23 / 65
11-1.パトロン
しおりを挟む
その日の夜、俺は街に出た。
兄さんと話して思い知った。やっぱり、ノアのことを忘れられない。
俺はノアの歌声に惚れ込んだんだ。裏で何をしていようが関係ない。
普通の客として応援して、ファンとしての一線を超えなければいいだけだ。
今日どこで演奏するか聞いていなかったが、どこかの酒場にはいるだろう。
そう思って酒場に向かおうとしたものの、どうにも足が進まない。
少し進んでは引き返し、また進んではわき道に逸れる。遠くから酒場を覗き、ノアが見えないとホッとする。
そんなことをしながら、ウロウロと夜の街を歩き回っていた。
ある一軒の酒場の前で、声が外にまで聞こえてくる。もしかしたら、ノアが来ているのかもしれない。
そう思った瞬間、逃げるように踵を返した。心臓が鷲掴みにされたように苦しい。
……今日はダメだ。帰ろう。
どんな顔してあいつに会えばいいのか、どうしてもわからない。
人通りの少ない路地を選んで歩いた。
「吟遊詩人が来てるらしいぞ!」「いやあ、今日もキレイだったな」
なんて客の声すら聞きたくなかった。
明日また来よう。あさってでもいい。そのうち、きっと……
「――っ!」
寂れた宿屋の前に、2人の人影が見えた。
太った男に腕を絡ませているのは、長い銀髪。
考えるよりも、動く方が早かった。
咄嗟にノアの腕を掴み、強引に引っ張り走り去る。
「おい!」と太い声が聞こえてきたが、構わず走り続けた。
掴んだ腕は振り解かれることもなく、俺の後に足音が続く。
なにしてるんだ、俺!
しばらく走ったところで、身体が限界を迎えた。
男が追って来ていないことを確認して、建物の陰に身を隠す。
火事場の馬鹿力で走れたのか、ホッとした途端に息が切れる。ぜえぜえと肩で息をした。
「大丈夫ですか?」
顔を上げると、ノアがブロンズの筒を差し出していた。
「水です。よろしければ」
いらない、と意地を張っていられる状況ではなかった。
受け取った水筒の水を一気に煽る。冷たい水に、火照りきった胃が冷やされる。
ひと息ついて、濡れた唇をぬぐった。
「ありがとう……あと、なんか、ごめん」
「いえいえ、なかなかおもしろい経験をさせていただきましたよ。まじめな方だと思っていたのに、意外と大胆なんですね。フレディ」
水筒を腰に下げたノアは、なぜか楽しげだった。
兄さんと話して思い知った。やっぱり、ノアのことを忘れられない。
俺はノアの歌声に惚れ込んだんだ。裏で何をしていようが関係ない。
普通の客として応援して、ファンとしての一線を超えなければいいだけだ。
今日どこで演奏するか聞いていなかったが、どこかの酒場にはいるだろう。
そう思って酒場に向かおうとしたものの、どうにも足が進まない。
少し進んでは引き返し、また進んではわき道に逸れる。遠くから酒場を覗き、ノアが見えないとホッとする。
そんなことをしながら、ウロウロと夜の街を歩き回っていた。
ある一軒の酒場の前で、声が外にまで聞こえてくる。もしかしたら、ノアが来ているのかもしれない。
そう思った瞬間、逃げるように踵を返した。心臓が鷲掴みにされたように苦しい。
……今日はダメだ。帰ろう。
どんな顔してあいつに会えばいいのか、どうしてもわからない。
人通りの少ない路地を選んで歩いた。
「吟遊詩人が来てるらしいぞ!」「いやあ、今日もキレイだったな」
なんて客の声すら聞きたくなかった。
明日また来よう。あさってでもいい。そのうち、きっと……
「――っ!」
寂れた宿屋の前に、2人の人影が見えた。
太った男に腕を絡ませているのは、長い銀髪。
考えるよりも、動く方が早かった。
咄嗟にノアの腕を掴み、強引に引っ張り走り去る。
「おい!」と太い声が聞こえてきたが、構わず走り続けた。
掴んだ腕は振り解かれることもなく、俺の後に足音が続く。
なにしてるんだ、俺!
しばらく走ったところで、身体が限界を迎えた。
男が追って来ていないことを確認して、建物の陰に身を隠す。
火事場の馬鹿力で走れたのか、ホッとした途端に息が切れる。ぜえぜえと肩で息をした。
「大丈夫ですか?」
顔を上げると、ノアがブロンズの筒を差し出していた。
「水です。よろしければ」
いらない、と意地を張っていられる状況ではなかった。
受け取った水筒の水を一気に煽る。冷たい水に、火照りきった胃が冷やされる。
ひと息ついて、濡れた唇をぬぐった。
「ありがとう……あと、なんか、ごめん」
「いえいえ、なかなかおもしろい経験をさせていただきましたよ。まじめな方だと思っていたのに、意外と大胆なんですね。フレディ」
水筒を腰に下げたノアは、なぜか楽しげだった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)
exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】
転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。
表紙は1233様からいただきました。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる