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しおりを挟む家を追い出されることもなく、連れて行かれたのは屋敷の食堂だった。
どうやら本当に昼食を食べるらしい。
だだっ広い部屋に、クロスの掛けられた長い机が置かれている。
その端と端にでも座りたかったのだが、上座側に向かい合わせに座らされた。
食事は使用人たちと一緒に食べないから、わざわざ食堂を使うのも面倒だと相変わらず部屋で食べていた。
この部屋で食べるのも一体何年振り、そして兄さんと食事をするのも……
既に食欲がない。何も喉を通る気がしなかった。
パン、サラダ、スープ、オードブルの魚。
コース料理のようなメニューが一気にテーブルに並べられた。
兄さんが上品に微笑む。
「フレディは順番に配膳されるのが苦手だっただろう? こうして並んだ料理を見ると、昔を思い出すね」
食べてる最中に次の料理が運ばれて、食べたらその都度皿を下げられるのが苦手だった。
早く食べろと急かされて、絶対残すなと言われているようで、落ち着いて食べていられない。
アレク兄上には許されなかったが、リュシアン兄さんと2人だけのときは最初から全部の料理を並べてくれた。
そんなこと、まだ覚えていたのか。
兄さんが優雅な仕草でナイフとフォークを手に取る。俺も慌てて形だけ真似る。
食欲はなかったが、白身魚を適当に口に運んだ。
「……旨い」
魚が口の中でホロっと崩れた。ソースがまた堪らなく俺の好みだ。
失せていた食欲が復活して、箸が……いやフォークが進む。
気づくと兄さんが手を止めて、子供を見つめるような優しい笑みを浮かべていた。
「昔から、フレディは肉より魚が好みだったね。口に合ったようで良かったよ」
「……なんか、ありがとう。いろいろと」
俺好みの配膳に俺好みの食事。
全部兄さんが決めてくれたんだろう。
俺が礼を言うと、兄さんは意外そうな顔をした。少しだけ目が潤んでるようにも見える。
ノーマンといい、大の大人を泣かせてしまうほど、今までの俺は酷かったのか。
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