上 下
86 / 111
第二章

第86話 お喋り

しおりを挟む

 さっそくライラック号と話をしてみたくて、家に飛んで帰った。
 まずはお父さんたちに報告……と思ったけど、家には誰もいない。
 そういえば、サディさんは買い物、お父さんは新しい苗の買い付けに行くとか言ってたっけ。
 それなら、2人が帰って来る前にライラック号と話をして驚かせよう。

 厩舎に行くと、ライラック号がのんびりと飼葉を食べていた。
 私が来たのに気付いて、顔を上げてくれる。

「ライラック号、私ついに動物とお話できる魔法を使えるようになったの! これでライラック号ともお話できるからね!」

 黒い艶やかな瞳で、ライラック号が私を見た。「本当?」って言ってるみたい。
 杖を構えて、息を整える。魔力をしっかりと全身に、杖の先まで巡らせて。

「汝の声を聞かせよ!」

 ライラック号に杖を向けた。
 ぶるぶるっと首を震わせたライラック号からは、何も聞こえない。ええ、失敗?
 でも、杖のハートは光った気がするんだけど。

『お嬢、アッシの言葉がわかるんですかい?』

 ん!?
 威勢のいい声に周りを見たけど、誰もいない。

『お嬢、アッシですよ! ライラック号でさあ!』

 まさかと思って正面を向くと、当然ライラック号がいる。
 これ、ライラック号の声!?

「ライラック号、今のあなたが喋ったの?」
『そうでさぁ、お嬢。いやあ、こんなすごい魔法を使えるようになったなんて、さっすがリリアの姐さんのお嬢さんだ!』

 前世でいうところの、江戸っ子みたいな喋り方。
 ライラック号って本当は白馬のペガサスなんだよね? ペガサスが江戸っ子!?
 好きだった原作漫画や小説がアニメ化して、思ってた声と違ったときのような気分。

『お嬢、どうしたんでさぁ。ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔して。アッシと喋れるのに感動して、声も出ないんですかい?』
「うん、感動もしてるんだけど……。すごく粋な喋り方だなと思って」
『アッシが生まれた森の近くには、チャキチャキした商人の町がありまして。そんなに長いこと居たわけじゃなかったんですが、三つ子の魂百までってね。生まれたときに染みついた言葉は、なかなか変わりゃあしませんよ』

 この人、もしかして日本人? いや馬だけど。

『リリアの姐さんがいたときは、よく通訳してもらってアルバートの旦那とも話してたんですがね。サディアスの兄さんは言葉の魔法はからっきしで、ナーガの坊ちゃんとはちょっと馬が合いませんで。ようやくお嬢と話せて万々歳ですわ』
「それは良かったけど」

 まだちょっと違和感が拭えない。でも大丈夫、こういうのは慣れ。
 どんなに「この声違う!」と思ったキャラでも、何話か見てれば慣れるもの。
 でもペガサスの姿になったら、やっぱりまた違和感ありそう。

『これからはアッシもお嬢の力になりますぜ。アルバートの旦那へのご恩、お嬢にしっかりお返しするときよ』
「ご恩? お父さん、ライラック号に何かしてあげたの?」
『そりゃあもう! 知らざあ言って聞かせやしょう!』

 ライラック号が天高く顔を反らせた。
 この威勢、落語家か講談師が転生したんじゃないよね。

『遡ること幾年月、あれはまだ世界に魔王が蔓延り、魔物たちが人間や動物たちも苦しめていた時代。アッシは一頭、森の中で生まれやした。周りに親も兄弟もなく、物心つくまでどうやって生きてきたのか覚えてはおりやせん。森には馬の群れも居やしたが、アッシのような羽が生えた奇妙な馬など見たこともねえ。気づいた時には、いつもいじめられていたんでさあ』

 遠くを見つめるライラック号の瞳の奥は、暗く沈んでいる。

『あの日もいじわるな馬どもに森の奥まで追い回されてました。そんなとき、アルバートの旦那と出会ったんでさあ! 旦那はアッシを庇って、悪い馬どもを追い払ってくださった。そして、「こんなキレイな馬みたことがない。俺たちと一緒に来ないか?」と言ってくださったんでさあ』
「お父さんがライラック号を助けたんだね」
『アルバートの旦那はアッシの恩人でさあ! ナーガの坊ちゃんは「そんな目立ちすぎる馬連れていけない」と反対したんですが、リリアの姐さんが魔法で目立たない馬の姿に変えてくれやした。そこからは、アッシも旦那たちの仲間。魔王城に突撃するときには、ペガサスの姿で旦那を背中に乗せ駆け抜けやした。いやぁ、あんな爽快な気分になったのは生まれて初めてでやしたね』

 ライラック号の瞳がぱちぱちと瞬きをした。

『今やこうやって家族として余生を過ごさせてもらって、旦那にもサディの兄さんにも、もちろんリリアの姐さんにも感謝してもしきれませんで。そんな人の子供であるお嬢も、きっと心優しい素敵なレディになるお人ですぜ』
「ふふっ、ありがとう。ライラック号」

 私を見るライラック号の瞳が優しく光った。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...