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第一章
第38話 約束
しおりを挟む次の日のお昼過ぎに、お父さんが帰ってきた。
お土産にサディさんが作った桃のガレットを持って。
「お父さん、おかえりなさい」
「アリシアあああぁぁ、1人で寂しくなかったか? お父さんは寂しくて眠れなかったぞ!」
帰ってくるなり、お父さんが私を抱きしめた。
お父さんが眠れなかったのは、違う理由なんじゃないですかね?
……とは聞けないから、子供の無邪気さで探りを入れる。
「寝る前にマドレーヌさんが絵本を読んでくれたから寂しくなかったよ。お父さんは、サディさんと一緒に寝なかったの?」
「寝っ!? そ、そんなわけないだろう! 何言ってるんだアリシアは。いくらバディとはいえそれはない」
顔を赤らめて大慌てですか。わかりやすいなぁ。
この調子だと、やっぱりお父さんは受けだと思う。公式と解釈違いしなくてよかった。
なんて話していたら、おやつの時間になった。
マドレーヌさんにお茶を用意してもらって、さっそく部屋でお父さんと桃のガレットを食べる。
甘いけど甘すぎない。さっぱりしてて、くちどけ抜群。
「おいし~い!」
「このガレットはお父さんも一緒に作ったんだぞ」
「お父さん、お料理できるの?」
「ああ。寮生活のときは、よくサディと食事当番をしてたからな」
寮生活!? 食事当番!? しかも2人仲良くお料理とか……!
なにそれ詳しく聞かせてください!
ガレットそっちのけで根掘り葉掘り聞いてたら、さすがにお父さんもちょっと引いているような。
「本当にアリシアはサディが好きだな」
「え? えへへ、そうかな~?」
マズい、腐女子が出過ぎた。反省反省。
お父さんが「そうだ」と話を変える。
「アリシア、何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの? どうして?」
「もうじき誕生日だろう。プレゼントに欲しいものがあれば買ってやるぞ」
誕生日! そうか、私7歳になるんだ。
思い出した記憶を辿れば、毎年誕生日には盛大なパーティーをしてもらっていた。
前世の頃には考えられないくらい華やかなパーティー。お屋敷のメイドさんたちに囲まれて、コックさんたちが作ってくれた豪華な料理やケーキを食べた。
でもそこに、お父さんの姿はない。
お父さんはプレゼントにおもちゃや洋服を山ほど買ってくれたけど、パーティーに参加してくれたことはなかった。
「プレゼントはモノじゃなくてもいい?」
「ああ、お父さんにできることならなんでもいいぞ」
「お誕生日の日、お父さんと一緒にいたい」
「えっ、それでいいのか?」
「いつもお誕生日の日にお父さんはいないでしょ? 一緒にケーキ食べたり、『おめでとう』って言ってもらいたいなぁって」
「アリシア……」
お父さんの瞳が潤んだ。
「ごめんな。いつも一緒にいてやれなくて」
「ううん、いいの。でも今年は一緒にいてくれる?」
「もちろん! アリシアの大切な日だからな」
「やったー! あとね、もう1つお願いがあるんだけど……」
「サディもパーティーに来てほしいんだろう?」
「どうしてわかったの!?」
「アリシアはサディが大好きだからな。後でお父さんから話しておこう」
お父さん! なんて話が早い!
というか、お父さんもサディさんと過ごしたいんでしょ? そうだよね!
「きっとプレゼントを持って来てくれるぞ。サディもアリシアが大好きだからな」
「わあい! 嬉しいな!」
手を叩いて喜ぶと、お父さんが私の頭を撫でた。優しく細められた、お父さんの瞳。
「今年の誕生日は必ず一緒にいる。約束だ」
「うん! 約束ね!」
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