上 下
80 / 111
第二章

第80話 サプライズ

しおりを挟む

 サディさんとナーガさんを見送って、お父さんは畑仕事に戻った。
 村の人たちにも助けてもらって、野菜は順調に育ってるみたい。
 私はライラック号にブラシを掛けながら、畑仕事に精を出すお父さんを見守る。

「ニンジンもたくさん作ってるみたいだよ。ライラック号も楽しみにしててね」

 ヒヒーンと短く鳴いて、ライラック号が黒い尻尾を揺らした。


 夕方になって、お父さんと一緒にハドリーさんのお店に向かった。こっちに来てから初めての外食。
 店内には何組かお客さんがいて、カウンターの中ではハドリーさんがコーヒーを淹れている。私とお父さんはカウンターの席に座った。

「いらっしゃい」
「こんばんは、先輩」
「この時間ってことは夕飯か? 食べに来るなんて珍しいな」

 ハドリーさんがお父さんと私をじっと見て、憐みの表情を浮かべた。

「もうサディに逃げられたのか」
「そんなわけないでしょう! 明日までナーガと出掛けてるんですよ」
「はー、ナーガのやつ略奪か」
「子供の前で冗談やめてください!」

 ハドリーさんがゲラゲラ笑ってる。お父さんをいじるのホント好きなんだろうな。リアクションいいもんね。

「何にする?」
「俺は肉が食いたいです。アリシアには何か、子供が好きそうなものはありますか」
「そうだなぁ、スパゲッティーなんてどうだ? 村の子供らが好きだぞ」
「スパゲッティー食べたい!」

 しばらくお父さんと話をして待っていると、チキンのガーリックソテーとトマトベースのスパゲッティーが目の前に並んだ。

「いただきまーす!」
「先輩の料理は旨いぞ、アリシア。旅の途中に作ってくれたメシはいつも最高で」
「アルは口に入ればなんでもいいんだろ。辺境の部族の村に寄ったとき、とんでもねえゲテモノ料理出されたのにお前だけ旨い旨い食って」
「全員残したら印象悪いでしょ。出されたもんを食うのは礼儀じゃないですか」

 お父さん、そういうとこ気を使えるんだな。さすがリーダー。
 ナーガさんとか普通に「まずい」って言っちゃって気まずくなりそう。

「にしても、サディとナーガで一晩どこに出掛けたんだ?」
「アリシアの魔法の杖を買いに行ってるんですよ。師匠が用意するものらしいんですが、心配なのでサディも一緒に」
「ああ、そういやアリシアちゃんの魔法修行のために移住したんだったな」

 この村に魔法使いはいないみたいだけど、ハドリーさんは私が魔法使いなことに驚いてないみたい。
 お母さんやナーガさんとずっと一緒に旅してたから、慣れてるのかな。

 2人の話を聞きながら、トマトソースとキノコを絡めて食べる。んー、ミートソースともケチャップとも違って新鮮な酸味がおいしい。粉チーズがあればもっといいんだけどな。

「アリシアちゃん、もうプレンドーレには慣れたかい?」

 いつの間に、ハドリーさんが私の方を向いていた。スパゲッティーを慌てて飲み込む。

「うん! お友達もできたし、アステリもおいしいよ」
「そりゃ良かった。アステリといや、来月村の祭りがあるぞ」
「お祭り?」

 ハドリーさんの話では、毎年村でアステリの収穫祭が行われるらしい。そろそろ流星群の季節らしく、その光で熟したアステリを囲んだお祭り。

「村中にアステリを模したランプを飾るんだ。流星群の光を受けた直後のアステリは実が輝くからな」
「へえ、キレイなんでしょうね」
「それ目当てに観光客も増えるから村の書き入れ時だ。カップルのデートで最適だとか噂が広まって、最近じゃ結婚式上げるやつもいるな」

 前世の世界で言うところの映えるフォトスポットって感じですね。
 結婚式か~。そういえば、お父さんとサディさんって結婚式してないよね。というか、『結婚』してるんだろうか。まだ恋人だって言い張ってるけど、子供連れて一緒に暮らしてるんだから事実婚状態だよね。

 ふと横を見ると、お父さんが何やら考え込んでる。

「来月か……」
「祭りは村総出でやるから手伝えよ。新参者が出てこないなんて村八分になるぞ」
「わかってますよ。来月っていうと、記念日だなと思って」
「記念日?」
「俺とサディが魔王討伐に旅立った日なんです」

 2人の記念日! なにそれ初耳なんですけど!
 わっくわくの私とは反対に、ハドリーさんは呆れたような顔してる。

「あー、アルは記念日とか気にするタイプだからな。旅の最中も俺らの誕生日は必ず祝って」
「大事なことじゃないですか。まあ、サディは毎年『そうだっけ?』って忘れてるんですけど」

 お父さん、結構マメなタイプなのね。サディさんは意外とそうでもないのか。
 でも決意を固めて2人で大いなる一歩を踏み出した記念日。目的が達成された今も2人の旅は形を変えて続いていて……うーん、尊い。

「ちょうど祭りの日なら、アステリの何かをプレゼントするのもいいな。何かいいのありますか?」
「アステリの菓子だの酒だのは死ぬほど出るぞ」
「せっかく一緒に暮らして初めての記念日なので、形に残るものがいいんですが」
「あー……指輪とか?」
「指輪!!」

 お父さんと一緒に私まで叫んでしまった。
 だって指輪のプレゼントとか、それはもうプロポーズ。結婚指輪? 婚約指輪? ええい、それはどっちでもいい!

「この村に指輪が売ってるんですか?」
「祭りに結婚式上げるやつがいるって言ったろ。この時期だけ特別に鍛冶屋と硝子屋が作ってんだよ」
「指輪か……」

 お父さんが真剣な顔で腕を組んだ。
 きっとサディさんにプレゼントするつもりなんだろう。

 そういうことなら、私も2人に何かをしたい。
 今度こそ花束を作るのもいいけど、トラウマが蘇る。それに今回はプロポーズ。もっと盛大に――

 そうだ、指輪があるなら結婚式をしよう!
 手作り結婚式でお父さんとサディさんにサプライズだ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...