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第二章

第63話 歓迎会

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 その夜、ハドリーさんのお店で開いてもらった歓迎会には村の人たちがたくさん集まってくれた。
 ナーガさんの姿をさがしたけど、来てないみたい。人が多いところ嫌いって言ってたもんな。

 お父さんとサディさんは村長さんやお役人さんたちに、挨拶してまわる。私もその後をついてまわった。

「おお、可愛らしいお嬢さんだ。お名前は?」
「アリシアです」
「年はいくつかな?」
「7歳です」
「ちょうどうちの子と同じくらいだ。お父さんが勇者様なんて羨ましいなぁ。お父さんのこと好きかい?」
「好きー!」

 というテンプレのやり取りを何度となく繰り返した。
 もう最初から「アリシア、7歳です。お父さんのことは好きです」と言いたいくらいだったけど、これもコミュニケーションだもんね。新参者なんだから、第一印象は大事にしないと。

「勇者様ご一家を歓迎して、乾杯!」
「乾杯!」

 大人たちはアステリの果実酒で、子供はアステリのジュースで乾杯した。
 昼間と同じものだけど、夜に見ると更にキラキラ輝いて見える。まるで星が散りばめられてるみたいだ。

「こんばんは。あなたも向こうで一緒に遊ばない?」

 声を掛けてくれたのは、10歳くらいに見える女の子だった。胸元まであるプラチナの髪は上品な内巻きで、柔らかく微笑んだ彼女はとても優しそうだった。
 部屋の隅を見ると、村の子供たちが集まっている。

「私はソフィア。お友達になりましょう、アリシアちゃん」
「うん! ありがとう! ソフィアお姉ちゃん!」

 そう呼ぶと、ソフィアちゃんは嬉しそうに笑った。
 ソフィアちゃんは、みんなのお姉さん的な立場らしい。美人で可愛くて優しいとか、こんなお姉ちゃん前世で欲しかったんだよね~。

「アリシアちゃん、もうお友達ができたの?」

 サディさんが大人たちの輪を抜け出してやってきた。

「サディさん、この子はソフィアお姉ちゃんっていうの。今みんなでゲームしてるんだよ」
「楽しそうだね。僕も混ぜてくれない?」

 サディさんがソフィアちゃんに言うと、ソフィアちゃんは「もちろん、どうぞ」と私との間にスペースを開けてくれた。

「ありがとう、ソフィアちゃん。僕はサディアス、『サディ』でいいよ。アリシアちゃんもそう呼んでるから」
「はい、サディさん。よろしくお願いします」

 サディさんがさりげなく聞き出してくれた話によると、ソフィアちゃんは村長さんの娘さんらしい。
 それからしばらく、サディさんとも一緒に村の子たちと遊んだ。お父さんはというと、村の人たち相手にハドリーさんと旅の武勇伝を披露してるみたい。お酒も入ってずいぶん盛り上がってるのか、盛大な笑い声が何度も聞こえる。

 サディさんが輪に加わってから、子供たちのお母さんたちが何やらこっちを気にしていた。

「あの、サディアス様……」
「様なんてよしてください。僕らも同じ村の住民なんですから」
「ええ、では……サディアスさん。子供たちの相手をしていただいて、ありがとうございます。あちらでハドリーさんたちとご一緒しなくてよろしいのですか?」
「僕はこっちでみんなと遊んでる方が楽しいんです。僕みたいなのがいたら、お邪魔でしょうか?」
「い、いえ、そんな! 子供がお好きなのですね」
「はい。それにこちらにいるおかげで、皆さんのような美しいお嬢さんたちとお話しすることもできて幸運でした」

「まあ!」「キャー!」と、お母さんたちが口元に手を当てて沸き立つ。
 ヤバい、サディさんがモテちゃう。

 夜も遅くなってきて、子供たちはお母さんと帰る時間になる。
 私もサディさんと先に帰ることになった。お父さんは「お~、サディ~、アリシアを頼むぞ~」とベロンベロンだった。朝まで帰ってこないかもしれないな。

「ったく、アルはしょうがないな。アリシアちゃんほったらかしでさ」

 田舎の暗い道を歩きながら、サディさんが零した。

「ハドリーさんが一緒だからって、はしゃぎ過ぎて困っちゃうよね」
「お父さん、ハドリーさんととっても仲良しなんだね」
「騎士学校の頃から、ハドリーさんはアルの憧れなんだよ」

 確かにプレンドーレに住むと決めたときのお父さんは嬉しそうで、ハドリーさんと一緒にいるとキラキラした目をしてた。

「上級生と剣の対決をする行事があったんだけど、うちの学年で1番剣が強いアルが代表して出ることになってさ。実際、訓練で上級生を負かしたこともあったから自信満々で出てったら……ハドリーさんにコテンパンにされた」
「ハドリーさん、強かったんだね」
「慢心というか、舐めてたんだろうね。あの頃のアルは、今よりずっと強気だったから。でもそれで反省して、ハドリーさんを尊敬するようになったんだ。いつもハドリーさんの後ろをくっついて歩いてさ」

 あの2人にそんな過去が。
 そして努力したお父さんは、ある日ついにハドリーさんとの勝負に打ち勝つ。
「ふっ、お前も強くなったな」「やっと、あなたに並べましたね」とか言っちゃって!
 ……いやいやいや、お父さんとハドリーさんでカップリング作ってどうするんだ。浮気はダメダメ。
 サディさんだって、ちょっと拗ねた顔してるじゃない。
 ん? 拗ねた顔?

「サディさんは、ハドリーさんのこと……嫌いなの?」

 サディさんが驚いて私を見た。

「嫌いじゃないよ。でもいや、ちょっと……さ。アルって昔からハドリーさんにベッタリだから、なんか、ね」

 もしかして……サディさん嫉妬してる!? してるよね!
 だから引っ越し前からお父さんがハドリーさんの話すると、複雑そうな顔してたんだ。
 独身時代に女性が相手なら身を引くけど、今は自分というものがありながら他の男と仲良くするなんてどういうことだ! ってことですね!

 とすると、さっき「美しいお嬢さんたち」と王子様スマイル浮かべてたのは、お父さんへの当て付け?
 なにそれ、サディさんかーわーいーいー!

 はっ! 腐女子としては激萌えの展開だけど、お父さんがそれにまったく気づいてないのは大問題だ。
 明日は酔って帰って来るだろうし、引っ越し早々空気が不穏……。

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