異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

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4-1.生きる希望

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「ノア……」

 屋敷に戻ってからも彼の姿が、声が頭を離れなかった。

 この世の者とは思えない、幻想的な姿と声。
 紫月ノエルにそっくりだ。でも喋り方は、ノアの方が上品だったな。

 ホームレスのような俺を見ても嫌な顔ひとつしなかった。
 それどころか、あんな優しい笑みを俺に向けてくれた。
 あの魅惑の声で「フレデリックさん」なんて名前を呼んでくれた。

 俺、フレデリック・ヴァン・ロストラータ。
 転生後にも推しを見つけました!

 また会いに行こう。
「また来てくださいね」って言ってくれたもんな。
 
 だが、推しに会いに行くというのにこんな格好ではダメだ。

「おーい! アーニー! ちょっと来てくれ!」

 部屋の扉を開けて、大声で叫んだ。
 飛んできたアーニーが目を丸くしている。

「フレデリック様、いかがいたしましたか?」
「すぐに散髪屋を呼んでくれ」
「散髪屋……髪を、切られるのですか?」
「そうだ。髭も剃ってもらいたい。大至急。ああその前に、風呂にも入らないと」
「か、かしこまりました」

 風呂に入ると、自分でも引くほどお湯が汚れた。
 髪も身体も念入りに石鹸で洗うと、薔薇の香りに包まれる。
 
 身綺麗になっていくにほどに、酷い格好でノアの前に出てしまったことが恥ずかしくて仕方ない。

 でもそんな酷い身なりで酷い臭いを漂わせていた俺に、ノアは笑顔を向けてくれた。
 見た目だけじゃなく、中身まで天使なのか。
 
 その日のうちに散髪屋が屋敷に到着した。
 髪をさっぱりと短くして髭を剃った俺を見て、アーニーが目を輝かせる。

「見違えました、フレデリック様! とっても素敵です!」
「そ、そうか……?」

 そう思って鏡を見たが、映っているのは黒っぽい藍色の猫っ毛、丸くも切れ長でもない平凡な暗い瞳。
 見目麗しい兄2人とはまったく違う、どこにでもいる平々凡々を絵に描いたような男だ。
 元が酷かっただけで、けしてイケメンになれたわけではない。
 
 しかし、大事なのは顔の造形じゃない。清潔感だ。

 見た目だけではダメだ。この汚部屋にいたら、いくら風呂に入ってもすぐに臭くなってしまう。
 部屋を掃除しよう。
 
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