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第一章

第42話 大切な日

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 広間は、戴冠式でもやるのかってくらい華やかに飾り付けられていた。
 お父さんプロデュースっていうから心配してたけど、これはサディさんの協力もあったな。

 ズラリと並んだ食事の真ん中に置かれてるケーキは、コックさんたちが特別に作ってくれたもの。5段重ねのタワーみたい。これウェディングケーキなんじゃないの?

 私はお姫様が座るような豪華なイスに座らせてもらって、盛大な拍手に包まれる。
 集まってくれたメイドさんたちとコックさんたちも一緒に、この国のバースデーソングを歌ってくれた。
 日本の歌とは全然違うのに聞き馴染みがあるのは、毎年みんなが歌ってくれてたからだろうな。

 歌い終わると、コックさんが最上段のケーキを私の前に運んできてくれた。そこにキャンドルを7本立てて、火をつける。
 これはどこの世界でも同じなんだ。でも私、意外とやったことなかったかも。

「さあ、アリシア。一気に吹き消してごらん」

 お父さんに言われてふーっと吹くと、7本のろうそくの火が一気に消えた。
 何か偉業でも成し遂げたかのように、みんなが大拍手で称えてくれる。

「アリシア、7歳のお誕生日おめでとう」
「おめでとう、アリシアちゃん。すっかりお姉さんだね」

 そう口々に言われると、頬が緩みまくってしまう。
 中身20歳の自分にとっては、7歳の誕生日なんてそこまでのことじゃないと思ってたのに、胸がじんわりとした。

 切り分けられたケーキは、1段目が生クリーム、2段目がいちご、3段目がオレンジ、4段目がチョコ、5段目が抹茶になっていた。抹茶!

「抹茶ケーキは、サンリーブルのお茶の葉を使ったものなんだぞ。料亭の料理長にレシピを聞いて、うちのコックに作ってもらった」
「アリシアちゃん、サンリーブルの料理好きだったもんね。抹茶も口に合うんじゃないかな」
「すごーい! 抹茶のケーキ!」

 さっそく切り分けてもらった抹茶ケーキを食べると、口の中に懐かしい日本が広がる。緑色のスポンジの間には小豆が挟まっていた。
 まさかこの世界で和スイーツをいただけるなんて!
 私から何もリクエストしてなかったのに、お父さんもサディさんも私が喜ぶものをたくさん用意してくれた。
 なんかすごく、申し訳ないくらいに。

「お父さん、サディさん」
「どうした? ちょっと苦かったか?」
「ううん、すごくおいしい。でもこんなにいっぱい用意するの、大変じゃなかった? お父さんもサディさんも、ずっと忙しかったのに」

 2人が顔を見合わせて、それから笑った。

「アリシアちゃんのためなら、僕もアルも大変なことなんてなんにもないよ」
「アリシアにとって大切な日は、お父さんたちにとっても大切な日だからな。お父さんたちは、アリシアをいっぱいお祝いしたいんだ」

 当然のように言う2人に、感じていた引け目が消えていく。

「ありがとう! お父さん、サディさん」
「アリシアが喜んでくれたなら、頑張った甲斐があったな」
「ま、本当に頑張ってくれたのはコックさんとメイドさんと仕立て屋さんだけどね」
「皆に感謝だな」

 メイドさんもコックさんも、私のためにこんなに素敵なパーティーを開いてくれた。
 今度は私がケーキを切り分けて、1人ずつに「ありがとう」とお礼を伝えていく。そのたびに、私の方が嬉しくなっていった。

 全員に感謝を伝えて席に戻ると、お父さんとサディさんがなにやら……

「やっぱりうちのコックは世界一だな。いくらでも食べられる」
「アル、さっきからチョコばっかりじゃん。ホント、昔から気に入るとそればっかになるよね。抹茶も食べなよ、せっかく作ってもらったんだから」
「ああ、そうだな。取ってくる」
「俺のあげるよ。ほら」

 サディさんがお父さんにあーんしてる!
 しかもお父さん、それをなんの躊躇いもなく食べてるんですけど!
 なんて凝視してたら、お父さんと目が合ってしまった。

「お父さんとサディさん、仲良しだね」
「い、いやっ、今のはその……っ」
「そうだよ。僕ら仲良しだよね~」

 慌ててるお父さんの肩を抱いて、サディさんが顔を近づける。
 ちょっと待ってサディさん大胆!!

「ちょっ、アル、こんなとこで……っ」
「なに照れてんの。アリシアちゃんだって俺らのこと知ってるじゃん。隠すことじゃないだろ」
「メイドとコックもいるだろ!」
「あ、そっか。ごめんごめん」

 そう言ってサディさんは離れたけど、メイドさんたちはビックリしてるし、コックさんたちは見ないふりをしていた。

「お嬢様」

 なんとも言えない空気を変えるようにやって来たのは、マドレーヌさんだった。そういえば、さっきケーキを配ったときはいなかったんだよね。

「改めまして、本日は7歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、マドレーヌさん。ケーキすっごくおいしいから、マドレーヌさんも食べてね」
「ありがとうございます。その前に、こちら制服が届きましたのでさっそくお渡ししようかと」

 マドレーヌさんが持っていたのは、黒いカバーの掛けられた洋服。制服って……なんの?
 見上げると、お父さんがニコニコしていた。

「アリシアも7歳になったからな。そろそろ学校に通う時期だろう」

 学校!? 制服って、学校の制服なの!?

「貴族の子供たちが通う、国一番の学校に入学できるよう手配しておいた。アリシアには最高の環境で最高の教育を受けてもらいたいからな」
「貴族の学校? よく入学させてもらえたね」
「そこは勇者の特権をフル活用させてもらった。アリシアのため、使えるものは使う!」

 つまり、貴族でもないのに特例で貴族の学校に入学するってこと?
 それ、大丈夫なのかな……。

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