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第一章
第56話 魔力
しおりを挟むお父さんはハドリーさんに手紙を書くため書斎に行って、サディさんは引っ越しの準備のために家に戻った。
ナーガさんも帰ろうとドアの方へ歩き出す。
あ、ペンデュラム返さなきゃ。
「ナーガさん、ペンデュラムありがとう! 妖精さんのオバケ、全然出てこなくなったよ」
そう言うと、じーっとナーガさんが私を見つめる。
「僕の前では子供の振りするの、やめたら?」
そ、そうだった……。もうなんかこの喋り方、クセになってて。
「それはまだ持ってなよ。引っ越すまでないと困るだろう」
「あ、そうですよね。すっかり解決した気になってて」
はあ、とナーガさんが息を吐き出した。
「まさか本当に修行についてくるとはね」
「そうだと思ってました?」
「あの調子だとね。よっぽど子供を手放したくないんだろうな」
またじっとナーガさんの視線が突き刺さる。
『子供って言っても、中身大人だろ』って言いたいんだろうな。いやでも、お父さんの中では私まだ純粋な7歳ですし。
「ナーガさんは、小さい頃から1人で修行してたんですよね?」
「そう」
「寂しくなかったんですか?」
「別に」
話が広がらない……。
ナーガさんのこと知りたいし、昔のお父さんたちのこととか聞きたいけど、この調子だと話してくれなそうだな。
「ええと……どうして私を弟子にしようと思ったんですか?」
とりあえず話を変えてみると、ナーガさんが私から視線を外してめんどくさそうに答える。
「おもしろそうだったから」
「お、おもしろそう?」
「異世界からの転生者なんて、見たことがない。そんな魂が魔力を持って、どんな魔法使いになっていくのか、興味がある」
ナーガさんが口の端だけで小さく笑った。
「すごい魔法の才能を見出したから、とかではなく……?」
「ないよ。むしろ、どの程度魔法が使えるようになるかわからない」
ナーガさんが右手を上に向けると、掌に紫色の球が現れた。バチバチと紫の電磁波みたいなのを発しながらクルクルまわっている。
「この世界では生まれつき強力な魔力を持ってる者を魔法使いと呼ぶけど、それ以外の人間も多少は魔力を持ってる」
「だから、サディさんも魔法が使えるんですね」
「サディアスは珍しい。魔導の剣なんて、普通は魔法使いしか使わないのに」
「魔法使い以外は使えないんですか?」
「使えないんじゃなくて、使わない。魔導の剣は魔力の消費量が多い。普通の人間の弱い魔力じゃ少し使っただけでバテる。なんでそこまでして使いたがったのか、よくわからない」
あれ、そんな大変なものだったんだ。
確かお母さんがパーティーを離脱するから、代わりにお父さんを守れるように使えるようにしたってサディさんが言ってた。
「サディさんが魔導の剣を使いたかったのは、お父さんのためなんですよ!」
これぞ生涯のバディの絆。
きっと魔導の剣を使えるようになるために、サディさんは血の滲むような特訓をしたはず。それもすべてはお父さんのため。秘めた気持ちを押し殺して、それでもお父さんを助けたくて……
「なんで?」
ナーガさんがキョトンとした。全然ピンときてない!
ここ、すっごい感動するところなんですけど!
「いえ、だから、サディさんとお父さんは生涯のバディで、しかも当時からサディさんはお父さんのことが好きだったんですよ。それでお母さんがパーティーを抜けることになったから、代わりに魔法でお父さんを助けようと……」
「リリアが抜けたのは妊娠したからで、サディアスは関係ない」
「いや、だからそうではなくて……」
ナーガさんは何度も首を傾げてる。
ダメだ、この人……本当に理解できないんだ……
ナーガさんの掌の球が小さくなって消えていく。
「サディアスはともかく、アルバートには魔力がない。あれだけ魔力がない人間もなかなかいない」
「ないって、ゼロなんですか?」
「うん。だからキミは魔力をリリアからしか受け継いでいない。キミは確かに魔法使いみたいだけど、アルバートの才能のなさが遺伝して足を引っ張る可能性もある」
お父さん、きっと攻撃力にステータス全振りしちゃったんだな。
でもそれを助けてくれるサディさんがいる。お互いを支え合える、これぞバディ!
「もういい? 帰る」
「あ、はい! あの、これから弟子としてお世話に――」
パチンと指を鳴らして、ナーガさんは姿を消してしまった。
あの人の弟子として、私上手くやっていけるんだろうか……
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