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しおりを挟むルーカスが触れるようにシェルの唇に唇を重ねた。柔らかいその感触に、シェルは目を見開く。
「あ……」
「お前は俺と暮らすのは嫌だろうが、俺はお前を手放したくない。もう二度と」
ルーカスに似つかわしくない、不安げなその瞳に困惑する。
「ご主人様、どうして僕が逃げると思っているのですか?」
決まりが悪そうにルーカスが目を逸らした。そして、躊躇いつつも口を開く。
「俺はガキの頃から魔力が強くて、家族も腫れ物を触るようだった。親ですらそうだったから、周りからはバケモノ扱いだ。ただ1人だけ、まともに俺と接してくれたのが婆さんだった。バケモノみたいな孫を恐がりもせず、よく相手してくれたよ。昔から人間にも獣人にも優しい人だった。その婆さんが飼ってたんだ。白銀の毛並みをした、垂れ耳の犬の獣人を」
ルーカスの漆黒の瞳に、シェルの白銀が映り込む。
「そのお婆ちゃんが飼ってたの……!」
「お前だ、シェル」
薄れかけていた記憶が鮮明に思い起こされる。
老婦と暮らしていた家に、度々来ていた少年がいた。人懐こいシェルは少年に近づこうとしたが、いつも避けられてしまった。何度も声を掛けようとしたが拒絶され、嫌われているのだと悲しく思った。
それでも老婦が大切にしている少年と仲良くしたかった記憶が、奥底から蘇る。
「あの男の子が……ご主人様?」
「やっと思い出したか」
ルーカスが苦笑する。朧気に思い出した少年の面影が、目の前のルーカスと重なった。
「あの頃から、俺はお前のことを怖がらせてたな」
「怖がってなんていません。一緒に遊びたかったけどでも、嫌われているのかと思って……」
「俺が?」
「ずっと避けられていたから」
面食らった顔をして、ルーカスはガシガシと頭を掻きむしった。
「俺を怖がらない奴が婆さん以外にいるとは思わなかったんだ。だから、無闇に怖がらせないように近づかなかった」
「ご主人様、優しいのですね」
「そういうわけじゃない」
顔を背けたルーカスがなんだか可愛らしく見えて、シェルが小さく笑う。釣られたようにルーカスも口元を緩ませた。
「それで、あの……お婆ちゃんは……」
「……死んだよ、急に倒れて」
ああ、とシェルが俯く。そうではないかと思っていた。自分に何も言わず、急に何日も居なくなるなどそれまでなかったのだから。
「お前をどうするかって親戚中で散々揉めてな。最後は俺が面倒を見ると押し切って婆さんの家に行ったら、もうお前はいなかった。俺が来る前に逃げ出したんだと……」
「僕、お婆ちゃんを捜しに行ったんです。もしかしたら何かあって、帰れなくなってるんじゃないかと思って」
三日三晩捜しまわった。そして勝手に家を出て捕らえられたのは今も昔も同じだ。そしてどちらも、ルーカスに心配を掛けていた。
「ごめんなさい……」
垂れ耳が更に垂れてしまうと、包み込むようにルーカスに抱き寄せられる。
「無事で良かった」
耳の柔らかい部分にキスを落とされる。くすぐったくて、ルーカスの胸元にじゃれつくように顔を擦り寄せた。
「シェル……抱いていいか?」
「え……」
「優しくするから」
熱い吐息が耳元に流れた。まだ男のモノを受け入れるのは怖い。それでもルーカスのためなら、身体を委ねられる。
思い切り、抱きしめてほしい。
「……はい」
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