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第一章

第23話 2人の夜

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「お父さん、サディさん。おやすみなさい」
「おやすみ、アリシア」
「おやすみ、いい夢見てね」

 夜、ほどよい時間に子供は退散した。
 私に用意された子供部屋は、お屋敷と同じような天蓋付きの大きなベッド。枕元にはテディベアとお人形。本棚には絵本がたくさん。
 こんな豪華な部屋、一体どんな子が泊まるの……私が泊まってるけど。

 寝たふりをしておいて、しばらくしたらお父さんたちの様子を見に行こう。
 旅行の夜なんて、絶対遅くまで飲んでるはずだもんね。普段は聞けない話が聞けちゃうかも。
 子供はそんなの聞いちゃいけないけど、私中身20歳だから。大人だから。

 なんて考えながら横になっていたら……いつの間にか、眠ってしまった。

 ハッと目が覚めたのは夜中。
 どれくらい寝てたのかわからない。お父さんたちまだ起きてるといいけど。
 ああ、せっかくのチャンスを寝落ちしたなんて最悪だよ。前世のアニメと違って、見逃し配信ないんだから。

 そっと部屋を抜け出して、廊下に出る。
 リビングに続くドアからは明かりが漏れていた。セーフ!

 慎重にドアを細く開ける。
 ソファに座ったお父さんとサディさんがお酒を飲んでいた。お父さんはもうずいぶん酔っぱらってるみたいだ。

「サディ~、ワインもういっぽん」
「飲み過ぎだよ。明日二日酔いしてたらアリシアちゃんに嫌われるよ?」
「イヤだ! アリシアに嫌われたら、俺は……俺は生きていけないいぃぃ~~」

 お父さん、泣き上戸? あんまり酒癖良いタイプじゃないんだね。
 サディさんは酔ってないみたいだけど、お酒強いのかな。それとも、そんなに飲んでない?
 サディさんがやれやれとお父さんを宥める。

「泣かないでよ、冗談だって。アリシアちゃんはアルのこと大好きだよ」
「お前は……?」
「え?」
「サディは俺のこと……好き?」

 ちょっとお父さん! 顔赤らめてなに聞いてるの! そんなトロンとした目しちゃって!
 酔っぱらってるからなんだろうけど、敢えて勘違いをすることが腐女子のモットーですからね。
 いやでも、まさかこんなやり取り見られるなんて目が覚めてよかった! ナイスタイミング私!

 何も答えないサディさんに、しびれを切らしたお父さんが……抱きついた!?

「なあ、サディ。俺のこと好き? 聞いてんだけど~」
「……アルは俺のこと、好きなの?」

 ちょッ!?
 なにそれ! 公式がそんなことしちゃダメだって!  腐女子の仕事がなくなる!
 売り言葉に買い言葉だろうけど、もうなにこれしんどい。
 さあ、お父さんはなんて答えてくれるんでしょうか!

 でもお父さんはサディさんに抱きついたまま、顔をうずめて何も言わない。

「アル?」

 サディさんがお父さんの顔を上げようと肩を押すと、お父さんはソファにひっくり返って……寝た。
 気持ちよさそうに寝息を立てて、完全に熟睡してる。

 ちょっと……めちゃくちゃ良いところだったのに、ここでお預けですか。
 でも、全腐女子の心は満たされました。私しかいないけど。

「アル? 寝ちゃったの? ったく、結局介抱するのは俺の仕事だよ」

 サディさんのことだから、お父さんに布団でも掛けてあげるのかな。いつもお世話になります。

 でも、サディさんは複雑そうな顔でじっとお父さんを見下ろしていた。
 それから、ゆっくりとお父さんに顔を近づける。サディさんの唇が、お父さんの口元に触れそうに……

「ばーか」

 そう呟くと、サディさんは部屋を出て行った。


 ……え?

 え……?

 えええええ!?

 待って待って! 今絶対キスしようとしてたよね!?
 私が腐女子だから? 腐女子フィルターが掛かってたからそういう風に見えただけ? 私の目が腐ってたから!?

 でも、お父さんも酔ってるからってあんなこと言う?
 いくら友達だからって、生涯のバディだからって、抱きついて「好き?」って聞く!?
 いやするかもしれない。酔うとキス魔になる人もいるらしいし……
 だけど、酔ったら本音が出るとも言われてる。
 お父さんもしかしたら……本当にサディさんのこと……

 いや待って、冷静になって私。
 サディさんはほとんど酔ってなかったじゃない。
 けど酔ってないなら、どうしてあんなことを?
 私の距離からでもお父さんは完全に寝てるとわかった。あんなに顔を近づけて寝たか確認する必要なんてない。

 それじゃもしかして……ホントのホントに……

 2人はBL……ってこと!?

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