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20-1.別れ

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 その日から、アレク兄上に外出禁止を命じられた。

 俺の部屋の周りには四六時中見張りが付き、誰も兄上の命令には逆らえない。
 そもそも見逃してもらったら、怒られるのは使用人たちだ。大人しくしているほかない。

 机に置いたままだった、ノアに貰った誕生日プレゼントが目に留まる。その紺色の箱を開けると、白い台座に宝物のようにペンが埋め込まれていた。

 そっと手に取ると、どうやらガラスのようだ。捻じれたガラスのペンの中に、紫のインクが模様のように線を描いている。

 俺の様子を見に来たリュシアン兄さんに聞くと、これは魔法使いのガラス職人が作ったものらしい。

「そのインクには魔力が込められていて、永久的に使えるそうだよ。都の方で、贈り物として流行っているようだね」

 インクが内蔵しているペンがほしいと思っていたが、既にあったなんて。しかも永久的とは、魔法があるこの世界にしか存在しないだろう。
 
 インクをぶちまけた俺のぼやきを、ノアは覚えていたのか。
 ガラスペンを掲げると、シャンデリアの明かりに照らされて宝石のようにキラキラと光が散らばった。

 それをぼんやりと眺めている姿に、兄さんが慰めずにはいられなくなったようだ。

「フレディ、私からももう1度兄上に話をしてみる。きっとわかってくれるよ。君にとって、どれだけノアくんがかけがえのない存在か。だからもう少し辛抱してくれるかい」
「うん……」

 キレイな言い方をしてくれたが、結局は推しと太客だ。兄上が理解してくれるとは思えない。
 それに、兄さんだって暇じゃないはずだ。俺のことばかりに構ってはいられないだろう。

 ガラスペンを台座にはめ込むと、台座と箱の隙間に紙が挟まっているのに気づいた。
 抜き取ってみると『お誕生日おめでとうございます』の文字が。ノアからのバースデーカードだ。

『フレディとの思い出になればと思い選びました。お気に召していただければ幸いです』

 思わず顔がほころぶ。これを買いに1人で都まで出向いたのだろうか。
 ガラスペンが並ぶショーケースの前で、俺を思い浮かべながら選んでくれたのだと思うとニヤけてくる。
 
 一瞬思い悩んでいたことを忘れかけたが、その後に続く文章に嫌な予感がよぎる。

『フレディとの日々を、けして忘れることはないでしょう。いつの日かまた、夢で逢えることを願って』

 まるで別れの手紙じゃないか。
 もしかして、近いうちにこの街を出るつもりじゃ。

 俺が会いに行くまで待っていてくれるのか……いや、そんな義理はない。ノアはこの手紙で終わりにしたつもりなのかもしれない。

 でももう1度、もう1度だけでいいからノアに会いたい。
 あいつの顔を見て、声を聞きたい。

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