孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第二章

第73話 嫉妬

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 ソフィアちゃんの話は壮大だった。
 跡継ぎとして大切に育てられた王子フィリップと、隣国の側室に生まれ肩身の狭い暮らしをしてきた王子オリバーの凸凹コンビ。
 当初は反発していた2人がついに手を取り合って旅立つところなんて、もう尊すぎる展開でしたよ!

 良いところだったけど、夕方になってしまったので話は切り上げ、ソフィアちゃんと別れた。今度絶対に続きを聞かせてもらう約束をして。

「ただいま~」
「おかえり、アリシア」
「アリシアちゃん、お疲れさま」

 家に帰るともうお父さんは帰って来ていた。2人で夕食の準備をしてる。

「アリシア、今日の修業はどうだったんだ?」
「え! うーんと……まだ魔力は使えなかった、かな」

 修行には行ってない罪悪感をひしひしと感じる。でもお父さんは疑ってもいないのか「そうか」と野菜を切っていた。

「アリシアがそんなに苦戦するなんて、ナーガの教え方が悪いんじゃないか」
「まあ、ナーガは基礎を教えるのは上手くなさそうだもんね」

 サディさんがスープの味見をしながら苦笑する。

「魔力にはコツがあるから、その感覚さえわかるようになれば大丈夫だよ。僕が教えてあげるって約束してたんだ。アリシアちゃん、明日やってみようか」
「うん!」
「サディに任せておけば安心だな」

 もー、お父さんってばサディさんを信頼しきってるんですね!
 これはもう、私が魔力を使えるようにらなきゃしょうがない。頑張ろ。

 できあがった夕食を囲んで、みんなでいただきます。愛する2人が作ってくれたご飯は、今日もおいしいです。

「ねえ、お父さん。今度ソフィアおねえちゃんをうちに呼んでもいい?」
「ソフィアおねえちゃん?」
「村長さんちの娘さんだよ。この前、歓迎会のときに居ただろ? って、アルは酔っぱらってて覚えてないか」
「そういえば、村長さんに紹介されたような気も……」

 しどろもどろなお父さんだったけど、すぐ嬉しそうに笑った。

「もうお友達ができたんだな。もちろん、いつでも遊びに来てもらいなさい。歓迎するぞ」
「ありがとう! それでね、私の部屋のご本、ソフィアおねえちゃんに貸してあげてもいい? おねえちゃん、ご本が大好きなんだって」
「ああ、いいぞ。さすが村長さんの娘さんだな。読書家なのか」
「アリシアちゃん、ソフィアちゃんとすっかり仲良しになったんだ。いいお友達ができて良かったね」

 お父さんもサディさんも嬉しそう。やっぱり親にとって、子供に友達ができるかどうかって気掛かりなことなんだね。

 夕食を食べ終えると、片付けたテーブルにお父さんが紙包みを持ってきた。

「今日先輩から貰ったんだ。アリシアとサディにお土産」

 包みを開くと、中には星形のクッキーが入っていた。アステリジュースのような黄色っぽいオレンジ色が、表面にアイシングされてる。

「わあ、クッキーだ!」
「少しだがアステリが入ってるらしい。先輩の店で出してるんだそうだ」

 1枚もらうと、ちょっと甘酸っぱい香りがした。よく見ると中につぶつぶが見える。アステリの果肉かな。
 サディさんはキレイに彩られたクッキーを摘まんで、しげしげと見つめていた。

「そういえばさ、ハドリーさんと何かあった?」
「何かって……話をしてきただけだが」
「なんか顔赤くして帰ってきたから」

 お父さん、ハドリーさんにからかわれて真っ赤になってたもんね。そのまんま帰ってきちゃったのか。
 気付いていなかったのか、お父さんが慌て出す。

「それはっ、先輩に引っぱたかれて……」
「は? 何やったの、アル」

 その話をするとややこしいことになるんじゃ……。
 まさか正直に『ハドリーさんに言い寄られました』なんて言わないよね?

「いや……お、お前とのこと、早く言えって怒られた。サディが可哀想だろうって」
「え、ハドリーさんが?」

 まあ完全に嘘というわけじゃない。
 サディさんが「なーんだ」と、拍子抜けしたようにクッキーを齧った。

「てっきりハドリーさんに迫られたのかと思った」
「な……ッ!?」

 サディさん勘が良すぎるんですけど!

「そそそんなわけないだろう! なんで先輩が俺に!」
「ハドリーさん、よくアルのことからかうじゃん。アルって普段は隙だらけだから」

 良くわかっていらっしゃる。
 赤くなったり青くなったり忙しいお父さんに、サディさんはにっこり微笑んだ。

「もしそんなことがあったら……俺、何するかわかんないからね?」
「は、はい……」

 怖……。
 当て馬イベントが発生しないことを祈ろう。

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