88 / 111
第二章
第88話 ヒミツ
しおりを挟む今日はソフィアちゃんが遊びに来た。
前に約束してた本を見にきてもらったけど、正直不安。
お父さんが用意してくれた白い本棚は、私の背よりも低い2段ボックス。貸本屋さん常連のソフィアちゃんが拍子抜けしなきゃいいけど。
なんて心配はいらなかったみたい。
部屋に入った途端、ソフィアちゃんが目を輝かせた。
「すごい! これ全部アリシアちゃんのなの!?」
「うん、どれでも好きなの読んでね。読み切れなかったら貸してあげるよ」
「ええっ! いいの?」
私の両手を取ったソフィアちゃんの頬が、ほんのり赤くなってた。
「ありがとう、アリシアちゃん!」
「ど、どういたしまして」
真正面から美少女にお礼を言われると照れちゃうな。
そこから、ソフィアちゃんは熱心に本を読み続けた。話しかけても生返事ばっかりだから、邪魔しないように私も読書をする。
小さい子向けの本だけかと思ったら、結構読み応えのある長編も多い。私が大きくなったときに読むためのものかな。お父さん、GJ。
それからしばらく。
ソフィアちゃんの集中力はすごかった。一度も顔を上げることなく、読書に集中してる。分厚い本が、もうちょっとで終わりそう。
と、コンコンとドアがノックされた。
「アリシアちゃん、おやつ持ってきたよ」
「はーい」
ドアを開けると、サディさんがジュースとクッキーを持ってきてくれた。
「2人ともずっと本を読んでたの? 静かだったから、アルが心配してたよ」
「ソフィアお姉ちゃんは本が大好きだから」
サディさんが入ってきたのにも気づいていないのか、ソフィアちゃんはまだ本を読みふけっている。
どうしようかとサディさんと顔を見合わせていると、ソフィアちゃんがパタンと本を閉じた。
「ソフィアちゃん、ちょっと休憩にしない? おやつ持ってきたよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
部屋の真ん中にある丸テーブルにジュースとチョコチップクッキーを置く。
ジュースは3人分あった。サディさん、きっとお父さんに様子を見て来いって言われたんだろうな。
「僕も一緒に食べてもいい? お邪魔かな?」
「ううん、大丈夫だよ。ソフィアお姉ちゃんもいいよね」
「もちろん」
オレンジジュースを飲みながら、3人でお喋り会。
どうやらこの部屋の本をチョイスしたのはサディさんだったらしい。そんなところまで、お父さんのセンスには任せられなかったのね。
「アルは小さい子が読むような絵本ばっかり選ぶからさ。アリシアちゃんならもっと難しい本でも読めるよって、僕が選んだんだ」
あれだけ私の学力が学年一番だとか学校一番だとか自慢してたのにね。
でもお父さんにとっては、私はいつまでも小さい娘なんだろうな。……中身はさておき。
ジュースを飲み終わると、サディさんが立ち上がった。
「僕はそろそろ退散するね。ソフィアちゃん、ゆっくりしていってね」
部屋を出て行くサディさんを、ソフィアちゃんがじーっと見つめてる。
それから「アリシアちゃん」と私に顔を寄せてきた。
もしかして、村の女の人たちみたいにサディさんのこと好きになっちゃったとかじゃないよね。
ソフィアちゃん、王子様好きだからな。サディさんって王子様っぽいし……
「な、なに?」
「サディさんって、アリシアちゃんとどういう関係なの?」
「え!?」
「サディさんは男の人なのよね? じゃあ、お母さんじゃないし……」
ソフィアちゃんが口元に手を当てて考え込んでる。このややこしい家族構成、完全に混乱させちゃってるな。
でもどうやって説明したらいいか……
いや待てよ、ソフィアちゃんは王子様2人の物語を考えてたはず。
それなら正直に説明しても、受け入れてくれるかも。
「あのね、お父さんたちは男の人だけど……恋人同士なの」
「恋人?」
「だから、私にとってはサディさんもお父さんのようなもので……」
ソフィアちゃんがキョトンとした目で私を見た。うう、心臓がドキドキする。
もし受け入れられなかったとしても、どうか酷いことは言わないで。
そもそも、お父さんたちに相談しないでカミングアウトしちゃって良かったのかな。
これでもし「気持ち悪い」とか言われて、悪い意味で村の噂になっちゃったら……
ソフィアちゃんに限ってそんなことないと思うけど、でも――
「素敵!」
ソフィアちゃんが胸の前で指を組んだ。
「お父さんが2人もいるなんて! アリシアちゃんのお父さんとサディさんは、愛し合ってるのね!」
「そ、そうなの。2人はお互いのことが大好きなんだよ」
「私の考えたお話の王子様たちと同じね!」
ええ、やっぱりあの話BLだったの!?
