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5-1.太客への道
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すっかり身綺麗になった俺は、改めてノアの歌を聞きに街へ出た。
この前と同じ酒場に行ったが、今日は来ていないようだ。
暇そうにしている酒場の店員を捕まえる。
「今日はあの吟遊詩人は来ないのか?」
「あの人は気まぐれですからねぇ。突然ふらっと現れるんですよ」
神出鬼没ってやつか。吟遊詩人のイメージ通りだ。
だが、こういうときネットもない世界というのは厄介だ。
前の世界ならすぐにSNSで出没情報が出まわるだろうが、こっちではそういうわけにもいかない。
他の店を当たってみよう。
と、振り返った瞬間――
酒場の入り口に、目を惹く銀髪の青年が立っていた。ノアだ!
この前投げ銭入れに使っていた茶色いケースを持っている。
ノアに気づいた客たちが、我先にと酒場の前の方へ移動し始めた。
こうしちゃいられない。俺もいい場所を取らないと。
酔っぱらいの親父たちとの攻防の末、俺は最前列上手側をキープした。上出来だ。
ほどなくして、ケースを抱えたノアが俺たちの前に登場する。
「よっ!」「待ってました!」という掛け声に、ノアは天使のような微笑みを返す。
足元にケースを置き、中から竪琴を取り出した。
たったそれだけでも、ひとつひとつの動作が美しく見惚れてしまう。
軽く一礼すると、銀色の髪が揺れた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。ぜひ最後までお楽しみください」
ワッと拍手が沸き、観客が身を乗り出す。
ノアが腰かけたのはただの木箱だったが、まるで上等な椅子のように思えた。
膝の上に三日月の竪琴を乗せ、胸で支える。
弦を指で弾き、流れるようにメロディーを奏でた。
この前と同じ酒場に行ったが、今日は来ていないようだ。
暇そうにしている酒場の店員を捕まえる。
「今日はあの吟遊詩人は来ないのか?」
「あの人は気まぐれですからねぇ。突然ふらっと現れるんですよ」
神出鬼没ってやつか。吟遊詩人のイメージ通りだ。
だが、こういうときネットもない世界というのは厄介だ。
前の世界ならすぐにSNSで出没情報が出まわるだろうが、こっちではそういうわけにもいかない。
他の店を当たってみよう。
と、振り返った瞬間――
酒場の入り口に、目を惹く銀髪の青年が立っていた。ノアだ!
この前投げ銭入れに使っていた茶色いケースを持っている。
ノアに気づいた客たちが、我先にと酒場の前の方へ移動し始めた。
こうしちゃいられない。俺もいい場所を取らないと。
酔っぱらいの親父たちとの攻防の末、俺は最前列上手側をキープした。上出来だ。
ほどなくして、ケースを抱えたノアが俺たちの前に登場する。
「よっ!」「待ってました!」という掛け声に、ノアは天使のような微笑みを返す。
足元にケースを置き、中から竪琴を取り出した。
たったそれだけでも、ひとつひとつの動作が美しく見惚れてしまう。
軽く一礼すると、銀色の髪が揺れた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。ぜひ最後までお楽しみください」
ワッと拍手が沸き、観客が身を乗り出す。
ノアが腰かけたのはただの木箱だったが、まるで上等な椅子のように思えた。
膝の上に三日月の竪琴を乗せ、胸で支える。
弦を指で弾き、流れるようにメロディーを奏でた。
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