孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第二章

第86話 お喋り

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 さっそくライラック号と話をしてみたくて、家に飛んで帰った。
 まずはお父さんたちに報告……と思ったけど、家には誰もいない。
 そういえば、サディさんは買い物、お父さんは新しい苗の買い付けに行くとか言ってたっけ。
 それなら、2人が帰って来る前にライラック号と話をして驚かせよう。

 厩舎に行くと、ライラック号がのんびりと飼葉を食べていた。
 私が来たのに気付いて、顔を上げてくれる。

「ライラック号、私ついに動物とお話できる魔法を使えるようになったの! これでライラック号ともお話できるからね!」

 黒い艶やかな瞳で、ライラック号が私を見た。「本当?」って言ってるみたい。
 杖を構えて、息を整える。魔力をしっかりと全身に、杖の先まで巡らせて。

「汝の声を聞かせよ!」

 ライラック号に杖を向けた。
 ぶるぶるっと首を震わせたライラック号からは、何も聞こえない。ええ、失敗?
 でも、杖のハートは光った気がするんだけど。

『お嬢、アッシの言葉がわかるんですかい?』

 ん!?
 威勢のいい声に周りを見たけど、誰もいない。

『お嬢、アッシですよ! ライラック号でさあ!』

 まさかと思って正面を向くと、当然ライラック号がいる。
 これ、ライラック号の声!?

「ライラック号、今のあなたが喋ったの?」
『そうでさぁ、お嬢。いやあ、こんなすごい魔法を使えるようになったなんて、さっすがリリアの姐さんのお嬢さんだ!』

 前世でいうところの、江戸っ子みたいな喋り方。
 ライラック号って本当は白馬のペガサスなんだよね? ペガサスが江戸っ子!?
 好きだった原作漫画や小説がアニメ化して、思ってた声と違ったときのような気分。

『お嬢、どうしたんでさぁ。ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔して。アッシと喋れるのに感動して、声も出ないんですかい?』
「うん、感動もしてるんだけど……。すごく粋な喋り方だなと思って」
『アッシが生まれた森の近くには、チャキチャキした商人の町がありまして。そんなに長いこと居たわけじゃなかったんですが、三つ子の魂百までってね。生まれたときに染みついた言葉は、なかなか変わりゃあしませんよ』

 この人、もしかして日本人? いや馬だけど。

『リリアの姐さんがいたときは、よく通訳してもらってアルバートの旦那とも話してたんですがね。サディアスの兄さんは言葉の魔法はからっきしで、ナーガの坊ちゃんとはちょっと馬が合いませんで。ようやくお嬢と話せて万々歳ですわ』
「それは良かったけど」

 まだちょっと違和感が拭えない。でも大丈夫、こういうのは慣れ。
 どんなに「この声違う!」と思ったキャラでも、何話か見てれば慣れるもの。
 でもペガサスの姿になったら、やっぱりまた違和感ありそう。

『これからはアッシもお嬢の力になりますぜ。アルバートの旦那へのご恩、お嬢にしっかりお返しするときよ』
「ご恩? お父さん、ライラック号に何かしてあげたの?」
『そりゃあもう! 知らざあ言って聞かせやしょう!』

 ライラック号が天高く顔を反らせた。
 この威勢、落語家か講談師が転生したんじゃないよね。

『遡ること幾年月、あれはまだ世界に魔王が蔓延り、魔物たちが人間や動物たちも苦しめていた時代。アッシは一頭、森の中で生まれやした。周りに親も兄弟もなく、物心つくまでどうやって生きてきたのか覚えてはおりやせん。森には馬の群れも居やしたが、アッシのような羽が生えた奇妙な馬など見たこともねえ。気づいた時には、いつもいじめられていたんでさあ』

 遠くを見つめるライラック号の瞳の奥は、暗く沈んでいる。

『あの日もいじわるな馬どもに森の奥まで追い回されてました。そんなとき、アルバートの旦那と出会ったんでさあ! 旦那はアッシを庇って、悪い馬どもを追い払ってくださった。そして、「こんなキレイな馬みたことがない。俺たちと一緒に来ないか?」と言ってくださったんでさあ』
「お父さんがライラック号を助けたんだね」
『アルバートの旦那はアッシの恩人でさあ! ナーガの坊ちゃんは「そんな目立ちすぎる馬連れていけない」と反対したんですが、リリアの姐さんが魔法で目立たない馬の姿に変えてくれやした。そこからは、アッシも旦那たちの仲間。魔王城に突撃するときには、ペガサスの姿で旦那を背中に乗せ駆け抜けやした。いやぁ、あんな爽快な気分になったのは生まれて初めてでやしたね』

 ライラック号の瞳がぱちぱちと瞬きをした。

『今やこうやって家族として余生を過ごさせてもらって、旦那にもサディの兄さんにも、もちろんリリアの姐さんにも感謝してもしきれませんで。そんな人の子供であるお嬢も、きっと心優しい素敵なレディになるお人ですぜ』
「ふふっ、ありがとう。ライラック号」

 私を見るライラック号の瞳が優しく光った。

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