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第一章
第58話 大人の時間③ ※サディアス視点
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※サディアス視点になります。
アリシアちゃんが手を振って部屋を出て行った。
あの子のことだ、きっと俺とアルを2人きりにしてくれたんだろう。一緒に暮らすようになったら、なかなか2人きりになれないと思って。
ホント、小さいのにすごく気が利く。誰に似たんだろ、アルじゃないことは確かだな。
そんな愛娘の配慮に気づかない残念なお父さんは、ガックリと項垂れている。
「アリシア……最後の夜なんだから甘えてくれたっていいんだが」
「あははっ、振られちゃったね~。じゃあさ」
顔を上げたアルの耳元に囁く。
「代わりに俺が一緒に寝てやるよ」
「っ!?」
ちょっとからかっただけなのに、アルは顔を真っ赤にして狼狽えた。
「ちょっ、あっ、待っ」
「アルってホント初々しい反応するよね。子持ちなのが信じらんない」
「お、男相手なんて初めてなんだから仕方がないだろう」
「女の子相手なら平気だって? よく言うよー」
リリアさん相手にも煮え切らない態度でまごまごしてたのを思い出す。
本人は女の経験なんていくらでもあると言い張ってたけど……ま、追求しないであげよう。
不貞腐れた顔をして、アルが席を立った。
少しして、ワインボトルとグラスを持って戻ってくる。
「そういえば、昼間1人でどこに行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとリリアさんのお墓参りにね」
「1人でか? 俺はアリシアと昨日行ってきたんだ。言ってくれれば一緒に……」
「ちょっと1人で行きたかったんだ。ちゃんと挨拶しときたかったから」
「挨拶?」
「リリアさんの代わりにはなれないけど、アルとアリシアちゃんは俺が守るから……許してねって」
リリアさんがいなくなったのを良いことに、恋人の座についたわけじゃない。
でも実際のところ、リリアさんが今の俺を見たらなんと言うのかわからない。
俺がいなければ、アルは一途にリリアさんのことを想って独身を貫いただろう。
アルと一緒になれたこと、アリシアちゃんに受け入れてもらえたこと。幸せを感じるたび、胸の奥で罪悪感という名の棘が傷んだ。
「許しを請うなんて、まるでリリアが怒っているみたいじゃないか」
「怒ってるかもしれないだろ。愛する旦那と可愛い娘を攫ってくようなものなんだから」
「リリアはサディを信頼していた。そんな風に思うわけがない」
「そんなのわからな……」
「いいや、リリアは怒っていない。俺にはわかる」
まっすぐな、力強い瞳。
頭の中の記憶と繋がる。
パーティーから抜けるとなったリリアさんに、俺は魔法を習った。
人間のくせに魔導の剣を使えるようになりたいという無謀な願いを、リリアさんは笑いもせず聞き入れてくれた。
ようやく使い物になるようになったあの日、「アルバートをお願い。あなたになら託せる」と、まっすぐな力強い瞳で彼女は言った。
そんな瞳に、アルが重なる。
「もし、万が一怒っているのだとしても、サディが1人で罪悪感を抱える必要はない。愛する妻がいながら、サディに気持ちを寄せたのは俺だ。俺も一緒に抱えさせてくれ。家族なんだから」
大真面目にそう言うアルに、笑いが零れてしまう。
アルが不服そうな顔を浮かべた。
「何がおかしい」
「いや、おかしいんじゃないよ。幸せだな~って思ってさ」
笑い続ける俺に、アルが首を傾げていた。
「そうだよね、1人で抱えることじゃなかった。ごめん、俺まだ家族ってよくわかってなくて」
「それは俺も同じだ。お互い、親には恵まれなかったからな」
「孤児院の話、よくアリシアちゃんにしたじゃない。あんまり言いたがらないのに」
「どこかで伝えようとは思っていたんだ。お前こそよく言ったな」
「言わないことに罪悪感があったんだ。俺みたいのが幸せな家族を作ることにね」
アルが呆れたようにため息をつく。
「お前は罪の意識ばっかりだな」
「それはまあ、結構悪いこともしてきましたから」
アルのように、孤児院で真面目に畑仕事して暮らしてたわけじゃない。
生きるために仕方がなかったなんて言い訳でしかない。
俺を純粋に慕ってくれてるアリシアちゃんを騙しているようで、なにも言わないことが怖かった。
かといって、幼いあの子にすべてを話し、嫌われる勇気もない。
「サディが前に言っただろ。アリシアのこともリリアのことも、全部ひっくるめて俺を愛してるって。俺も、お前もお前の過去も全部まとめて愛してる。サディの罪なら、俺の罪だ」
「……たまにはカッコいいこと言えるんだな」
「たまには、は余計――ッ」
アルの唇を不意打ちで塞いでやった。
驚いたのか、せっかくのキスだってのに目を白黒させてる。
「キスのときは目閉じれば?」
「おっ、お前が急にしてきたからだろうが! するなら先に言え」
先に言えばしてもいいってことか。
「じゃあ、これから抱くけどいい?」
「なっ、どんな宣言だ!?」
「本当はリリアさんに悪いから、この家でするつもりなかったんだけどさ。でもいいよね。リリアさんも、きっと許してくれる」
「調子に乗るな!」
ジタバタしてるアルの腕を取ってベッドに向かう。
アルが本気で抵抗すれば、俺の腕くらい振り解ける。ということは、嫌じゃないってことだ。
「ほんっと、可愛いよね。アル」
「どうしてそうなる!」
こんなアルの姿を見たのは俺しかいないのかもしれない。
そんな優越感を胸の奥にひっそりと感じてしまう。
罪悪感だなんて格好つけて、俺はきっとリリアさんに嫉妬していただけだ。