本もロクにないこの世界でBL妄想までするなんて、ソフィアちゃん……恐ろしい子……!
「じゃあ2人は結婚してるのね。勇者様2人の結婚式なんて、とっても素敵だったんでしょうね」
「あ、ううん。結婚式はまだしてないんだ」
「まだ?」
「実はね……」
アステリの収穫祭で結婚式を挙げてもらおうという計画を、ソフィアちゃんに話した。
計画したはいいけど、自分1人だけじゃ無理だ。村の収穫祭に詳しいソフィアちゃんに協力してもらえれば、上手くいくかもしれない。
「お祭りで結婚式! とってもいい考えね。私にもお手伝いさせて」
「ありがとう!」
それじゃ早速、詳しい話を……と思ったら、またノックが聞こえる。
「はーい」と返事をすると、ドアを開けたのはお父さんだった。
「2人とも楽しそうだな。何の話をしてたんだ?」
サディさんから話を聞いただけじゃ堪えられなくて、結局自分で来ちゃったんだな。
でも今から結婚式の話をしたいところなんですけど。
ソフィアちゃんとアイコンタクトしてから、「ヒミツ!」と笑って誤魔化した。
「ええ~、お父さんにヒミツなのか? 誰にも言わないから教えてくれよ」
「ダメ、これはヒミツだから」
「なんだ、アリシア。余計に気になるじゃないか」
おいおい、しつこいんですけど。
でもこの盛り上がってる気持ちを押さえて、お父さんの相手をしている暇はない。空気読んでほしいけど、お父さんにはハッキリ言わないとわからないだろうな。
「ダメなの。ちょっとお父さんあっちに行ってて」
できる限り軽く言ったつもりだったけど、意味はなかった。
お父さんは絵に描いたように「ガーーン!!」という顔をして固まってしまった。
「ア、アリシア……お、お父さんが邪魔なのか……いつの間にそんな反抗期に……」
なんかめちゃくちゃ悪いことした気分。
ただならぬ空気を感じたのか、サディさんもやってきた。
「どしたの? なんかアルが固まってるけど」
「サディ! アリシアが! アリシアが『お父さん邪魔だからあっち行け』って!」
そんな言い方はしてないですけど。
狼狽えるお父さんを、サディさんがドウドウと馬にでもするみたいに宥めた。
「女子会の邪魔しちゃダメだよ。さ、夕食の準備するから手伝って。畑からニンジン取って来てほしいんだ」
「そんな場合か! アリシアが反抗期なんだぞ! 『テメエふざけんな!』って壁を殴って穴開けたりしたらどうする!」
「あはは、リリアさんの怒ったときそっくりじゃない。親子だね~」
「笑ってる場合か! リリアが怒ったら手が付けられないんだぞ! アリシアがそうなったら……!」
今とんでもないお母さんの暴露話を聞いた気がするんですが。
サディさんが喚き散らすお父さんを引きずって行ってくれた。閉めたドアの向こう側で、まだ何か騒いでるのが聞こえる。
「アリシアちゃん……」
ソフィアちゃんが気まずそうにこっちを見てた。
恥ずかしい……あんな親バカの一部始終を公開してしまった……
「あ、えっとね、お父さんいつもああなの。気にしないで――」
「サディさんとアルバートさん、とっても仲良しなのね!」
「え?」
「今の見た? 泣いてるアルバートさんに、サディさんがよしよしって頭を撫でていたの。とっても素敵だった!」
暴れ馬を宥めてるみたいに思えたけど、確かに結構な萌えポイントだったかも。見慣れるって怖いね。
「ねえ、アリシアちゃん。王子様2人の話、サディさんとアルバートさんをモデルに書いてもいい?」
「う、うん。もちろん」
「ありがとう!」
ソフィアちゃんの親御さん、娘さんは完全に腐っているようです。責任は取らせていただきます。
8
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~
あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい?
とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。
犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる