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第二章
第75話 魔法
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翌日、サディさんとお父さんが起きる前に目が覚めてしまった。
顔を洗って、厩舎にライラック号の世話をしに行く。
「おはよう、ライラック号」
ライラック号が挨拶を返してくれるように、首を高く上げた。
大きなフォークのような道具で、エサの乾草をライラック号に準備する。
「今日はね、ナーガさんに魔力を見てもらいに行くんだ。だから早く起きちゃったの」
ライラック号がぶるぶると首を震わせた。
「魔力がコントロールできるようになったから、今度は魔法の練習をするんだよ」
濡らしたタオルでライラック号の体を拭いてあげると、黒くて丸い瞳にじっと見つめられている気がした。
毎朝こうやってお世話をしながら、ライラック号に話しかけてる。少しは仲良くなれたといいんだけど。
馬の感情表現ってよくわからない。尻尾は動いてるけど、犬みたいにわかりやすいわけじゃないし。
でも、嫌がられてはいない……よね?
今はこんなに穏やかなライラック号だけど、かつてはお父さんたちと一緒に魔王退治に行ってたんだよね。
想像できない……って言ったら、お父さんたちもそうだけど。
「アリシア、今日は早いな」
お父さんが朝の畑仕事に出てきた。
「お父さん、おはよう。今日はナーガさんちに行くから、早起きしちゃったの」
「魔力が使えるようになったんだもんな。ナーガのやつ、アリシアがこんなに早く上達してきっとビックリするぞ。ギャフンと言わせてやれ」
言わなそうだな、絶対。
朝ご飯を食べた後、さっそくナーガさんの家に行った。
相変わらず本の山に埋もれていたナーガさんは、私を一瞥して山から這い出てきた。
「魔力、使えるようになったんだ」
「わかるんですか?」
「うん」
もうちょっと驚いてくれてもいいと思うんですが。
少しは褒めてくれるのかと期待したけど、そんなこともなくて。
「思ったより時間が掛かったね」
「1週間でできたんですけど。サディさんは早いねって」
「サディアスは魔法使いじゃないから手間取ったけど、キミは魔法使いだろう。リリアの子なのに、意外と不器用なんだな」
「お父さんは魔力ゼロですよ」
「それにしては良くやった方か」
とりあえず褒めてくれた、のか……?
そういえば昨日の夕ご飯のとき、サディさんが「みんな初めて魔力や魔法を使えたときのことは、よく覚えてるものなんだよ」と言ってた。
それくらい努力して、やっと成功させられるものだからと。
「ナーガさんは魔力が初めて使えたとき、どんな感じだったんですか?」
聞いてみたけど、ナーガさんはぼんやりとした目で言った。
「覚えてない」
「えっ? じゃあ、魔法を初めて使えるようになったときは?」
「覚えてない」
「でも、初めて使えたんですから、こう……驚きとか感動とか、そういうのなかったんですか?」
「別に。魔法使いが魔法を使えるのは当り前だろう」
ええ……そういうものなの?
なんか納得できなくてサディさんに言われたことを話すと、ナーガさんは「ああ」と頷いた。
「僕、魔力の感覚は生まれつきあったから。魔法も師匠に弟子入りする前から使えてた」
最初から当たり前に使えてたから、特に思うこともないと言うことですか。天才に聞いた私が悪かった。
「で、どんな魔法を使いたいのか考えた?」
そうだ。それを最初の目標にしようってことだったんだよね。
確か水・火・風・地の魔法は使うの難しいって言ってたはず。それ以外って結構難しいけど……あ。
「動物の言葉がわかる魔法ってありますか?」
これができれば、ライラック号の言ってることがわかる!
動物とお話しできるなんて、まさに魔法少女っぽくてなんかいいよね。
「あるけど、動物の言葉なんてわかってどうするの。潰される家畜の断末魔でも聞きたい?」
「そんなわけありません! ライラック号と話してみたいんですよ」
「ああ、ライラック号か。あいつ何考えてるかわからないからな」
向こうもそう思ってるんじゃないですかね。
というか、ナーガさんはライラック号の言葉わからないんだ。
「ナーガさんは魔法でライラック号と話したりしなかったんですか?」
「旅の途中でリリアが抜けてから、アルバートに頼まれて何度か通訳したけど、それっきりかな。僕あんまりあいつと合わないんだ」
むしろ気が合う人がいるんだろうか、この人。
何かを思い出したのか、ナーガさんがため息をついた。
「本当はサディアスにやらせたかったんだけど、そういう魔法は使い物にならなかったから」
「魔法にも向き不向きがあるんですか?」
「あるよ。サディアスは魔法使いじゃないから、努力したところで使える魔法は限られてる」
努力したところで……ってことは、サディさんも使えるように頑張ったんだろうな。お母さんの代わりに、お父さんのために……!
サディさんの気持ちに思いを馳せていると、ナーガさんが横をすり抜けてドアに向かった。
「外に出る」
「は、はいっ!」
顔を洗って、厩舎にライラック号の世話をしに行く。
「おはよう、ライラック号」
ライラック号が挨拶を返してくれるように、首を高く上げた。
大きなフォークのような道具で、エサの乾草をライラック号に準備する。
「今日はね、ナーガさんに魔力を見てもらいに行くんだ。だから早く起きちゃったの」
ライラック号がぶるぶると首を震わせた。
「魔力がコントロールできるようになったから、今度は魔法の練習をするんだよ」
濡らしたタオルでライラック号の体を拭いてあげると、黒くて丸い瞳にじっと見つめられている気がした。
毎朝こうやってお世話をしながら、ライラック号に話しかけてる。少しは仲良くなれたといいんだけど。
馬の感情表現ってよくわからない。尻尾は動いてるけど、犬みたいにわかりやすいわけじゃないし。
でも、嫌がられてはいない……よね?
今はこんなに穏やかなライラック号だけど、かつてはお父さんたちと一緒に魔王退治に行ってたんだよね。
想像できない……って言ったら、お父さんたちもそうだけど。
「アリシア、今日は早いな」
お父さんが朝の畑仕事に出てきた。
「お父さん、おはよう。今日はナーガさんちに行くから、早起きしちゃったの」
「魔力が使えるようになったんだもんな。ナーガのやつ、アリシアがこんなに早く上達してきっとビックリするぞ。ギャフンと言わせてやれ」
言わなそうだな、絶対。
朝ご飯を食べた後、さっそくナーガさんの家に行った。
相変わらず本の山に埋もれていたナーガさんは、私を一瞥して山から這い出てきた。
「魔力、使えるようになったんだ」
「わかるんですか?」
「うん」
もうちょっと驚いてくれてもいいと思うんですが。
少しは褒めてくれるのかと期待したけど、そんなこともなくて。
「思ったより時間が掛かったね」
「1週間でできたんですけど。サディさんは早いねって」
「サディアスは魔法使いじゃないから手間取ったけど、キミは魔法使いだろう。リリアの子なのに、意外と不器用なんだな」
「お父さんは魔力ゼロですよ」
「それにしては良くやった方か」
とりあえず褒めてくれた、のか……?
そういえば昨日の夕ご飯のとき、サディさんが「みんな初めて魔力や魔法を使えたときのことは、よく覚えてるものなんだよ」と言ってた。
それくらい努力して、やっと成功させられるものだからと。
「ナーガさんは魔力が初めて使えたとき、どんな感じだったんですか?」
聞いてみたけど、ナーガさんはぼんやりとした目で言った。
「覚えてない」
「えっ? じゃあ、魔法を初めて使えるようになったときは?」
「覚えてない」
「でも、初めて使えたんですから、こう……驚きとか感動とか、そういうのなかったんですか?」
「別に。魔法使いが魔法を使えるのは当り前だろう」
ええ……そういうものなの?
なんか納得できなくてサディさんに言われたことを話すと、ナーガさんは「ああ」と頷いた。
「僕、魔力の感覚は生まれつきあったから。魔法も師匠に弟子入りする前から使えてた」
最初から当たり前に使えてたから、特に思うこともないと言うことですか。天才に聞いた私が悪かった。
「で、どんな魔法を使いたいのか考えた?」
そうだ。それを最初の目標にしようってことだったんだよね。
確か水・火・風・地の魔法は使うの難しいって言ってたはず。それ以外って結構難しいけど……あ。
「動物の言葉がわかる魔法ってありますか?」
これができれば、ライラック号の言ってることがわかる!
動物とお話しできるなんて、まさに魔法少女っぽくてなんかいいよね。
「あるけど、動物の言葉なんてわかってどうするの。潰される家畜の断末魔でも聞きたい?」
「そんなわけありません! ライラック号と話してみたいんですよ」
「ああ、ライラック号か。あいつ何考えてるかわからないからな」
向こうもそう思ってるんじゃないですかね。
というか、ナーガさんはライラック号の言葉わからないんだ。
「ナーガさんは魔法でライラック号と話したりしなかったんですか?」
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何かを思い出したのか、ナーガさんがため息をついた。
「本当はサディアスにやらせたかったんだけど、そういう魔法は使い物にならなかったから」
「魔法にも向き不向きがあるんですか?」
「あるよ。サディアスは魔法使いじゃないから、努力したところで使える魔法は限られてる」
努力したところで……ってことは、サディさんも使えるように頑張ったんだろうな。お母さんの代わりに、お父さんのために……!
サディさんの気持ちに思いを馳せていると、ナーガさんが横をすり抜けてドアに向かった。
「外に出る」
「は、はいっ!」
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