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「あいつが裏で何をしているか知ってる。でもそれは、せざるを得ない事情があったからだ。そうさせない為にも、俺が」
「見上げた根性だな。自分のこともままならない奴が、下賤の民を救うつもりか」
兄上の言ってることは正論で、俺に言い返す権利はない。
けど、ノアのことは別だ。その蔑んだ目は俺を通して、ノアに向けられている。
なんとか腹の奥に抑え込んでいた感情が、ふつふつと煮えたぎってくる。
「兄上、俺のことはいいけどノアのことを下賤だとか、旅芸人風情なんて言うのはやめてください。あいつの歌を聞いたこともないのに」
兄上の眉尻がぴくりと吊り上がった。
「貴族としての義務と言うのは、社会の模範となり、社会的に弱いものを助けることなんじゃないのか。そんな風に職業で人を差別して、それが兄上の言う貴族としての義務なのか。騎士団に入って訓練をして、後はふんぞり返って弱い人たちを見下すのが貴族だって言うのかよ」
「フレデリック!」
飛んできた拳を、歯を食いしばって両手で受け止めた。手のひらがジンと痛む。
まさか止められるとは思わなかったのか、兄上が息を飲んだ。
「俺はどうせ爵位もない。成人したんだから俺はもう平民だ。ここを出て行く」
掴んだ拳を押し返し、兄上に一礼した。そして、蹴破るように扉を開けた。
見張りの執事たちが狼狽えていたが「勝手にさせろ!」と怒号が飛ばされる。
勘当覚悟。帰って来いと言われても、こっちから願い下げだ。
屋敷を出て、ノアの暮らす宿に乗り込んだ。
豪勢なホテルではないが、雨漏りも隙間風もない、ベッドが軋むこともない。
宿の主人からノアがまだ滞在していると聞き、階段を上がって行く。
階段の中ほどで、爪弾く優しい音色が聞こえた。
張り詰めていた精神が、一瞬和らいだ。途端に泣きそうになる。
なんだこの涙は。今更兄上に反抗したことへの反動か。女々しく泣いてる場合じゃないだろ。
「ノア!」
「見上げた根性だな。自分のこともままならない奴が、下賤の民を救うつもりか」
兄上の言ってることは正論で、俺に言い返す権利はない。
けど、ノアのことは別だ。その蔑んだ目は俺を通して、ノアに向けられている。
なんとか腹の奥に抑え込んでいた感情が、ふつふつと煮えたぎってくる。
「兄上、俺のことはいいけどノアのことを下賤だとか、旅芸人風情なんて言うのはやめてください。あいつの歌を聞いたこともないのに」
兄上の眉尻がぴくりと吊り上がった。
「貴族としての義務と言うのは、社会の模範となり、社会的に弱いものを助けることなんじゃないのか。そんな風に職業で人を差別して、それが兄上の言う貴族としての義務なのか。騎士団に入って訓練をして、後はふんぞり返って弱い人たちを見下すのが貴族だって言うのかよ」
「フレデリック!」
飛んできた拳を、歯を食いしばって両手で受け止めた。手のひらがジンと痛む。
まさか止められるとは思わなかったのか、兄上が息を飲んだ。
「俺はどうせ爵位もない。成人したんだから俺はもう平民だ。ここを出て行く」
掴んだ拳を押し返し、兄上に一礼した。そして、蹴破るように扉を開けた。
見張りの執事たちが狼狽えていたが「勝手にさせろ!」と怒号が飛ばされる。
勘当覚悟。帰って来いと言われても、こっちから願い下げだ。
屋敷を出て、ノアの暮らす宿に乗り込んだ。
豪勢なホテルではないが、雨漏りも隙間風もない、ベッドが軋むこともない。
宿の主人からノアがまだ滞在していると聞き、階段を上がって行く。
階段の中ほどで、爪弾く優しい音色が聞こえた。
張り詰めていた精神が、一瞬和らいだ。途端に泣きそうになる。
なんだこの涙は。今更兄上に反抗したことへの反動か。女々しく泣いてる場合じゃないだろ。
「ノア!」
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