちは飛んで行ってしまった。
フルグトゥルスは大きな鳥。それってやっぱりモンスター?
でも雨や雷を起こすなら、流星が降るかも!
なんてノンキに考えてたけど、どうやらそんな甘いモノじゃないみたい。
帰ってからまた苦労して魔法を使うと、ライラック号が教えてくれた。
『フルグトゥルスは災害を起こすモンスターですぜ!』
「災害!? それが雨や雷のこと?」
『そうでさあ。フルグトゥルスがひとたび暴れ出すと、小さな村なんてめちゃくちゃにされてしまいますぜ。野生の動物は、奴の気配を感じるとみんな逃げちまいちまいますわ』
前世の世界でいうところの、大型台風みたいな? それだって、かなりの被害が出る。
『いやぁ、アッシも野生の勘が鈍りましたな。ちょいと妙な空気を感じてはいたんですが、フルグトゥルスの気配に気づけなかったとは情けない』
「フルグトゥルスは魔王の手下とは違うって聞いたんだけど、モンスターじゃないの?」
『フルグトゥルスは四大精霊に次ぐ、強力な精霊なんでさぁ。大雨と共に現れ、雷を落とすと言われてますぜ。まあ、アッシも直に見たことはないんですが。怪鳥なんて言われてますから、きっとバケモノみたいな鳥なんでしょうねえ』
「精霊って味方じゃないの?」
『お嬢、精霊は自然そのもの。自然は人間の味方にもなりやすが、脅威にもなるんですぜ』
前の世界でだって、自然災害はいやと言うほど目にしてる。
こんなときにお祭りの心配をしてる場合じゃない。
お父さんたちが旅立った記念日は変わらないわけだし、お祭りは来年もある。
それよりもし本当にフルグトゥルスが来るなら、みんなに知らせないと!
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