異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

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 ノアが俺を見て小さく笑う。

「本当にフレディはピュアですね。こんな話、あなたに貢がせるための嘘だとは思いませんか?」
「あ……いや、まあ、その可能性もなくはないだろうが……でも、俺はノアを信じる」

 信じたい。
 本当の話なら、俺を信用して打ち明けてくれたんだから。
 もし嘘だったとしても、俺がパトロンであり続けることに変わりはない。
 
「そうですか」

 感情の読み取れない返事をして、ノアは椅子に沈み込んだ。

「まあどちらにしろ、貯金は続けます。ずっとあなたに頼るわけにもいきませんしね」
「なに言ってるんだ。俺はノアのパトロンだろ。ずっと頼ってくれて構わない」
「お気持ちは嬉しいですが、僕は旅をしていますからね。この街を出ても、フレディについて来てもらうわけには行きませんので」

 言われるまで気づかなかった自分がアホすぎる。
 
 吟遊詩人がずっとこの街にいるわけはない。
 ノアが旅立ったらもう、会えなくなる。

「でも、先程のフレディには感動しましたよ。自分の身を挺して、僕を守ってくれたんですね」
「そんなかっこいいもんじゃないけど。でもこれで、あいつとは完全に切れたんだよな……」

 俺のせいで、ノアは今まで金を出していた太客を全員切ってしまった。
 あの男だって、もしかしたら俺よりもずっと金を出していたのかもしれない。身体目当てだとしても、ノアにとって必要なのは金だ。

 あいつとしても、突然穀潰しの貴族に邪魔されたんだ。怒るのも無理はない。
 俺が偉そうなことを言う権利なんて、なかったはずだ。

「お気になさらず。彼は切るのが惜しいような太客ではありませんでしたから」
「え!? でも、かなり貢いでるようなこと言ってたぞ」
「たまに銅貨を1枚払ってくれる程度でしたよ。それでいて、演奏後に出待ちして僕と長々と喋りたがるんです。古参ぶって初見の客に高圧的な態度を取っていたり、営業妨害だったんですよね」

 あの口振りだとノアのトップオタクか何かと思ったのに、勘違い繊維客だと!?
 払った金以上のサービスを受けようとするのはマナー違反だ。無課金だったら尚のこと。

 とはいえ、ノアはあいつに枕営業しようとしていたはず。

「あの夜はあまりにもしつこいので誘いに乗りましたが、酔い潰して逃げようと思っていたんです。正直、あなたに連れ去られて助かった」
「はあ!? じゃあ、あのとき俺に怒ったのはなんだったんだよ!」
「あなたが僕に説教してきたので、イラっとしたんです。僕、貴族は嫌いなんで」

 父親のことがあるからだろうか。そう言われると言い返せない。
 
 でも……と、ノアが腕を伸ばしてきた。
 手を引っ込める前に、包み込むように触れられる。

「フレディは別です。あなたのことは好きですよ」
「……嘘つけ」
「嘘じゃないのに」

 ノアが俺に好意を持ってくれていることは嘘じゃないだろう。
 でもそれは俺が金を出してるパトロンだからだ。それ以上の理由はない。

 けど、俺だけに向けられた笑顔で、俺だけに「好き」と言ってくれたことは事実。
 頬の緩みを隠すように、ワインをあおった。

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