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しおりを挟むルーカスがマントを翻すと、トビーに攻撃が跳ね返った。
「がは……ッ」
吹き飛ばされたトビーが壁に叩きつけられた。
「魔力の差もわからず攻撃するような馬鹿か、てめえは。だからあんなお粗末な呪術しか使えねえんだろ」
「黙れ。僕の呪術は完璧だった。お前が邪魔しなければ」
「ああ?」
殺意の目を向けられ、トビーは蛇に睨まれた蛙のように固まった。チッとルーカスが吐き捨てる。
「にわか仕込みの呪術でガキがイキってんじゃねえよ。人を呪うなら、しっぺ返し喰らうことも覚悟してやるもんだ。呪術は人を殺すこともある。その覚悟があったのかよ、てめえは」
ゾッとするような声色に、シェルまで鳥肌が立った。
その言葉の裏に感じる深い闇。ルーカスは今までどれほどの恨みを買い、どれほどの覚悟を持ってきたのだろう。
「ぼ、僕はただ……僕を認めない奴らを懲らしめてやりたくて……」
震えるトビーをルーカスは無言で見据えた。そして、どす黒い魔力を纏った片手を振り上げる。
咄嗟にシェルはルーカスの裾にしがみついた。
「ご主人様、もうやめてください」
「お前、この馬鹿に情でも移ったか? 庇ってやる義理はないだろ」
「違います。でも、もう……ご主人様に、誰かを傷つけてほしくないから」
今にもトビーを殺しそうな殺気を放つルーカスを、どうしても止めたかった。
いくらトビーに非があるとはいえ、だからこそ、そんなことでルーカスの手を汚させたくはなかった。
必死の懇願に、ルーカスはため息をひとつ落とす。
「……わかった」
「ありがとうございま……ひやっ」
シェルの身体は、軽々とルーカスに抱き上げられてしまった。
「軽いな、大型犬のくせに。ちゃんと食ってんのか?」
「え……あの……」
耳に押し当てられた胸元から、ルーカスの心臓の音が聞こえる。ドギマギとした自分の音も聞こえてしまいそうだ。
「今日のところはシェルに免じて勘弁してやる。これに懲りたら二度と呪術なんざ使わないことだな」
歯を食いしばり、まだ何か言いたそうなトビーにルーカスが背を向けた。トビーの気配が僅かに動いた瞬間、「ただし」とルーカスの声が響く。
「もう一度俺に……シェルに近づいたら、そのときはお前を殺す」
それ以上、トビーが動くことはなかった。
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