異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

文字の大きさ
上 下
26 / 65

12-1.約束

しおりを挟む

 その後、ノアを定住してる宿まで送り届けて帰ったら、また遅くなってしまった。

 昼過ぎまで寝ていると、フンフンと調子の良い鼻歌が聞こえてくる。
 そしてすぐ、部屋の扉がノックされた。

「フレデリック様、お水をお持ちしました」

 アーニーの声だ。返事をすると、水差しとコップを手に入って来た。
 ぼんやりとベッドに寝転んでいた億劫な身体を起き上がらせる。

 水を差したコップを手渡され、喉を潤す。

「ありがとう」
「昨夜も遅いお帰りのようでしたね。ノーマンさんが心配しておられました」

 もう心配される歳でもないが、朝帰りから引きこもりに戻ったと思いきや、また夜遊びして帰った俺に困惑してるんだろう。
 俺だって戸惑ってる。

 が、逆にアーニーは1人ほくそ笑んでいた。

「なに笑ってるんだ?」
「すみません。フレデリック様、最近お帰りが遅いのは……素敵な人と会っていらっしゃるのでは?」

 素敵な人……素敵……恋人? 恋人と密会してると思われてる!?
 はあ、と脱力する。

「素敵な人ではあるけど、アーニーが想像してるような関係じゃないぞ」
「片思い、ということですか?」
「恋愛してるわけじゃ……」

 いや、もしかしたら恋だったのかもしれない。

 ただのファンとして、熱を上げていられたなら片思いと同じようなものだった。
 けど今は違う。本人と接触し、裏の顔を見て、あろうことか偉そうに口出しまでしてしまった。

 その上「国一番の吟遊詩人にしてやる」なんて……
 酒も飲んでいないのに酔っていたんだろうか。その場の勢いとしか言いようがない。

 そもそも、昨日は納得してくれたがノアは俺の話を信じてくれたんだろうか。
 最近通い始めた、ただの客のことを。他の太客を蹴ってまで?

 俺が貴族だから、伯爵パワーでどうにかなると思ってる可能性もあるが。

「アーニー、例えばだけど」
「はい?」
「その場のノリで告白して、やっぱりあれは勢いだったと言う男がいたらどう思う?」

 途端、アーニーが眉を大きく釣り上げた。

「最低最悪です! 相手の心を弄んで、地獄に落ちますよ!」
「…………」

 断言されてしまった。
 黙り込む俺に、アーニーが疑わしそうな目を向ける。

「もしかしてフレデリック様、酔った勢いでどなたかに告白したのですか? そしてそれを反故にしようと……」
「違う違う! ちょ、ちょっと俺出掛けてくるから!」

 首を傾げるアーニーを振り切って、外に飛び出した。
 どちらにしろ、今日ノアの宿に行くことになっている。

 まずはノアがどう思ってるのかだ。
「本気にしてたんですか?」とバカにされるならそれでもいい。でももし、ノアも本気だったら……
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...