わがまま令息のお仕置きな日々

水都(みなと)

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 ライナスの怒声に、ルシアーノはビクリと身体を震わせた。

 ルーシャという呼び名は、兄たちからしか呼ばれたことがない。子ども扱いされるときの呼び名でルシアーノは好きではなかった。

 しかし、身体が竦んで言い返すことができない。

「あなたはどれだけ使用人たちに心配を掛けているのかわかっているのですか。あなたのことを愛しているからこそ、立派な大人になれるよう思案して私を雇ったのです。当然、主人であるルシアーノ様にそのようなことをする立場ではないなど承知の上。しかし、処罰を受けようともあなたのために考えてくださったのですよ」
「だ、黙れ! 誰もそんなこと頼んでないだろ!」

 震える声で言い返すと、ライナスが溜息を吐いた。それから「仕方ありませんね」と、ルシアーノの下着に手を掛けた。

「やめろ! 離せバカ!」

 ルシアーノは一層足をバタつかせたが、ライナスはまったく意に介さず下着を膝までずり下ろした。ほんのり桃色になった尻がライナスの前に晒される。
 先程までとは比べ物にならない羞恥心がルシアーノを襲う。瞬時に顔が熱くなり、涙が滲んだ。

 しかし、恥ずかしいなど言っている間もなく、剥き出しの尻を強く叩かれる。バシン、と乾いた音が部屋に響いた。

「い゛ッッ!?」
「恥ずかしいですか? お仕置きはお尻を出さないと意味がありませんからね。恥ずかしいのもお仕置きのうちですよ」
「やめろよ! この変態!」
「私が趣味であなたのお尻を出しているとでも? 私だって、こんな大きな子のお尻を叩きたくなんてありませんよ。でもあなたはまだまだ子供だ。子供には子供のお仕置きがちょうどいいでしょう」

 ライナスは、バシバシと続けざまに何度もルシアーノの尻を叩いた。桃色だった尻は徐々に赤く染まっていく。
 右へ左へ満遍なく叩かれ、あっという間にライナスの尻は真っ赤になった。

 なんとか抵抗していたルシアーノだったが、あまりの痛みと恥ずかしさに涙声がまじる。

「いたっ……痛い、やだ。も、やめろよぉ」
「反省しましたか?」
「……した」
「何で怒られているのか、言ってみてください」

 う……とルシアーノが言葉に詰まると、またバシッと尻を叩かれた。

「ちっとも反省していないじゃないですか。お仕置きを逃れようと適当を言ってもダメですよ」
「してる! してるからもう叩くなよ!」
「お仕置き中ですよ。その言葉遣いをなんとかしなさい」

 咎められ、また続けて尻を打たれる。
 ルシアーノは顔を真っ赤にしながら、ぎゅっと目を瞑った。そして、絞り出すようにか細い声を出す。

「……反省してる」
「何をです?」
「お前に……」
「お前?」

 ライナスが腕を振り上げる空気を感じ、ルシアーノは慌てて首を振る。

「ライナスに出てけって言った……」
「それから?」
「……使用人たち、クビにするって」
「そうですね。目上の人間や、あなたを心配してくれる人たちにそんなことを言ってはいけません」

 これでもう終わりだとルシアーノが安堵した瞬間、再び無防備な尻が叩かれた。

「いたっ、なんでだよ! 反省してるって言ってるだろ!」
「反省してるなら言うことがあるでしょう」
「だからさっきから言って――」
「小さい頃に習いませんでしたか? 悪いことをしたら『ごめんなさい』と言うんです」

 その言葉を最後に口にしたのはいつだったか、ルシアーノは覚えてもいない。それさえ言えば解放されるとわかっているが、なかなかその言葉を口にできなかった。

 すると、また尻が叩かれる。

「痛いぃ!」
「ごめんなさいは?」
「…………」
「あと何発叩けば言う気になりますか?」
「言う! 言うから!」

 火をを突っ伏し、ルシアーノは小さく息を吸い込んだ。

「……ごめんなさい」
「反省しましたか?」
「……した」
「では、あと10発で許してあげましょう」
「え……」

 間髪入れず、バシバシと連続で尻を叩かれた。尻は火を付いたようになり、ルシアーノは溜まらず泣き出す。

「痛いっ! 痛っ、やだぁ、ごめっ……ごめんなさいぃ……も、やめて、あああっ」

 泣き喚くルシアーノを押さえつけ、ライナスはきっちり10発尻を打った。
 真っ赤に尻を腫れあがらせ泣きじゃくるルシアーノを膝から下ろすと、ライナスは部屋の隅を指さした。

「そこで私がいいと言うまで立っていなさい。お尻は出したままですよ。勝手に動いたら、お仕置きを追加しますからね」
「っ……」
「返事は?」
「……はい」

 ルシアーノはしゃくり上げながら部屋の隅に行くと、真っ赤になった尻を出したまま立たされた。
    ぐずぐずと小さな子供のように泣いているのはみっともなかったが、ライナスに逆らう気力などとっくに削がれていた。
 
 しばらくそうしていると、背後でライナスが何やら準備をしている気配が伝わってきた。まさかまだ続きをするつもりではと、ライナスの身体が固くなる。

「ルーシャ」

 突然呼ばれ、ルシアーノはビクリと背中を震わせた。しかし、ライナスの声に先程までの厳しさはなかった。

「そのままこちらにいらっしゃい。ベッドにうつ伏せになって」

 恐る恐る振り返ると、ライナスはベッドサイドでタライから濡らしたタオルを絞っていた。

 何をされるのかと思ったが、足首に絡まった下着とズボンを引きずってベッドに上がった。うつ伏せに寝ると、尻に冷たいとしたものが乗せられる。

「ひっ!」
「冷たいでしょう」

 タオルの上から、ライナスはルシアーノの尻を撫でた。

「冷やしておけば、すぐ腫れもおさまりますよ」
「……自分で叩いたくせに」
「叩いただけではただの虐待です。お仕置き後のケアまでが躾のうちですよ。初めてのお仕置きはいかがでしたか?」
「……痛かった」
「痛みも恥ずかしさも、よく覚えておくことです。普通は小さな頃から、こうしたお仕置きを受けて学んでいくのですよ」

 ふふっと頭上で笑うライナスに、ルシアーノは枕に顔を埋める。そんなルシアーノの頭を、ライナスが優しく撫でた。

「俺にこんなことするやつ、初めてだ」
「大丈夫、ルーシャはこれから私がしっかり躾けて差し上げますからね」

 お仕置きのことだけじゃない、と言いかけてルシアーノは口をつぐんだ。

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