上 下
69 / 111
第二章

第69話 家族

しおりを挟む

 夕食の後はまったりタイムを過ごして、それからお風呂に入った。
 まだ少し早いけど、今日はもう寝ることにしよう。いや、本当は寝ないけど。

「眠くなっちゃったから、今日はもうお休みするね」
「初めての修行頑張ったもんね。おやすみ、アリシアちゃん」
「よし、お父さんがベッドまで連れて行って……」
「大丈夫! 1人で行けるから!」

 お父さん、なんで私がさっさと退散するか全然わかってない。
 目で「サディさんと話するんでしょう」と訴えると、お父さんが気づいたのか慌てて頷く。

「あ、ああ、そうか。おやすみ、アリシア」
「おやすみなさい」

 頑張ってね! とアイコンタクトして2階に向かう。
 階段の上は吹き抜けになっている。覗き込めば、真下はリビングのテーブル。覗き見するにはもってこいの場所だ。

「また振られちゃったね~。どうする? 俺らももう寝る?」
「い、いや……ちょっと、あの……聞きたいことが、あるんだが」

 しどろもどろだけど、なんとか切り出せた。お父さんはコップの水をグイッとひと飲みして、サディさんに向き合う。

「何か俺に、言いたいことはないか?」
「アルに?」
「この前から、その、サディの様子がおかしいような……気が、して」

 お父さん、失速するの早すぎ。頑張って!
 上からじゃサディさんの顔は見えないけど、少し俯いてるみたい。

「へえ、気づくんだ。意外」
「そ、そりゃ俺だって気づくぞ。何年バディやってると思ってるんだ」
「……俺ってさぁ、今でもアルにとってはバディってだけなわけ?」
「え……」
「パートナーに……恋人になったんじゃないのかよ。俺たち」

 2人が押し黙って、時計の秒針の音だけが響く。

「それはもちろん、バディでもあってパートナーでもあるだろ」
「だけど、ハドリーさんには言ってくれなかったじゃん。他の人たちにはともかく、ハドリーさんには本当のこと、言ってほしかった」
「サディ……」
「ハドリーさんは仲間だろ。仲間にも隠したいような関係なのかよ。俺のことって」

 サディさんの声は、どことなく拗ねているようだった。
 部屋全体に重く、冷たい空気が沈んでいる。

「……悪い」

 お父さんの絞り出すような声が届く。

「ダメだな、俺は。サディと恋人になる覚悟が全然できてなかった」
「そうだよ。そっちから告白しといてさ。もっと腹括って責任取れよ」
「ごめん。お前との関係を隠したかったわけじゃないんだ……ただ、照れくさくて……」

 手で顔を覆うお父さんに、サディさんがため息をつく。

「別にリリアさんとのときみたいに、大手を振って『聞いてくれ! リリアと付き合うことになったんだ!』とか言ってほしいわけじゃないんだからさ」
「いいい言うな! あれは若かったから! 周りが見えてなくて!」
「こっちが引くくらい有頂天になってたよねぇ。なのに、今更何が恥ずかしいわけ? よりによって恋人が俺だから? 男だから?」
「違う! サディと恋人だということは恥ずべきことじゃない。……ただ、リリアと付き合った頃のことは今でもたまに思い出すんだ。若気の至りとはいえ、イタかったなと……」

 お父さん……そんな過去が。
 確かに若い頃と同じテンションで触れまわってたら恥ずかしいだろうけど、でもお父さんだってもう大人。スマートに伝えることだってできる、はず……たぶん。

「でも、それでサディを傷つけてたんだな。悪かった」
「いいよ、別に。俺も勝手に拗ねて悪かった。アリシアちゃんにも、気を使わせちゃってたよね」

 バレてた! いやそんな、私のことなんて気にしなくていいのに。
 でもサディさんからすれば、7歳の子供に気を使わせたのは罪悪感があったのかもしれない。
 うーん、気を使うのも難しい。お父さんには大丈夫だと思うけど。

 ガタッと、突然お父さんが立ち上がった。

「よし! ハドリーさんにサディとのことをきちんと伝えるぞ。ちょっと行ってくる!」
「今から? 明日にしなよ。こんな時間に乗り込んでって伝えるとか、そっちのが恥ずかしいんだけど」
「そ、そうか……」

 しゅるしゅるとお父さんが腰を落とす。
 とにかく、これで解決かな。あとは明日お父さんがハドリーさんのところに行くときに……

「サディ、俺は空気が読めない」

 小さくなってたお父さんが顔を上げた。

「んなこと知ってるけど」
「今回みたいに、またヘマをすることもあるだろう。お前が何を考えてるか、言ってくれないとわからない」
「堂々と言うことかよ」
「だから、何かあればすぐに言ってくれ。思ってることは、嫌なことも困ってることもなんでも言ってほしい。その都度話し合って、解決していこう」

 そう提案するお父さんの顔を、サディさんはまじまじと見てるようだった。
 それから、ふっと笑う。

「なんかそれって、『家族』みたいだよね」
「家族なんだから当然だろ」
「でも……うん、そうだね。良いことも悪いことも、これからは共有していこう」
「風通しを良くしておくのは、家族円満の秘訣だ」
「アリシアちゃんが思春期になったとき、口利いてくれなくなったら大変だもんね」
「アリシアが!? ア、アリシアが反抗期になったら俺は……俺は……どうしたら!!」
「だーかーらー、そうならないようにしようって言ってんだろ」

 頭を抱えて嘆いてるお父さんに、サディさんがやれやれと肩を竦めた。

 ゴーンゴーンと、壁掛け時計が鳴る。
 もうそろそろいい時間。見届け人はここまでにして、寝るとしましょうか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

処理中です...