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第一章

第54話 決断

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 それから数日間、お父さんとサディさんは何度も話し合っていた。

 私の方は、ナーガさんに貸してもらったペンデュラムのおかげで妖精オバケは全く現れなかった。効果抜群。
 これをずっと貸してもらうことってできないのかな。そうしたら、このままここでお父さんと暮らせるのに。

 でも「しばらくは出てこない」って言ってたから、効果がずっと続くわけじゃないのかも。
 やっぱり私が魔法を使えるようになるしかないのかな。でもそれだと、お父さんたちと一緒にはいられない。


 1週間後、お父さんに「今日サディが来たら、大事な話がある」と言われた。
 お父さんとサディさんの間で、私の今後をどうするかが決まったらしい。

 そわそわしてる間に、サディさんがやってきた。
 テーブルを挟んで、お父さんとサディさんと改まって向かい合う。緊張と不安が増す。

「アリシア、お父さんたち何度も話し合ったんだけどな」
「お父さん、私オバケ出てきても平気だよ。だから、お父さんとサディさんと離れるのはイヤ」

 お父さんとサディさんと別れるくらいなら、妖精のオバケが見えてた方がマシだ。
 よく見ればかわいく思えてこないこともないし、慣れちゃえばきっと大丈夫、なはず。

「大丈夫だよ、アリシアちゃん。アルも僕も、アリシアちゃんから離れたりしないよ」

 サディさんが私を安心させるように言って、お父さんに視線を向ける。お父さんがゆっくりうなずいて、私に向き直った。

「アリシアが嫌でなければ、ナーガの弟子になりなさい。この街を出て、田舎で暮らすんだ」
「でも、そしたらお父さんたちと……」
「お父さんたちも、一緒に行く」

 え……?

 私がキョトンとしていると、お父さんとサディさんが微笑んだ。

「アリシアが魔法の勉強をできて、尚且つ一緒に居られる方法はないかと考えたんだ」
「田舎でなきゃ修行できないなら、僕らもアリシアちゃんと一緒に引っ越しちゃえばいいよね」

 弟子入りしてお父さんたちと離れるか、お父さんたちと一緒に居て妖精オバケをガマンするか。
 2択かと思ってたけど、お父さんたちが決めた答えはそのどちらでもなかった。

「で、でも、そしたらお父さんたちお仕事は?」
「騎士団は辞める」
「え!? 大丈夫なの!?」
「前々から考えてはいたんだ。今後も騎士団にいれば、今以上に忙しくなる。そうなれば、アリシアと一緒にいる時間がどんどん少なくなってしまう。そんなのお父さんには耐えられない!」

 前にそんなことを言ってたのを聞いた気がするけど、本気で私のために転職してくれるなんて。

「サディさんも騎士団辞めちゃうってことだよね? いいの?」
「僕だってアリシアちゃんの家族だからね。これからは、一緒に暮らしたいんだ」
「サディさんも一緒に暮らすの!?」
「アリシアちゃんが良ければ、だけど」
「もちろん!  すっっごく嬉しい!」
「ありがとう」

 サディさんがホッとしたように笑った。

 お父さんとサディさんが一緒に暮らすなんて、なにそれ夢のマイホーム!
 どこに反対する理由がありましょうか!

「僕は、何があってもアルについて行くって決めてたからね。元々、騎士団に入ったのだってアルが入団したからだし」
「俺たちは生涯のバディ……いや、パートナーだからな」

 お父さんとサディさんが照れたように笑い合った。腐女子大歓喜。

 ……でも、もう1つだけ気になることが。

「だけど、ここはお母さんとも暮らしたおうちだから、なくなっちゃうのは寂しい」

 引っ越したらこの屋敷は誰かに売ってしまうのか、はたまた取り壊してしまうのか。
 思い出の詰まったお母さんの部屋。短かったけど、親子3人で暮らしたこの家。なくなってしまうのは、悲しい。

「それなら心配ない。この家はそのまま残すからな」
「え?」
「マドレーヌたちにここの管理を頼んでおく。リリアの墓参りもあるから少なくとも年に1度は戻ってくるつもりだが、いつでも来たいときに来ればいい」

 別宅として残すってことか。
 管理費とかいろいろあるんだろうけど……お金の心配は何もないもんね。

「アル、マドレーヌさんたちにはちゃんと新しい仕事を紹介してあげなよ」
「当然だ。主人としての責任があるからな」

 この家を出ることに、何の問題もなくなった。
 それならもう、私の道はひとつ。

「私、ナーガさんのお弟子さんになる。それで、みんなで田舎にお引越しだね!」
「よし、決まりだ! すぐナーガに連絡するぞ」
「忙しくなりそうだね」

 新しい場所、新しい生活。
 ちょっと不安ではあるけど、ドキドキする。

 それにしても、どんな所に引っ越すんだろう……?

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