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第二章
第81話 バゲット
しおりを挟む朝目が覚めると、いつもの景色とは違う気がした。
大きなベッドで、掛布団も蹴飛ばさずきちんと掛けられている。
そうだ、昨日はお父さんと一緒に寝たんだっけ。
サディさんがいない家の中はあまりにも静かだった。
お父さんが物憂げな顔して何度も時計を気にしてたのは、サディさんのことを考えてたんだと思う。
あまりにも寂しそうだったから「今日は一緒に寝てもいい?」と言ってみると、お父さんは大喜びで私を抱きしめてベッドにもぐった。本当に眠るまで放してくれなくて、寝心地はイマイチだったけど。
ベッドはもうもぬけの殻。私も早くライラック号のお世話に行かなくちゃ。
「おはよう、ライラック号」
木のバケツに水を入れてライラック号の厩舎に運んで行くと、畑の方でお父さんが手を振っているのが見えた。鍬を畑に置き、こっちにやって来る。
「おはよう、アリシア」
「お父さんおはよう」
「昨日はよく眠れたか?」
「うん」
大きなベッドなのに少し窮屈でしたがね。
「朝ご飯は何が食べたい? 今日はお父さんが作るぞ」
「お父さん、火が使えるの?」
「サディみたいに魔法は使えないが、お父さんにはこれがある」
と、作業着のポケットから取り出したのはマッチ箱だった。
火加減は調整できなそうだけど、マッチなら私にも使える。
「目玉焼き! 私が作る!」
「ダメだ、危ないだろう。サディがいるときにしなさい」
「えー、お父さんがいるのに?」
「お父さんはキッチンではお前を守りきれない」
そんな堂々と言われましても。
目玉焼きリベンジだと思ったのに、残念。でもお父さんの目玉焼きも楽しみだな。
……って、お父さんって切るの専門じゃなかったっけ?
と思った通り、テーブルに並べられたのは焼け焦げた黒い塊。というか炭。
フォローする言葉が見つからない。
「お父さん……?」
「だ、大丈夫だ! 買い置きのパンがあるぞ。これに野菜を挟んでサンドウィッチにしよう。ほら、ハムとジャムもある!」
やれやれ……結局そうなりますか。サンドウィッチ好きだからいいけどね。
大慌てでお父さんがパン切り包丁を出してきた。
さすがは切る専門のお父さん。ギザギザした包丁で、バゲットをキレイにスライスしていく。
「お父さん、じょうずー!」
「そうか? これくらいなら任せとけ!」
名誉挽回したお父さんは、上機嫌で畑から取ってきた野菜も次々と切っていく。
いや、2人だけなんだからそんなに切らなくても…………
結局、切りすぎた野菜で大量に作ったサンドウィッチを朝昼食べることになりましたとさ。
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