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第一章
第32話 関係ない
しおりを挟む次の日、お父さんを迎えに訓練場に行った。
お父さん、サディさんと普通に振る舞えたかな。すぐ顔に出ちゃうから。
「アリシアちゃん、アルのお迎え?」
門の前で待っていると、先に出てきたのはサディさんだった。
「うん、お父さんはまだ?」
「もう来ると思うよ。ねえ、僕も一緒に帰っていい?」
「もちろんっ!」
と、タイミングよくお父さんがやって来た。
サディさんを見て、あからさまにギクッと顔を引きつらせる。
「っ、アリシア、迎えに来てくれたのか。ありがとう」
「ちょっと、俺のことは無視なわけ? 今日一緒に帰るけどいいよね」
「あ、ああ……」
ギクシャクし過ぎでしょ。
帰る最中も、お父さんはサディさんの話にそっけない返事ばかり。もちろん、サディさんがそれに気づかないはずはない。
「アル、今日おかしくない? ずっと俺のこと避けてたよね」
「へっ? そ、そんなことないぞ。今日は忙しかったからな。話してる暇がなかっただけだ」
「ふうん」
会話が途切れた。なんとも言えない沈黙が流れる。
こうなったら、無邪気で空気読まない幼女が頑張るしかないか。
「ねえ、サディさん! 昨日お見合いだったんでしょう? どうだった?」
「ちょっ、アリシア!?」
慌てるお父さんだったけど、本気で止めようとはしてない。お父さんだって気になってるんだもんね。
「うん、いい人だったよ」
サラリとした返事に、お父さんが息を飲んだ。でもすぐにサディさんが続ける。
「断られたけどね」
「えっ、ど、どうしてだ!? 良い感じだったのに……」
サディさんが怪訝な顔をした。
お父さん……こっそり見に行ったのバレるでしょ。
「向こうも父親のススメで断れなかったんだって。本当は付き合ってる恋人がいるらしいよ」
「な、なんだ。そうだったのか」
「だからお見合いっていうか、途中からずっと恋愛相談聞いてあげてた。お礼に角が立たないように向こうから断ってくれるってさ」
「ああ、それなら安心だな」
お父さんがあからさまにホッとして胸を撫で下ろす。
そんなお父さんを、サディさんがチラリと見上げた。
「そんなに俺がフラれて嬉しい?」
「い、いや、そんなわけないだろ。残念だったな。今日は飲むか? 付き合うぞ」
「遠慮しとく。明日も仕事だろ」
「ははっ、そうだな。まあ、あんまり気を落とすな。大丈夫、サディはモテるんだから良い人が見つかるさ」
お父さんがサディさんの背中をバシバシ叩いた。
でも、サディさんはお父さんの方を見ない。
「またすぐ騎士団長がお見合いの話を持ってくるだろうしね」
「ま、また見合いするのか!?」
「しちゃ悪い?」
「別に悪くはないが、そんなに焦る必要ないんじゃないか。まだ若いんだし、それにお前今まで結婚したいなんて1度も……」
「アルは、俺にどうしてほしいわけ?」
は……? と、お父さんが足を止める。
数歩先を歩いていたサディさんが、お父さんを振り返った。
「俺に結婚してほしいのか、してほしくないのか、どっちなわけ?」
「それは……俺に言う権利はないだろ」
「まあそうだね。アルには関係ないし」
関係ない。
古今東西、言われて傷つく言葉の筆頭だ。
もちろん、お父さんも目に見えて傷ついた顔をしてる。
サディさんがそれをわからないわけがない。ということは、敢えて言ったんだ。
「ちょっと用事あるから、僕はこっちの道から帰るよ。アリシアちゃん、またね」
「う、うん。バイバイ!」
呆然とするお父さんを置き去りに、サディさんは私に手を振って行ってしまった。
「関係ない……」
生気の抜けたお父さんの声が、風に流されていった。
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