53 / 65
20-3
しおりを挟む
「兄上、俺の話を聞いてください」
眉一つ動かさず、羽ペンを書類に走らせている。
また無視だ。しかし、出て行けと言われないのだから話してもいいんだろう。
「この前は、勝手なことをして悪かったと思ってる。でも俺が引きこもりを脱却し、こうして変われたのはあの吟遊詩人の……ノアのお陰なんだ。俺は彼に出会って励まされ応援したくて、その気持ちで立ち直れた。何もしていないのに家の金だけ使ってパトロン気取りなんて、恥ずべきことには変わりない。けど、貴族の遊びじゃなくて本気であいつを支援したい。だから……」
「ならば、騎士団に入れ」
ようやく答えた兄上は、ペンを置いて俺を見た。
「部屋から出て見た目を整えれば立ち直ったと言えるのか。お前の性根は叩き直してやる必要がある。屋敷にいてはリュシアンやノーマンたちがお前を甘やかすからな。騎士団に入って、今度こそ騎士の称号を胸に帰ってくることができれば好きにしろ」
「でも俺は」
「遊び歩く元気はあるというのに、貴族の訓練程度もできないというのか?」
貴族の子息は成人までの数年間、修行として王国騎士団に入ることになっている。
とはいえ、一般からの騎士志望とは違い貴族は嗜み程度の訓練しか課せられない。それでも俺は半年も持たず、団長に匙を投げられた。
家に戻った俺は兄上に殴られ、屋敷から追い出された。最終的に、兄さんが間に入ってくれたお蔭でなんとかなったが。
あの日々にまた戻るなんて絶対に嫌だ。でも承諾すれば、この外出禁止は解かれるかもしれない。
最後に一度だけ、ノアに会える。その為だったら、なんだってできる。
「わかりました。騎士団には入団するから、それまでの間は外出を許可してほしい」
絞り出した言葉に、兄上が鼻で笑う。
「あれほど嫌がっていたのに、あの旅芸人風情に会うためならば何でもするということか。そこまで入れ上げているとは、ここまで世間知らずにしてしまったのは私にも責任があるな」
兄上が立ち上がって、俺の前にやって来る。迫りくる兄上の陰に飲み込まれ、背中がゾクリと震えた。
「旅芸人が本当に芸だけをやっていると思っているのか。ああいう下賤の者は裏で……」
「知ってる! そんなこと」
俺の答えに兄上が僅かに目を見開く。
眉一つ動かさず、羽ペンを書類に走らせている。
また無視だ。しかし、出て行けと言われないのだから話してもいいんだろう。
「この前は、勝手なことをして悪かったと思ってる。でも俺が引きこもりを脱却し、こうして変われたのはあの吟遊詩人の……ノアのお陰なんだ。俺は彼に出会って励まされ応援したくて、その気持ちで立ち直れた。何もしていないのに家の金だけ使ってパトロン気取りなんて、恥ずべきことには変わりない。けど、貴族の遊びじゃなくて本気であいつを支援したい。だから……」
「ならば、騎士団に入れ」
ようやく答えた兄上は、ペンを置いて俺を見た。
「部屋から出て見た目を整えれば立ち直ったと言えるのか。お前の性根は叩き直してやる必要がある。屋敷にいてはリュシアンやノーマンたちがお前を甘やかすからな。騎士団に入って、今度こそ騎士の称号を胸に帰ってくることができれば好きにしろ」
「でも俺は」
「遊び歩く元気はあるというのに、貴族の訓練程度もできないというのか?」
貴族の子息は成人までの数年間、修行として王国騎士団に入ることになっている。
とはいえ、一般からの騎士志望とは違い貴族は嗜み程度の訓練しか課せられない。それでも俺は半年も持たず、団長に匙を投げられた。
家に戻った俺は兄上に殴られ、屋敷から追い出された。最終的に、兄さんが間に入ってくれたお蔭でなんとかなったが。
あの日々にまた戻るなんて絶対に嫌だ。でも承諾すれば、この外出禁止は解かれるかもしれない。
最後に一度だけ、ノアに会える。その為だったら、なんだってできる。
「わかりました。騎士団には入団するから、それまでの間は外出を許可してほしい」
絞り出した言葉に、兄上が鼻で笑う。
「あれほど嫌がっていたのに、あの旅芸人風情に会うためならば何でもするということか。そこまで入れ上げているとは、ここまで世間知らずにしてしまったのは私にも責任があるな」
兄上が立ち上がって、俺の前にやって来る。迫りくる兄上の陰に飲み込まれ、背中がゾクリと震えた。
「旅芸人が本当に芸だけをやっていると思っているのか。ああいう下賤の者は裏で……」
「知ってる! そんなこと」
俺の答えに兄上が僅かに目を見開く。
3
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる