孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第二章

第68話 怒ってる?

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「ただいま~」
「アリシアーー!」

 家に入った途端、お父さんが飛んできた。

「遅かったじゃないか! 心配したんだぞ」
「サディさんと一緒だったから大丈夫だよ。お父さん、二日酔いはもういいの?」
「ああ、すっかり平気だ。今日はどこに行ってたんだ?」
「ナーガのところだよ。アリシアちゃんの修業が始まったからね」

 サディさんが答えると、お父さんの顔が少し強張った。

「大丈夫だったか? ナーガに何か嫌なこと言われたりしなかったか?」
「……うん、大丈夫だよ」

 勘が悪いだの何だの言われたけどね。
 と、一瞬答える間が開いてしまったら、お父さんに伝わってしまったらしい。

「何を言われたんだ!? ナーガめ! 俺にならともかく、可愛いアリシアを傷つけることは許さん!」
「お父さん大丈夫! 何にも言われてないから!」

 すぐにでもナーガさんちに怒鳴り込んで行きそうなお父さんを、サディさんが「まあまあ」と宥める。

「アル、アリシアちゃんはナーガと修行するために来たんだろ。いちいち怒ってたらキリないよ」

 そう言われて、お父さんはなんとか怒りを飲み込んだ。そして、真面目な顔で私を見る。

「アリシア、修行というのは大変なことがたくさんある。お父さんも騎士学校の訓練を受けたから少しはわかる。もし何か困ったことがあったら、何でも相談しなさい」
「うん、わかった!」

 やっと納得してくれたのか、お父さんが「夕飯の支度をする」とキッチンに向かった。
 サディさんがこそっと私に耳打ちする。

「アルに言いにくかったら、僕に言ってくれてもいいからね」

 ありがとう、サディさん。
 両親がいてくれるって、ありがたいなぁ。

「今日は疲れてるだろうからお手伝いはいいよ」と言われて、私は1人ご飯ができるのを待っていた。
 2人は和やかで良い雰囲気。

「こうやって一緒に料理するのも、なんか楽しいね」

 サディさんがほほ笑む。一緒に台所に立つ姿は、まさに新婚さんって感じ。
 お父さんも笑って頷いた。

「寮の料理当番のときを思い出すな。覚えてるか? ブラントンって大飯ぐらいが、いつも盗み食いをしようと……」

 お父さん! サディさんは「夫婦っていいよね」って意味で言ったはずなのに、また学校の話して!

「ああ、いたね。そんな子」
「盗み食いを防ぐために、俺たちもいろいろ策を練ったよな。今思い出すと、その攻防戦も楽しくて」
「それは知らないな」
「え? お前もいなかったか?」
「いなかったよ。それ、1年の頃の話じゃない? 当番一緒じゃなかっただろ」

 ちょっと! サディさんとの思い出話ですらなかったの!
 サディさんが、お父さんが切った野菜をお鍋にぶち込んだ。

「後は煮るだけだから、もう座ってていいよ。アリシアちゃんと遊んでなよ」
「あ、ああ。後は頼む」

 お父さんが首を捻りながらこっちにやってきた。
 あーあ、せっかく良い雰囲気だったのに。


 2人が作ってくれた夕食を、木のテーブルを囲んで食べる。

「おいしいか? アリシア」
「うん! すっごくおいしーい!」
「よかった。おかわりもあるからね」

 テーブルに着いてからサディさんはにこやかで、さっきの不穏な空気は全然感じなかった。
 新居での初めての夕食、空気を悪くしたらまずいと思ってるんだろうな。

 夕食を食べ終わり、サディさんが片付けのために席を立った。
 と、お父さんが私に顔を寄せる。

「今日、サディと何かあったか?」
「どうして?」
「少し機嫌が悪い、ような気がして」

 お父さん! いい加減気づいたんだね!
 それなら、あと一押し。

「サディさんはきっと、お父さんのことを考えてるんじゃないのかなぁ」
「そう、なのか?」

 お父さんの顔が曇る。

「俺のこと、何か怒ってるのか」
「お父さん、サディさんを怒らせちゃったの?」
「いや、身に覚えはないんだが……」

 ないのか!
 そりゃそうだよね。悪気があってやってるわけじゃないのは、私だってわかる。
 それはサディさんだって同じはず。

 お父さんが、はあーと長い息を吐き出した。

「お父さんはそういうの鈍くてな。それでよくお母さんにも怒られた」
「そうなの?」
「『なんで私が怒ってるのかわかる?』とよく言われて、トンチンカンなことを言ってもっと怒らせた」

 お父さん、言われなきゃわからない人なのね。
 でもそれはお母さんだってよくない。お父さんは察するのが苦手なんだから、ちゃんと言ってあげなきゃ。

「それなら、サディさんに何で怒ってるのか聞いてみたらいいんじゃない?」
「聞いたら余計に怒らせないか?」
「でも、聞かなかったらずっとサディさん怒ってるよ」

 それもそうだな……とお父さんが神妙な顔で頷いた。

「わかった。聞いてくる」
「待って! 2人だけになってからの方がいいと思うよ。私が寝ちゃった後で」
「そ、そうか……」

 ったく、7歳の子に何を相談してるんだか。
 まったく世話が焼けるお父さんだこと。

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