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第二章
第62話 新しい家
しおりを挟むライラック号の馬車に揺られて新しい家に向かった。
辺り一面の芝生、丸太を積み上げたような壁に三角屋根が乗っかっている。ログハウスだ。大きな2階建てで、ウッドデッキもある。
前のお屋敷に比べればそりゃ小さいけど、ここに来るまでに見た村の家々に比べればずっと大きい。
家の前にはレンガで囲まれた花壇に、色とりどりの花が咲いていた。
「この前来たときに僕が植えておいたんだ。いつ咲くかと思ったけど、今日に間に合って良かったよ」
「サディさんが花壇作ってくれたの? キレーイ!」
「裏には畑もあるぞ。お父さんがおいしい野菜を作ってやるからな」
「うん! 私、お野菜のお味噌汁と天ぷらが食べたい」
「そ、それはサディに頼んでくれ……」
笑いながら、お父さんはライラック号のハーネスを外した。
栗毛色の普通の馬に戻ったライラック号を、お父さんが厩舎に連れて行く。……と思ったら、厩舎は家のすぐ近くにあった。
「広い庭が確保できてよかったよ。これでライラック号も走らせてやれるし、アリシアちゃんも思いっきり遊べるよね」
子供はともかく、馬が走り回れるほどの敷地……って、この辺一帯が全部うちの庭ってこと?
それ、庭なの? 牧場じゃなくて?
「こんなステキな場所にお引越しできるなんてすごいね!」
「前に比べれば狭いし、メイドもコックもいないが……アリシアが喜んでくれて安心したよ」
いやいや、十分ですって。今までの暮らしが浮世離れし過ぎてただけ。
今回だって、かなりの豪邸だと思うけど。こんなオシャレな家、イチから作ったのかな。
「もともとは別荘だった場所を買い取ったんだよね。良い場所があって良かったよ」
「中古とはいえ、かなりリフォームしたが庭や厩舎はそのままだからな。思ってたほど手間が掛からなくて助かった」
「買い手がつかなかったみたいだから、村長さんにも喜ばれたしね」
こんなドーンとした家と敷地、なかなか全部まとめて買います! って言えちゃう人はいないよね。
家の中に入ると、一気に木の香りに包まれる。まるで森林にいるみたいだ。
黒い暖炉の傍には柔らかい緑色の大きなソファーがある。家族3人で座れそう。
その横には、2階に繋がる階段があった。
「2階にはアリシアの部屋があるぞ」
「わあい! 行ってみるー!」
お父さんと一緒に階段を駆け上がる。
2階には窓がたくさんあって、廊下は夕焼けに染まっていた。昼間は日当たりが良くてあったかそう。
階段のすぐ傍の部屋に入ると、前世でも見慣れたシングルサイズのベッドがあった。足元にはラグが敷かれていて、側面に彫刻が施されたアンティーク調の勉強机もある。
なんか落ち着く。前のお屋敷は子供部屋にしては広すぎたもんね。
前みたいにぬいぐるみやおもちゃは置かれていない。その代わり、白い本棚に本がぎっしり並べてあった。
「アリシアも少しお姉さんになったからな。全体的にシンプルな部屋にして、おもちゃよりも本を置いてみたんだが……どうだ?」
「うん、お父さんありがとう。私、このお部屋大好き!」
「そうか、良かった」
本がたくさんある! やっとこっちの世界の文字が読めるようになったのに、読まなきゃ忘れちゃうもんね。
「隣のお部屋はなんのお部屋なの?」
「そっちはお父さん……」
「と、僕の部屋だよ!」
ひょこっとサディさんが顔を出した。にっこり笑うサディさんに、お父さんが懐かしそうな顔して頷く。
「今日から相部屋だな。騎士学校の寮暮らしを思い出す」
「それと同じにしないでよ」
はっ、とサディさんが呆れたように息を吐く。
お父さん! そこは夫婦部屋でしょう! 寮生活と一緒じゃないんだよ!
せっかくひとつ屋根の下に暮らす家族になれたのに、まだまだお父さんはサディさんとお友達気分。
早く家族の雰囲気になれるといいんだけど。
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