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第二章

第82話 帰宅

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 サディさんとナーガさんが帰ってきたら、みんなで夕食を食べることになっていた。
 集合場所は安定のハドリーさんのお店。

 ハドリーさんがカウンター越しに身を乗り出す。

「毎晩外食とは豪勢だねぇ。お父さんは料理作ってくれないのか?」
「お父さん、切る専門なの」
「はっはっはっ、アルは魔物もよくみじん切りにしてたからな」
「先輩、アリシアにそんな話やめてくださいよ」
「ま、うちとしては常連さんが増えるのは有り難いんだが」

 座っていたカウンターの椅子をくるりと回転させ、お父さんが店を見渡す。

「今日、誰もいないんですね」
「閑古鳥鳴いてるみたいに言うなよ。今日はお前らが来るってんで貸切にしてやったんだぞ」
「え? 俺、騒ぐほど酒は飲みませんよ」
「お前のためじゃねえよ。ナーガがいるだろ。あいつ、周りに人がいたら嫌がるからな」

 そういえば、飲み会とかそういう場所は嫌いなんだっけ。そもそも食事自体嫌いそうなのに、一緒に食べてくれるんだろうか。


 7時を過ぎ、8時も過ぎた。
 予定してた時間になっても2人は帰ってこない。
 お腹はグーグー鳴るし、それ以上に心配だ。お父さんなんて、椅子から立ったり座ったり、落ち着かないようにぐるぐる店中を歩き回っていた。

「ちょっと遅くないですか?」
「そうだなー。メシ冷めちまうってのに、なにやってんだか」
「道に迷ってる? でも2人とも魔法使えるのにそんなことは……」
「サウザンリーフまで行ってるんだったな。そういや、あの辺魔物が出るとかって噂になってるぞ」
「え!?」
「魔王の残党らしい。襲われたやつもいるとか……」

 サッとお父さんの顔が青ざめた。私までドキドキしてくる。
 でも2人とも魔王を倒してるんだし、魔法だって使える。万が一魔物と鉢合わせたって……

「俺、ちょっと見てきます! アリシアをお願いします!」
「あ、おい!」

 お父さんが店から飛び出そうとした瞬間、カランカランとドアベルの音が鳴った。

「アル、ただいま」
「サディ!」

 人目も気にせず、お父さんがサディさんを抱きしめた。

「ちょっとアル、みんな見てるよ? 一晩離れてたくらいで、こんなに熱烈歓迎してくれんの?」
「遅かったじゃないか!」
「向こうを出るとき土砂降りでさ、雨宿りしてたら少し遅くなっちゃって」

 お父さんの背中をサディさんが優しくさすった。

「心配した?」
「……したに決まってるだろ」
「ごめんね」

 よしよしと、サディさんがお父さんの頭を優しく撫でる。

「サウザンリーフまで遠いけどそんなに大変な道でもないし、心配し過ぎだよ。魔物が出るわけでもないんだからさ」
「いや、出るってハドリーさんが!」

 ハドリーさんがカウンターの中でゲラゲラ笑い出した。

「聞けよ、サディ。『魔王の残党が出るらしいぞ』って言ったら、こいつ本気にしやがって」
「な……っ! 嘘だったんですか!?」
「嘘に決まってんだろ。魔物なんざ、俺たちが片っ端から片付けただろ。それに、万が一いたとしてもサディとナーガがやられるかよ」

 ハドリーさん、ホントにお父さんをからかうのが好きなのね。私まで巻き添えなんですけど。
 お父さんから放れたサディさんが、カウンターにバンと手をついた。

「あんまり俺のアルをからかうの、やめてもらえますか?」
「おお、怖。わーったよ」

 サ、サディさんの目から光が消えてる。っていうか、『俺のアル』って!

 ハドリーさんを脅し終わったサディさんは、いつもの笑顔を私に向けた。

「ただいま、アリシアちゃん」
「お帰りなさい! サディさん」

 抱き上げて、ギュッと抱きしめてくれた。

「アルは僕がいなくても大丈夫だったかな?」
「ううん。お父さん、サディさんがいなくてすっごく寂しそうだったよ」
「こ、こら! アリシア!」

 あんなにラブラブっぷりを見せつけておいて、今更何を恥ずかしがっているのやら。

 と、またドアベルの音が鳴った。
 見ると、ナーガさんがドアに手を掛けてる。

「僕もう帰るから」

 ずっとほったらかされて痺れを切らしたらしい。
 口をへの字に曲げて、不機嫌オーラ大放出中。これは大変だ。

 ハドリーさんがカウンターの中から、料理のお皿を持ち上げる。

「待てよ、ナーガ。お前の分もメシ用意してるんだ。食ってけ」
「僕は……」
「ナーガさんも一緒に食べようよ!」

 ナーガさんに駆け寄ってその手を取る。
 すっごい顔をしかめられたけど、気づかない振りをして店の中まで引っ張り込んだ。


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