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第一章
第52話 弟子入り
しおりを挟む「はああああ!?」
お父さんの叫び声が部屋中に響き渡った。
「なんでアリシアをお前の弟子にしなきゃならないんだないんだ!」
「魔法使いとして生まれた者は魔法使いの弟子になるって、さっき言った」
「それは聞いたが、なんでお前の弟子になるんだ」
「ナーガ、弟子なんて取ったことあるの?」
「ない」
ないんかい!
と、心の中でツッコんだのはお父さんもサディさんも同じだろうな。
「そんなやつに大事な娘を預けられるわけないだろう!」
「弟子入りは普通、縁故がある魔法使いに頼む。他に魔法使いの知り合い、いるの?」
う……とお父さんの声が詰まる。
まあまあと、サディさんが間に入った。
「確かに不安ではあるけど、他に知り合いの魔法使いがいないのは事実だろ。リリアさんの親族には頼めないだろうし」
「それは、そうなんだが……」
お母さんは家出してお父さんたちのパーティーに入ったからか、お母さんの方の親戚とは付き合いが全然ないみたい。
それどころか、この国にはそもそも魔法使いが少ない。サディさんみたいに多少魔法を使える人ならいるけど、『魔法使い』と名乗ってる人は旅行で行ったサウザンリーフ以外で見たことなかった。みんな、妖精の存在も知らないくらいだもんな。
「リリアの血を引いた魔法使いなら、アリシアは白魔法使いになるはずだろう。お前のは黒魔法じゃないか」
「魔法は元々全部同じ。使う魔法によって、白とか黒とか勝手に呼び分けられてるだけ」
ナーガさんが淡々と答えて、またお父さんが言い返せなくなる。
「……弟子入りと言っても、具体的にはどうするんだ?」
「純粋な精霊たちのいる地で魔法を学ぶのが、伝統的なやり方」
「精霊ってのはどこにいるんだ?」
「自然が豊かな田舎。弟子入りしたら、田舎で暮らしながら修行することになる」
「暮らすって……お前とアリシアが?」
「うん」
またまた新情報に、もうお父さんが倒れそうだ。
ナーガさんと田舎暮らし……でもそしたら、ここには居られなくなるってことだよね。
「僕も物心ついたときには師匠と暮らしてた。魔法使いとして独立できるまで、早くて数年、長ければ十数年……」
「絶対にダメだ! アリシアと何年も離れるなんて考えられん!」
私が本当に魔法使いなら、弟子入りをしてちゃんと魔法を学びたい。……と思ってたけど、そういうことなら話が変わってくる。
いくら魔法のためとはいえ、お父さんとサディさんと離れ離れになるのは嫌だ。せっかくサディさんとも家族になれたのに、こんなところでバラバラになるなんて!
お父さんとサディさんを目の前で見ていられなくなるなんて!
「ナーガがこの近くに住んで、家庭教師みたいにアルの家に来てもらうってのはどう?」
「未熟な魔法使いが都会で暮らすのは向いてない。妖精たちに悪さをされ続けることになるけど、いいの?」
「いいわけないだろ!」
そろそろお父さんが暴れ出しそうだ。
お父さんたちと離れてナーガさんと田舎で修行をするか、このまま妖精のイタズラに耐えるか……二つに一つ。
普通に考えたら修行した方がいいんだろうけど、でも妖精のイタズラも慣れれば大丈夫……かもしれないし。
長い沈黙の後、お父さんが首を振った。
「……少し、考えさせてくれ」
「わかった」
話を切り上げて、おやつタイムになった。
おやつのクッキーはおいしかったけど、お父さんはずっと考え込んでて、ナーガさんも終始無言。
サディさんと私がなんとか和ませようとお喋りしたけど、空気は重かった。
とりあえず今日はお開きになった。
帰り際、徐にナーガさんが首から下げていた紫色のペンデュラムをはずす。
「これ、貸しておく」
「私に?」
「僕の持ち物を身につけておけば、しばらくは妖精たちも出てこないと思う」
ってことは、魔法使いのアミュレットみたいなものだね。
「ありがとう! ナーガさん!」
ナーガさんが何か言いたそうな視線を向けてくる。その視線が痛い。
「どうするか決まったら呼んで。街外れの宿屋にいるから」
「アルの家、いっぱい部屋あるんだから泊まらせてもらえばいいのに」
「こんなに人がいる家、落ち着かなくてしょうがない」
「ナーガは人が多いとこ苦手だもんねぇ」
帰ろうとするナーガさんを、お父さんが呼び止めた。
「今日は娘のためにありがとう。感謝する」
「……驚いた。アルバートが僕にお礼言ってる」
「親になるって言うのはこういうことなんだよ、ナーガ」
しみじみと言うサディさんに、お父さんはばつが悪そうに顔を背けた。
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