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第二章

第61話 パートナー

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 ハドリーさんは、私たちをお店の席に案内してくれた。お父さんとサディさんにはコーヒー、私には何かのジュースを出してくれる。

「アステリのジュースだ。今日はアリシアちゃんに特別サービス。ホントは結構高いんだぞ」
「ありがとう! いただきます!」

 グラスに入ったそのジュースは黄色っぽいオレンジ色で、例えるならマンゴージュース。でもよく見ると、何かキラキラと光ってた。中に何か入ってる? それとも、水滴が灯りに反射してるだけ?
 パチンッと炭酸が弾けるように、グラスの真ん中が光った。

「このジュース、光ってる!?」
「流星をたっぷり浴びたアステリだからな。採れたてはもっとすごいぞ」

 ハドリーさんが笑って言った。
 恐る恐るストローで飲むと、トロッと甘い味がする。だけどさっぱりしてて爽やかな、不思議な味。

「この前俺たちも飲んだが、なかなか衝撃的な飲み物だな。ジュースが光るなんて、まるで魔法だ」
「夜に飲んだら、きっとロマンティックだろうね」
「アルとサディには歓迎会でアステリの酒を用意してるからな」
「さっすが先輩、楽しみにしてます!」

 ハドリーさんは騎士学校を卒業して、しばらく騎士団にいたけどお父さんたちが魔王討伐の旅に出たと聞いて合流したらしい。
 魔王を倒した後は、この村に移り住んで喫茶店のマスターをしている。
 引っ越してきた事情は、もうお父さんたちが話してくれてるみたい。

「アリシアのために魔法修行ができる土地を探してたんで、先輩がいてくれて良かったですよ」
「だからって、まさか親子揃って移住してくるなんてな。アルは騎士団にかまけて、子供はメイドたちに任せっきりだと思ってたが」
「子供の傍にいることが、親として一番の務めだと思ったんですよ」
「変わったなぁ、お前も。昔は尖り腐って、俺が声かけてやっても『気安く話しかけるな』って睨みつけてきやがって。生意気なやつが入ってきたと思ったなぁ」
「やめてくださいって! 俺もガキだったんですよ」

 笑い合う2人はまさに昔馴染みって感じで和む。
 でも、なんとなくそれを見つめるサディさんは複雑そうな顔をしてる、ような気が。

「ねえ、サディさ……」
「ところでサディ、お前はなんで一緒に来たんだ?」

 私が言いかけると、ハドリーさんに取られてしまった。
 まあ、ここはハドリーさんに譲ろう。

「俺とアルは……」
「お、俺とサディは生涯のバディですからね」
「生涯のバディつったってなぁ。引退後まで律儀にツルんでるやつなんてほとんどいねえぞ」
「いや、アリシアも仲良くしてるんで、せっかくなら一緒にどうだって誘ったんです。知らない土地で、アリシアも心細いだろうし」
「家も一軒しか用意してないらしいが、一緒に住むのか?」
「俺料理とか家事できないんで、サディがいればアリシアも安心ですから。そういうハドリーさんだって、バディと仲良かったって騎士学校じゃ有名だったじゃないですか」
「だからって一緒に住むとかねえわ。はー、仲良いね、お前ら」

 お父さん……私をダシにしすぎなんじゃ。
 サディさんは何も言わずに、じっとお父さんを見つめてた。

 夜にはハドリーさんが村の人たちを集めて歓迎会をしてくれるらしい。その前に、一旦家に行こうと喫茶店を出る。
 待っていてくれたライラック号の馬車に乗り込むと、黙り込んでいたサディさんが口を開いた。

「言わないんだ」
「え?」

 サディさんは走り出した馬車の窓枠に頬杖を突き、飛び立つ窓の外を見つめている。

「ハドリーさんに、俺たちのこと」
「言っただろ。これから一緒に住むって」
「俺さぁ、今更バディだからってだけでアルと一緒にいるわけじゃないんだけど」
「……どういう意味だ?」
「別に、アルが言いたくなきゃいいけどさ」

 サディさん、きっとハドリーさんに「俺とアルはパートナーで、家族になったんです」って言うつもりだったんだ。
 それなのにお父さんが「バディだから」とか「アリシアと仲良いから」って誤魔化すから!
 ちょっとお父さん! 相変わらず全然サディさんの気持ちわかってないじゃん!

 馬車の中に、不穏な空気が流れる。

「あ、あのね、私お父さんとサディさんと一緒のおうちに住むのすっごく楽しみだったの。みんな仲良し、だもんね」

 7歳の語彙力で精一杯のフォロー。
 サディさんが、はたと気づいたように私に笑いかけた。

「僕もアリシアちゃんと暮らせるのすっごく楽しみにしてたよ。あ、そうだ。アステリの実ってパイにしてもおいしいんだって。今度作ってあげるね」
「わあい! 私もお手伝いするー!」

 なんとか馬車の中の空気は戻ったけど、お父さんは黙り込んでぐるぐると頭を悩ませていた。
 ああ、早くサディさんの言った意味、わかってあげてよー。

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