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第一章
第44話 入学初日
しおりを挟むお父さんに言われた通り、私は貴族学校に入学することになった。
入学初日、早く起きた私はマドレーヌさんに手伝ってもらって身支度を整える。
制服は紺色のジャケットに赤いタータンチェックのスカートで、上品だけどかわいいデザイン。
髪を梳かしてもらって、頭の左右に紺色のリボンを付ける。
日本みたいに入学式っていうのはなくて、7歳頃になったらみんな順次学校に通うらしい。
義務教育なんてものはないから家庭教師を雇う家もあるけど、子供の社交界の場として通わせてる貴族が多いらしい。
「らしい」ばっかりなのは、私の周りに貴族がいないから。
お父さんもサディさんも庶民の出だし、メイドさんたちだってみんなそう。貴族の学校に縁がある人なんていないから、聞きかじった情報しか集まらない。不安だ。
「おはよう、アリシア。身支度は済んだか?」
声と共にお父さんが入ってきた。
「おはよう、お父さん」
「おお、制服がよく似合うじゃないか。どこの伯爵令嬢、いや侯爵令嬢かと思ったぞ。アリシアはリリアに似て品がある。なあ、マドレーヌ」
「ええ。ですが、お嬢様は旦那様によく似ていらっしゃると思いますわ」
「そ、そうか? まあ、女の子は父親に似ると言うからなぁ」
お父さんが満更でもなさそうな顔をした。
確かに私はどっちかというとお父さんに似てる気がする。
ご機嫌だったお父さんが、ふと私の前に屈み込んだ。
「アリシア、あまり元気がないな。制服が気に入らないか?」
「ううん、制服はとってもかわいい。でも学校に行くの、初めてだから……」
日本の学校ですら上手いことやれていたとは言い難い自分が、異世界の貴族の学校なんて不安に決まってる。
しかも私は庶民だ。いじめられなきゃいいけど。
お父さんは私を安心させるように優しく笑った。
「最初はみんな不安だ。お父さんも騎士学校に入るときは不安だったが、入ってみればサディのような友人ができて楽しく過ごせたぞ。アリシアだって、すぐにお友達がたくさんできるだろう」
「そう、かな……?」
「もちろん。アリシアはサディともライラック号ともすぐに仲良くなれたじゃないか」
そりゃまあそうだけど、それとはまた話が違うと思うんですが。
でも、貴族の学校に通うなんて前世じゃ絶対にありえなかった。
空飛ぶ馬車に乗れたり魔法を使ったり、また何か楽しいことができるかもしれない。
半ば無理矢理テンションを上げながら、お父さんと朝食を食べた。
朝食が済んで屋敷の外に出ると、馬車が待っていた。
ライラック号とは違う黒い馬。ライラック号の馬車に御者はいなかったけど、今回は男の人が手綱を握ってる。
これが私の通学馬車らしい。
「アリシア、しっかり勉強してくるんだぞ」
「うん。お父さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お父さんが御者の人に「娘を頼む」と告げると、御者さんは帽子を胸に当てて一礼した。
馬車に乗り込んで外を見ると、お父さんが手を振っている。私が手振り返したと同時に、馬車がゆっくりと動き出した。
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