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第二章

第70話 朝

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「おはよう~……あれ?」

 リビングに降りると、誰もいなかった。
 2人とも、もう起きてると思うのに。外かな?

 着替えて外に出ると、厩舎にサディさんがいた。ライラック号の手入れをしてる。

「おはよう、サディさん」
「おはよう、アリシアちゃん。朝ごはん、もうちょっと待っててね」
「うん。ライラック号のお世話してるの? 私もやりたい」
「いいよ、じゃあお願い」

 タオルをバケツの水で絞って、ライラック号の傍にあった木箱に乗った。

「優しく、でも少し力を入れて拭いてあげてね」
「うん」

 ライラック号の艶やかな茶色い首や耳の後ろを拭いてあげた。ライラック号がぶるぶると体を震わせたから、驚いてのけ反ってしまう。バランスを崩したところを、サディさんが支えてくれた。

「ライラック号、アリシアちゃんにキレイにしてもらえて嬉しいんだね」
「そうなの?」

 ライラック号の目を見ると、優しい瞳でじっと私を見つめ返してくれた。
 馬の世話なんて初めてだけど、なんだか楽しい。これからはライラック号とも家族なんだから、仲良くなりたいよね。

「ねえ、サディさん。ライラック号のお世話、私がやりたい」
「お世話ってなると、ご飯をあげたり掃除もしなくちゃならないよ。アリシアちゃん、できる?」
「うん! できる!」
「よし、じゃあライラック号の世話はアリシアちゃんの仕事にしようか」

 サディさんから、厩舎の掃除の仕方や飼葉のあげ方を教わった。
 7歳がやるには、なかなかの重労働。でも、家族の中で役割ができるのは嬉しい。
 今日はサディさんに教わりながらだったから、あっという間に朝の仕事は終了。

「アリシアちゃんのおかげで早く終わったよ。じゃあ、僕は朝ご飯用意してくるね」
「お父さんは?」
「裏の畑だよ。見てきてごらん」

 そういえば、家の裏には畑があると聞いてた。
 家をぐるっとまわって裏手に行くと、芝生の中に大きな茶色い地面が広がっていた。辺り一面の畑。自分たちが食べる分だけじゃなくて、野菜を売ったりもするのかな。

 お父さんは鍬で畑を耕してる最中だった。お父さんに聞こえるよう、声を張り上げる。

「お父さん! おはよう!」
「おっ、アリシア。おはよう」

 お父さんが盛り上がったうねをまたいでこっちにやって来た。

「お父さん、畑を耕してたの?」
「ああ、ある程度は引っ越し準備のときにやっておいたんだけどな。ここから種を撒いたり苗を植えて野菜を作るんだぞ。アリシアは何の野菜が食べたい?」
「レタス! サディさんのサンドウィッチに入れてもらうの」
「おお、それは旨そうだ。瑞々しくておいしいレタスを作ってやるからな」

 お父さんが軍手を嵌めた手で額を拭った。額に泥が付く。
 農家の男って感じ。これもまたかっこいい。

「あのね、今日からライラック号のお世話は私がやるんだよ」
「おお、さっそく自分の仕事を見つけたのか。偉いぞ、アリシア。ライラック号もアリシアに世話してもらえて喜んでるだろうな」

 そうだといいんだけどね。
 ライラック号が何を考えてるのか、わかればいいのにな。

 お父さんに苗や種を見せてもらってから家に戻ると、ちょうど朝ごはんができたところだった。
 パンとハムエッグ、それからサラダ、ミルクがテーブルに並ぶ。

「いただきまーす」
「この野菜とミルクは、引っ越し祝いにって村の人たちがくれたんだよ」
「有難いな。余所者扱いされないのは、ハドリーさんがここでの人脈を作ってくれていたおかげだ」
「感謝しなきゃだよね。うちも野菜ができたら、村の人たちにお返しをしようよ」
「そりゃ気合い入れて作らないとだな」

 なんて会話が進みながら、話はハドリーさんのことに。

「後でハドリーさんの店に行ってくる」

 キター! それはもちろん、サディさんとのことを話しに行くんですよね!?

「いつ行くの? 店が閉まった後?」
「いや、昼過ぎはほとんど誰も来ないと言ってたからその頃に」

 私も行きたい。けど、娘の前じゃお父さんだって話しにくいはず。
 なんとかこっそりついて行く方法は……

「私、ナーガさんちに修行に行ってくる!」
「ナーガの家!? それならお父さんも一緒に行くぞ。あいつがアリシアにどんな修行してるのか、見てやらないと」
「お父さんはハドリーさんちに行くんでしょう」
「う……あ、でも……」
「アル、授業参観は今度にしなよ。ま、ハドリーさんちに行かないなら別にいいけど」
「い、行く! 俺は行くからな! サディ!」

 お父さんが立ち上がって宣言した。
 今日お父さんには大事な使命があるんだから、早くサディさんを安心させてください。
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