戦友だった彼女に心の中で謝って、俺より逞しい肩を押し倒した。
アリシアちゃんが手を振って部屋を出て行った。
あの子のことだ、きっと俺とアルを2人きりにしてくれたんだろう。一緒に暮らすようになったら、なかなか2人きりになれないと思って。
ホント、小さいのにすごく気が利く。誰に似たんだろ、アルじゃないことは確かだな。
そんな愛娘の配慮に気づかない残念なお父さんは、ガックリと項垂れている。
「アリシア……最後の夜なんだから甘えてくれたっていいんだが」
「あははっ、振られちゃったね~。じゃあさ」
顔を上げたアルの耳元に囁く。
「代わりに俺が一緒に寝てやるよ」
「っ!?」
ちょっとからかっただけなのに、アルは顔を真っ赤にして狼狽えた。
「ちょっ、あっ、待っ」
「アルってホント初々しい反応するよね。子持ちなのが信じらんない」
「お、男相手なんて初めてなんだから仕方がないだろう」
「女の子相手なら平気だって? よく言うよー」
リリアさん相手にも煮え切らない態度でまごまごしてたのを思い出す。
本人は女の経験なんていくらでもあると言い張ってたけど……ま、追求しないであげよう。
不貞腐れた顔をして、アルが席を立った。
少しして、ワインボトルとグラスを持って戻ってくる。
「そういえば、昼間1人でどこに行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとリリアさんのお墓参りにね」
「1人でか? 俺はアリシアと昨日行ってきたんだ。言ってくれれば一緒に……」
「ちょっと1人で行きたかったんだ。ちゃんと挨拶しときたかったから」
「挨拶?」
「リリアさんの代わりにはなれないけど、アルとアリシアちゃんは俺が守るから……許してねって」
リリアさんがいなくなったのを良いことに、恋人の座についたわけじゃない。
でも実際のところ、リリアさんが今の俺を見たらなんと言うのかわからない。
俺がいなければ、アルは一途にリリアさんのことを想って独身を貫いただろう。
アルと一緒になれたこと、アリシアちゃんに受け入れてもらえたこと。幸せを感じるたび、胸の奥で罪悪感という名の棘が傷んだ。
「許しを請うなんて、まるでリリアが怒っているみたいじゃないか」
「怒ってるかもしれないだろ。愛する旦那と可愛い娘を攫ってくようなものなんだから」
「リリアはサディを信頼していた。そんな風に思うわけがない」
「そんなのわからな……」
「いいや、リリアは怒っていない。俺にはわかる」
まっすぐな、力強い瞳。
頭の中の記憶と繋がる。
パーティーから抜けるとなったリリアさんに、俺は魔法を習った。
人間のくせに魔導の剣を使えるようになりたいという無謀な願いを、リリアさんは笑いもせず聞き入れてくれた。
ようやく使い物になるようになったあの日、「アルバートをお願い。あなたになら託せる」と、まっすぐな力強い瞳で彼女は言った。
そんな瞳に、アルが重なる。
「もし、万が一怒っているのだとしても、サディが1人で罪悪感を抱える必要はない。愛する妻がいながら、サディに気持ちを寄せたのは俺だ。俺も一緒に抱えさせてくれ。家族なんだから」
大真面目にそう言うアルに、笑いが零れてしまう。
アルが不服そうな顔を浮かべた。
「何がおかしい」
「いや、おかしいんじゃないよ。幸せだな~って思ってさ」
笑い続ける俺に、アルが首を傾げていた。
「そうだよね、1人で抱えることじゃなかった。ごめん、俺まだ家族ってよくわかってなくて」
「それは俺も同じだ。お互い、親には恵まれなかったからな」
「孤児院の話、よくアリシアちゃんにしたじゃない。あんまり言いたがらないのに」
「どこかで伝えようとは思っていたんだ。お前こそよく言ったな」
「言わないことに罪悪感があったんだ。俺みたいのが幸せな家族を作ることにね」
アルが呆れたようにため息をつく。
「お前は罪の意識ばっかりだな」
「それはまあ、結構悪いこともしてきましたから」
アルのように、孤児院で真面目に畑仕事して暮らしてたわけじゃない。
生きるために仕方がなかったなんて言い訳でしかない。
俺を純粋に慕ってくれてるアリシアちゃんを騙しているようで、なにも言わないことが怖かった。
かといって、幼いあの子にすべてを話し、嫌われる勇気もない。
「サディが前に言っただろ。アリシアのこともリリアのことも、全部ひっくるめて俺を愛してるって。俺も、お前もお前の過去も全部まとめて愛してる。サディの罪なら、俺の罪だ」
「……たまにはカッコいいこと言えるんだな」
「たまには、は余計――ッ」
アルの唇を不意打ちで塞いでやった。
驚いたのか、せっかくのキスだってのに目を白黒させてる。
「キスのときは目閉じれば?」
「おっ、お前が急にしてきたからだろうが! するなら先に言え」
先に言えばしてもいいってことか。
「じゃあ、これから抱くけどいい?」
「なっ、どんな宣言だ!?」
「本当はリリアさんに悪いから、この家でするつもりなかったんだけどさ。でもいいよね。リリアさんも、きっと許してくれる」
「調子に乗るな!」
ジタバタしてるアルの腕を取ってベッドに向かう。
アルが本気で抵抗すれば、俺の腕くらい振り解ける。ということは、嫌じゃないってことだ。
「ほんっと、可愛いよね。アル」
「どうしてそうなる!」
こんなアルの姿を見たのは俺しかいないのかもしれない。
そんな優越感を胸の奥にひっそりと感じてしまう。
罪悪感だなんて格好つけて、俺はきっとリリアさんに嫉妬していただけだ。
戦友だった彼女に心の中で謝って、俺より逞しい肩を押し倒した。
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