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4-1.呪術師
しおりを挟む呪術師、という仕事はシェルも耳にしたことがあった。
ルーカスは、かけられた呪術を祓うことを専門としている。
そのような呪術師は希少で、ルーカスは多忙な日々を送っているとゼノは語った。
呪術にかけられた患者が病院に運ばれた際、ルーカスに助けられた縁で知り合ったという。
いつまた身体を求められるのかと気が気ではなかったシェルだったが、それも杞憂に終わる。
多忙であるルーカスは不在なことが多かった。1人暮らしにしては広すぎるであろう屋敷は、ルーカスの自室以外であれば自由に使って良いと言いつけられた。
シェルは1人キッチンに立ち、食事の支度をしていた。
けれど、ルーカスと共に食事ができたことはない。定期的に食材が届き、老婦と慎ましく暮らしていた頃にも考えられないほど贅沢な食事ができている。
しかし、豪華な食材があれどシェルには扱うことが難しく、それ以上に1人で食べるならあまり手を掛ける気にもならなかった。
正午も過ぎ、大理石のテーブルにトマトソースで煮込んだショートパスタを並べる。
ダイニングも他の部屋と同じように最低限の家具しか置かれず、ガランとしていた。
テーブルに着くと、玄関のチャイムが鳴った。
出なくていいと言われていたが、ドアスコープを覗きに行く。
立っていたのは、白衣を着たゼノだった。垂れていたシェルの尻尾がピンと上を向く。
尻尾をパタパタと揺らし、扉を開けた。
「ゼノ先生!」
「おはよう、シェル。往診の帰りでちょっと寄ってみたんだけれど」
「ご主人様は、今日も朝早くからお出掛けです」
「だろうね。上がっても平気かい?」
「はい! どうぞ」
ゼノの白衣と往診鞄を受け取って、シェルはダイニングへと戻る。
やってきたゼノがテーブルに視線を落とした。
「昼食の最中にお邪魔したね。僕のことは気にせず食べて。冷めてしまうよ」
「大丈夫です。先生は昼食まだですか? 良かったら、ご一緒にいかがですか?」
「いいのかい? 実は食べ損ねていてね。少し貰えるとありがたいな」
シェルは喜んでパスタを温め直し、戸棚のロールパンも2つトースターに入れる。
せっかくならばとサラダも用意し、テーブルに料理が並んだ。
「すみません、僕1人のつもりだったのでこれくらいしか」
「十分だよ。シェルは料理ができるんだね。一緒に暮らしていたお婆さんに習ったのかい?」
「ちゃんと習ったことはありませんが、見よう見まねで」
ゼノが食事を口に運ぶ度、シェルはその様子を伺っていた。
しばらくそうしていたが、ゼノが手を止めて苦笑する。
「大丈夫、おいしいよ」
「あ、ありがとうございます。僕、作ったの誰かに食べてもらうの初めてで」
「ルーカスも食べてないのかい? もったいない。こんなにおいしいのに」
ゼノの気遣いに触れ、久しぶりにシェルは味のある食事ができた。
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