56 / 111
第一章
第56話 魔力
しおりを挟むお父さんはハドリーさんに手紙を書くため書斎に行って、サディさんは引っ越しの準備のために家に戻った。
ナーガさんも帰ろうとドアの方へ歩き出す。
あ、ペンデュラム返さなきゃ。
「ナーガさん、ペンデュラムありがとう! 妖精さんのオバケ、全然出てこなくなったよ」
そう言うと、じーっとナーガさんが私を見つめる。
「僕の前では子供の振りするの、やめたら?」
そ、そうだった……。もうなんかこの喋り方、クセになってて。
「それはまだ持ってなよ。引っ越すまでないと困るだろう」
「あ、そうですよね。すっかり解決した気になってて」
はあ、とナーガさんが息を吐き出した。
「まさか本当に修行についてくるとはね」
「そうだと思ってました?」
「あの調子だとね。よっぽど子供を手放したくないんだろうな」
またじっとナーガさんの視線が突き刺さる。
『子供って言っても、中身大人だろ』って言いたいんだろうな。いやでも、お父さんの中では私まだ純粋な7歳ですし。
「ナーガさんは、小さい頃から1人で修行してたんですよね?」
「そう」
「寂しくなかったんですか?」
「別に」
話が広がらない……。
ナーガさんのこと知りたいし、昔のお父さんたちのこととか聞きたいけど、この調子だと話してくれなそうだな。
「ええと……どうして私を弟子にしようと思ったんですか?」
とりあえず話を変えてみると、ナーガさんが私から視線を外してめんどくさそうに答える。
「おもしろそうだったから」
「お、おもしろそう?」
「異世界からの転生者なんて、見たことがない。そんな魂が魔力を持って、どんな魔法使いになっていくのか、興味がある」
ナーガさんが口の端だけで小さく笑った。
「すごい魔法の才能を見出したから、とかではなく……?」
「ないよ。むしろ、どの程度魔法が使えるようになるかわからない」
ナーガさんが右手を上に向けると、掌に紫色の球が現れた。バチバチと紫の電磁波みたいなのを発しながらクルクルまわっている。
「この世界では生まれつき強力な魔力を持ってる者を魔法使いと呼ぶけど、それ以外の人間も多少は魔力を持ってる」
「だから、サディさんも魔法が使えるんですね」
「サディアスは珍しい。魔導の剣なんて、普通は魔法使いしか使わないのに」
「魔法使い以外は使えないんですか?」
「使えないんじゃなくて、使わない。魔導の剣は魔力の消費量が多い。普通の人間の弱い魔力じゃ少し使っただけでバテる。なんでそこまでして使いたがったのか、よくわからない」
あれ、そんな大変なものだったんだ。
確かお母さんがパーティーを離脱するから、代わりにお父さんを守れるように使えるようにしたってサディさんが言ってた。
「サディさんが魔導の剣を使いたかったのは、お父さんのためなんですよ!」
これぞ生涯のバディの絆。
きっと魔導の剣を使えるようになるために、サディさんは血の滲むような特訓をしたはず。それもすべてはお父さんのため。秘めた気持ちを押し殺して、それでもお父さんを助けたくて……
「なんで?」
ナーガさんがキョトンとした。全然ピンときてない!
ここ、すっごい感動するところなんですけど!
「いえ、だから、サディさんとお父さんは生涯のバディで、しかも当時からサディさんはお父さんのことが好きだったんですよ。それでお母さんがパーティーを抜けることになったから、代わりに魔法でお父さんを助けようと……」
「リリアが抜けたのは妊娠したからで、サディアスは関係ない」
「いや、だからそうではなくて……」
ナーガさんは何度も首を傾げてる。
ダメだ、この人……本当に理解できないんだ……
ナーガさんの掌の球が小さくなって消えていく。
「サディアスはともかく、アルバートには魔力がない。あれだけ魔力がない人間もなかなかいない」
「ないって、ゼロなんですか?」
「うん。だからキミは魔力をリリアからしか受け継いでいない。キミは確かに魔法使いみたいだけど、アルバートの才能のなさが遺伝して足を引っ張る可能性もある」
お父さん、きっと攻撃力にステータス全振りしちゃったんだな。
でもそれを助けてくれるサディさんがいる。お互いを支え合える、これぞバディ!
「もういい? 帰る」
「あ、はい! あの、これから弟子としてお世話に――」
パチンと指を鳴らして、ナーガさんは姿を消してしまった。
あの人の弟子として、私上手くやっていけるんだろうか……
2
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる